6話
「馬鹿者」
「何すんだ……!」
頭を抱え座り込んでもなお反抗的な目をする子供。
「反省が足りんようだな」
人間の成長は早い。
もう、私と頭一つ分しか変わらない。
「いったい何度目だと思ってるんだ」
目線を外して周りを見渡す。
「言ってみろ、今度は何をしようとした?」
焼け野原を見て溜息をついた。
「篝火ひとつにそんな火力を使う者があるか!」
説教されるのが気に入らないらしく、そっぽを向く姿に苛立つ。
小さなマナがミネルヴァになっていく気がして気がかりだ。
あの悪巧みの為の頭の回転と火力、女王気質が身に付いたりしたら太刀打ちできる人間などいまい。
そうならぬよう躾とやらをせねば私でも抑えられないだろう。
襟首をひっつかみ引き寄せるとマナは思わずこちらに振り返った。
私はすぅ、と空気を体に満たして
「貴様は魔王にでもなる気か!!」
吐きだした。
行く先行く先を焼け野原にするつもりか、そうなのか!と思わざるを得ない。
村の人間が慣れて来たと思えばいつもこうなる。
広く構えた住居が全焼。
姿の見られない山奥ならまだしも(それでも大騒ぎに違いない)人里に下りてくれば人の容姿に人外の力。
「また、引っ越ししなくては」
顔を真っ赤にしたマナにやり過ぎたかとは思うが、この繰り返しのせいで定住はままならず、図らずも流浪の民状態だ。
「いいじゃんか、わざわざ人里で無くても」
頭を垂れた隙に襟を掴んだ手を外し、両の手で私の手を包む。
人の気も知らないで何を言うかと顔を上げれば、若干眉尻が下がっているのが目に入った。
申し訳ないとは思っているらしい。
「グダグダ言っても起こったことは仕方ないな」
どうも、この顔を見ると強く出られない。
ミネルヴァを思い出すからだろうかと思い立ったところで、口癖になり立つある『仕方ない』を吐く。
元々一所に長くは居れないのだから。
年端のいかない子供が魔術を扱うなど目立たない筈がない。
契約印は以前のまま心臓の上でのたくっているだけにもかかわらずこの威力。
本当に契約交わしたらどうなるやら。
頭の痛い思いでこれまた何度目かの復元魔法で借りた屋敷を修復し、最低限の荷物を持ち出す。
世に言う夜逃げだ。
いつものように転移魔術を展開するとこれまたいつものように絡みつく視線に気が付いた。
後方で香る魔力にアイツを思い出す。
「まさか、ね」
ありえないことだと頭の中から追い出した。