5話
一日空いてしまいました、すみません。
「忌々しい奴め」
逃がすべきではなかった、と思っても仕方がない。
話を聞けば、あの武官装束の男が小屋のある森に侵入防止魔術が掛けているにもかかわらず侵入し、こともあろうか荒らしたのだという。
魔術の波動で目を覚ましたマナは私に知らせようと小屋を出たところ、扉の前に男がいて、捕まったというのが事の顛末。
「ただの武官ではなかったか」
こちらに勘付かせず、森の中で何かをするとすればかなりの兵か。
マナの赤く腫れた腕を見れば、かなりきつく縛られていたようだ。
手を当てれば元の白い肌に戻るのでこのくらいなら別にどうとでもなるのだが。
「ウピス、怪我、ない?」
この少年が塔に向かった理由はただ一つ。
私としてはその行動のせいでヒヤヒヤした。
「他に怪我は無いのか」
最近はか弱いことだけじゃない。
無鉄砲で強情さが目立つようになった。
「聞いてるのは、僕」
たどたどしい言葉とそぐわない強い瞳。
ローブの紐を取ろうとするのは私が施した術は治すものではなく移すものと知っているが為の行為。
……無駄に頭が回るから困る。
もっと別の所で使えば良いものを。
溜息をこらえ、追及の手を押さえる為に両腕を巻き込んで抱きしめる。
そうすると大人しくなるのは人間の子供が母親を求める心情。
この子の想像通り、ローブを捲れば紅い縄の跡が付いている。
ソレを見ればどう思うかはもう分かり切っているから、人の心理を利用すればいい。
抱きしめる手は緩めず、柔らかな髪を優しく撫でる。
「私が強いことは知っているだろう。心配はいらない」
心も体も健全に成長し、魔に付け入る隙を与えない、それが魔女になる為の条件。
「僕は、弱い?」
見上げる瞳は先程と打って変わり揺れている。
私には理解できない生き物であるお前が強いのか、弱いのかなど分かる筈もなかろう。
何が健全であるか、など魔の私が知るものか。
調べてはみたが体はともかく(まだ発展途上ということが分かった)心の方は分からずじまいだ。
色々、少なすぎる。
知識も、まともな人間も。
「マナ、この塔は少々不便だとは思わないか?」
また、聞いてるのに無視したとむくれる姿。
寂しそうな表情に心が痛む。
ミネルヴァなら笑わせられたのだろうに、と。
そろそろ頃合いかもしれん、マナにも、私にも。