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4話



 不本意な契約から5年。

 子供はすくすくと育ってきている。

 中々に成長の早い人間は見ていて面白い。

 ……だが、見ていて面白いのは子供だけで、度々の訪問には嫌気がさしていた。


 いつの時代も野心家な国王が納める国家は多々ある。

 そんな国の使者が毎日のように訪れるのには正直忍耐がいるのだ。

 切り殺そうかと思ったことは一度や二度ではないが。


 「私は国同士の争いごとに手を貸すほど愚かではない。一度手を貸せばその味をしめて、何度も通うてくるに決まっている」


 これは500年の間に経験済みなので人間の心理を知らずとも分かる。

 その時は確か大陸の1/4が焦土と化した。

 後で修復させられた苦労は忘れていない。


 何より争いごとに首を突っ込んで人間である契約者を危険にさらすことも避けたい。

 それならば、早々に魔女にしてしまえばいいのだろうが、子供の成長を待たずしていきなり魔女にしてしまうのに多少の罪悪感があるのも確かなこと。

 普通の人間とはか弱いから早く成長してほしい限りだ。


 「どうしても、協力して頂けないのか?」

 目の前の使者に会うのは何度目であるだろうか。

 「何度も言わせるでない。お前達の言う名声も財も権力も興味がない」

 人間の欲があればそそられる言葉なのかもしれないが、人の型を取っていても所詮違う生き物であるせいか興味がない。

 「交渉は成立しないよ」

 さっさと帰ってくれという気持ちを前面に押し出す。

 そろそろ、子供が昼寝から起きる頃だ。


 「それならば、仕方ない」


 あっさりとした返事に拍子抜けするが、

 「こちらも少々急いでおりまして」

 男の一声で開いた扉に緊張が走った。

 絶対不可侵のあばら家で昼寝をしている筈の子供が縄で縛られ、武官の恰好をした若い男に連れられて来たのである。

 「今すぐにでもお返事をいただきとうございます」

 使者は自分の勝利を確信し、嫌らしい笑みを浮かべた。


 「汚らわしい。私を脅すと言うのか」


 無表情を取り繕う子供の眼にはうっすらと涙がたまっている。

 「小さなその子を盾に、恥を知れ!」

 思わず語気が荒くなるが、それさえも面白いらしい。

 「噂は本当らしい。知略の魔女ミネルヴァは新しい少年使い魔に入れ込んでいる、と」

 ソレは色々な勘違いだ、というツッコミを入れたいのをこらえる。

 「その使い魔も能力は随分と低いようだ」

 以前の使い魔との契約破棄は愚行でしたね、とせせら笑う。

 「愚かな。貴様に魔の何が分かる?」

 以前の使い魔が目の前に居るのにもかかわらず分からぬ上に、人の子と魔の違いも分からない。

 そんな人間が私の養い子を馬鹿にするとは。


 「死んで侘びるがいい」

 少量の水を気管に送り込んだのだが途端に咳き込み始めた使者には何が起きたのか分からない。

 「今、貴様の体に毒を仕込んだ。さっさとこの森から出て行かぬと全身に毒が回るだろうな」

 さっさとお引き取り頂こうと出まかせを並べる。

 「何、心配無いよ。すぐに死ぬようなものじゃない」

 私も随分ひねくれてしまったものだ。

 あれもこれもミネルヴァ、お前のせいだぞ。

 私を名の通り、子供と弱者の守護者の本能を存分に利用してやろうと考えるなどお前くらいだ。


 「そこの、使者を置いて行くも連れて行くも自由にすればいい。が、使者の代りに国々へ(・・・)伝えるがよい。これ以上、私を怒らせるな、と」


 使者を背負い、塔から離れていく男の姿に嫌な予感がする。

 「マナナン・マク・リール、何故、小屋から出てきた」

 あぁ、とても嫌な予感がする。





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