3話
昔から言われてきたことがある。
おまえは狩りのこととなると熱くなりすぎる、と。
光の周りには球状の薄い膜が張っている。
どうやら、その中にある光が術士らしく印が薄く発光していた。
長く引き伸ばした胴で球体を囲み込み、
『私の勝ちだ。契約を解いてもらう』
中の光に直接呼びかけても反応は無い。
『まだ強情を張るつもりか、……ならば引きずり出すまで』
柔らかな膜に牙を突き立てる。
存外、簡単にシャボン玉が弾ける音がして光が自分の元へ落ちて来る。
『……』
その存在に唖然とするのが早いか、異空間の異変に気付いたのが早いか。
光を抱くことに戸惑いは無い。異空間から連れ出すことも容易い。
ただ、何とも苦い気持ちである。
「あの女、嵌めやがったな」
口から吐いた言葉は泡となり消えた。
手に持ったタオルは水滴る髪を拭き終われば燃え消えた。
目の前に横たわる死人を見やる。
「どこでこんな方法を見つけたが知らないが」
腕に抱かせた赤子はすやすやと眠っている。
「これは酷すぎやしないか」
もともと、この女は一国を滅亡に追いやる程の策士で。
先見の明に恵まれていたからこその判断だろうか。
「おまえも、結局は人間の女で」
ただの人に戻った女の体は朽ちていく。
ミネルヴァの塔に戻ってきた時、一番最初に気が付いたことはミネルヴァの体の変化だった。
指先は白骨化、他は多少乾燥はしているが変わらないという奇妙な現象。
「人間の女が魔女になるのはまぁ、簡単だからな」
人間の女が魔で体を覆うことで、魔女となる。
その時、魔が体の時を止めてしまうから若い姿のものが多いのだ。
「解くことも、難しくは無い」
魔を放てば、緩やかに時は流れ始める。
「何故、そこまでして、産み落としたのか」
私には理解できない。
「死んでも、よかった、とでも言うのか」
緩やかに流れ始めた時は、体を蝕む。
末端部分から、500年の時が流れていけば、この現象にも説明が付く。
「人間の考えることは分からない」
確かに、小さなか弱いものは庇護欲をそそり、愛しくもなる。
「私には分からない、それがお前達……人の子」
冷酷、無慈悲とまで歌われた魔女、ミネルヴァ。
「結局、お前も私には理解出来ぬ人間だったんだな」
「さて、次はお前の処遇について考えねば」
母親は骨と化した。
「お前の歳で契約を解く儀式などできないだろうなぁ」
溜息をつき、赤子を抱き抱える。
「仕方あるまい、このウピスがそれまで面倒を見てやろう」
契約中に片方が死ねばもう片方も冥界に送られる。
だからこそ、契約とは慎重に行わねばならない。
それが生まれたばかりの赤子とは。
不本意ながら運命共同体だ。
やっと、あらすじまで辿り着きました。