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34話


 「お前が何故ここにいる」

 険の強い声は明らかにこちらを警戒していた。

 「それが分かれば苦労しませんよ……だいたい、俺たちの封印方法も教えちゃくれなかったんですから」

 眠りを望んだ仲間たちに『もう目覚めることはないから』と頑なな彼女はそれ以上、口を開かなかった。

 皆、彼女を信頼し、付いて来た者たちばかり。彼女を疑う者はなく、釈然とはしないものの身を委ねたのだ。目覚めた理由など分かるはずがない。

 「ただ、ひとつだけ思ったのですが」

 「ただ、なんだ」

 「あの人は、本当に俺たちの知るあの人なんですか」



 「魔女と魔の違いが分かるかい?」

 心臓の伸縮がほぼ(・・)停止状態になると同時に魔女の体内には契約者の魔力が流れるようになる。自身を削るのを止めるわけだから、当然寿命は伸びる。が、それは延命にしかならない。緩やかに流れる時を拒否することで即座に死を得られることも特徴だ。

魔はこの通り元は人間だが、

「魔は実体を持たず、精神のみの存在だ」

その為に寿命というものに縛られることもないが終りのない生に縛られることになる。

「この世のものに単体では干渉できない存在だ」

人間との契約をすることでようやく世界に干渉が許される。魔術を行使し、世界の流れを変えることが許可される。

「そうさ。お前はそこで思い至ったのだろうね」



「どういう意味だ?」

「僕の記憶にある彼女と、違うんですよ」

陽炎はとうに消え去っていたが、確かに二つの気配がそこにはある。薄い壁を隔てた場所に存在を感じていた。

「雰囲気の変化、とかじゃなくて」

日々見ていれば気がつかないほどの些細なことで、自身の目を疑ったほうが良いのかもしれない。

「影響していませんか」

だからこそ気がついた、違和感。

「世界が、彼女に。彼女が、世界に」



「私は魔ではない」

この体は僅かながらに成長している。そして、私は契約なしにこの世のものに触れることができる。

「仮契約は契約のうちに入らないからな」

あくまで仮、である。触れるどころか、声を届けることさえ困難だ。

そんな不安定なものの契約解除など朝飯前。そんなものをどうしてこんなに引きずったのか、それが何を意味するか。分かるかい?

「知るかよ」

「利用するためさ」

ふてくされた顔に囁く。

 「私は、知りたくなかったのさ」

人は自身の恥を墓まで持っていくという。

今、その墓の前で立ち竦み、生にしがみつく愚かな自身を。

それこそ、彼女の思惑通り踊っていたのだろう。

「思い出せば、奴に勝てた試しなど無かったが」

どうせ、最期になるのだ。認めてやってもいい。

「なかなかに面白かった」

 くだらないと思っていた世界。欲しくもなかった生。不確かな感情。

 それらは必要なものだと彼女は自信ありげに宣っていた。それをようやく理解した途端、惜しくなった。

 「私はこう思うのだよ、もっと早くに」

 誰しも柔らかな場所はあるものだ。それが、弱点であれ、希望であれ。

 「認めてやればよかった」

 それを、自身の一部だと認めるだけでよかったのだ。

 辛い過去も、傷も、弱音も、過ちさえも。

 「同じように、お前のことも、奴らのことも、―――自分のことも」

 後悔ばかりしていた。この世に存在することが、罪に対する罰だとも思っていた。

 しかし、今はとても清々しかった。

 「ありがとう、と伝えてくれ」

 白の空間が切れ切れになるのを見た。

 私は満ち足りたこの感覚を、忘れないだろう。






彼女の独白になってしまいました……。

未熟者ですみません。

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