表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/36

33話

 強烈な引力の後には浮遊感に襲われた。

 背がのけ反り、軋む音がする。

 一面の緑の中で湿った地面に手をついて、自分の在るべき場所(時代)に帰ってきた事を理解した。

 理解しても、目が離せない陽炎。

 そこだけ違うものが見え隠れする空間で今まで視てきたものが自分の妄想ではないらしいと確信する。

 それが、少しずつ薄れていく。

 「離してくれ」

 一定の間隔で響く土の擦れる音に抵抗し、痛む足に力を入れる。

 「無駄だ」

 体のだるさに加え、言葉を咀嚼することもままならない。

 ただ分かるのは、陽炎の中で佇む彼女がこのままではいなくなってしまうことだ。

 「離せ」

 襟首を掴み、引き摺り続けるアイスブルーを見上げ睨みあうこと数秒、鈍痛が激痛に変わる。

 目の前に振ってくる葉を見て木に叩きつけられたことを知った。

 ふらつく体を木を支えに立ち上がる。

 「戻ったところで足手まといだ」

 木に縫いつけられるようにして掴まれた首に多少の息苦しさは感じるものの、さほど問題は感じない。

 「分からないだろう」

 青年の影になって見えない、小さくなる陽炎に焦がれる程の思いを抱く自分に疑問を感じた。

 ―――あそこに戻りたい。

 それが何故だか分からない。

 「分からない」

 分からないままに焦がれ続けた先に、手を伸ばした。

 「おい!」

 するりと、腕が抜け落ちた。正確に言えば、腕が体をすり抜けた。掴まれていた首もすり抜けて、体が傾いだ。

 「アイツの気がかりになりたいのか、モルス」

 頭の中を漂う靄が一つの形を浮かび上がらせる感覚。

 「お前、俺に堂々と言っただろう」

 冷たいアイスブルー、懐かしい。

 初めての体験に対する不可思議なノスタルジア。

 「アイツのことが好きなんだろ、ずっと側にいたいんだろ、失いたくないんだろうが!!」

 傾いだからだがふわり浮き上がり、宙に腰掛けた。

 「人のこっ恥ずかしい台詞をそんな大きな声で叫ばないで下さいよ、アポロンさん」

 誰かが笑った気がした。



 「私が、お前を殺す、と?」

 殺してどうするんだ、と問う言葉を寸でのところで飲込む。分かり切ったことは聞かない主義である。

 「お前の目的が分かった以上、私がその思惑に乗ると思うかい」

 答えはNOである。

 小刻みに震える子供と共に世界は震える。

 「まったく、もう生きることに飽きたかい」

 その理由に予想が付かないでもない。誰もが通る道でもあるのだから。

 「それとも、もう耐えられなくなったのかい」

 千年の孤独は心を蝕む。心を退化させ、幼子のように奔放、何も感じないと共に痛みに弱くなる。

 自身の周りだけ、異様な速さで世界が回る感覚。自身を残して死に根こそぎ狩られていく様を見て、気が狂ってしまった仲間を多く看取ってきた。

 皆、殺してくれ、だった。

 「この体になって、死ねた者はいない」

 砕いて、砕いて。

 あぁ、何度心を砕いたことか。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ