32話
更新期間がかなり空きました。
ペースが落ちるかと思いますが完結目指して頑張りますので、お付き合いよろしくお願いします。
「正確にいえば、あと少し登って来てくれるとありがたい、だがな」
「は?」
見下ろして来た筈の男を見上げる。
「ま、お前はまだまだ子供だからな。これからがあるだろうよ」
最初は人の顔を伺うように見上げ、次は他を見下すように踏みにじり、今は他の歩んできた道を辿り、同じ位置に立とうとする。
「人間は生きている限り成長するものだからな」
人間の唯一と言っていい美徳。それは、『成長』ではないかと私は常々思う。
赤子は生まれ出た瞬間に呼吸という技術を手に入れる。食事を覚え、地を這うことを本能で理解する。未知の振動を言葉だと理解し操るようになる。
ただ解せぬのは、成長するうちに取捨選択をすることだ。
自身が地を這い続ける存在であることを忘れてしまう。
ただ、願うのは私と同じ轍を踏まないでいてくれることだ。
「絶望の先にも、道は続いていることは忘れないでいて欲しい」
されるがままでいた男は俯いたまま、じとりとした目を向ける。
「何が言いたい」
拗ねたように口をへの字曲げて見せる男はいつの間にか少し背が縮んでいた。
「言葉通りの意味さ。世界に絶望しても世界はお構いなしに回り続け、その上に居るお前たちは目に見えずとも一定の歩みは進めている筈なのさ」
そう。その場で足踏みしているようで、一秒後には違う景色が映るようになっている。
「わけがわかんないよ」
目を逸らそうとする幼子に合わせて身を屈め、笑って見せる。
「要は、私が間違っていたと言いたいのだよ。グスターヴァス」
人は堕ちたらそれで終わり。自分を切り捨てたように他人を切り捨ててきた。
「お前を見誤っていた、すまなかった」
情けない程に震える手を伸ばす。後退する小さな体を引き寄せる。
初めて会ったのは亡国の庭園。
こちらに視線を寄越す小さな少年を暇潰しがてら話し相手にしたことから始まった関係だ。
最初はその小ささに加え、整った顔立ちから少女と思っていたのだが、話すうちにどこか大国の何番目かの王子と判明したのだが。
自分には何もない、そう断言する悲観的な考えを持つ彼の中には幸せになる構図は存在しなかったように感じる。笑うのが下手で、めそめそした子供は気付けば隣を陣取っていた。
生きているのか、死んでいるのか分からない―――それが、グスターのあの頃の印象だ。
どうやら、本質は変わらないらしい。
「お前、どちらにしろ死ぬ気だったんだろう」
私が靡くことを考える程楽観主義でもなければ馬鹿でもない。
あわよくばマナも道連れにとは考えたかもしれないが、私と自身の力量を測り間違えることも無かろう。
私を取り込めば魔力の容量オーバーでグスターの体は砕け散る。
「私を挑発しようという魂胆だったのか?」
大人しかった子供が腕の中からすり抜け離れた。
「そうだよ。自分のものにならないなら、押しつけようと思ったんだよ!」
私に殺させることで、自分の存在を刻みつけようということだったらしい。
「ロマンチストなことだ」
「結局はそうなるんだ」
死にたがりの声は未来を知っているかのように聞こえた