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30話


 手に入れる為には手段を選んではいられない。

 奪われるくらいなら、己の手に掛けてしまおう。





 定期報告の度に伝わってくる彼女の様子から、養い子にしか興味が無いということは分かっていた。

 それが、堪らなく面白くない。

 あの女が力技で作り上げた絶対不可侵領域に引きこもりっきりで情報が入って来ないのにやきもきしたこと数十年。

 入り込む手だてを見つけ、入り込んだら、視線を一身に集めている人間(こども)

 アイツを見つけた時はただの暇つぶしだろうと思ったし、たとえ気に食わないとしても一時の感情でその人間に危害を加えれば後悔する、と言い聞かせた。

 もう、拒絶など、されたくは無かった。

 

 数千年を生きる彼女からすれば人間なんて突風のようなものだと思っていた(・・)

 一瞬だけ意識を奪い、忘れされる……そんな存在(もの)だろうと。


 見た所、印だって穴だらけでお世辞にも契約とは言えぬ代物だ。

 そんなものは上書きしてしまえば済む。

 ―――平和な世の中で力を持つものは減り、まともに契約できる素質のある奴らは希少な存在になった。

 そこで打開策として生み出されたものが仮契約の印。

 用は魔と契約する際、術者の力が足りていない場合に使われるものだ。

 比較的新しく、弱い魔術なので破ることも難しくない。


 まだ、城に閉じこもっているままなら、こんなに心掻き乱されることは無かったのだ。

 

 外に出れば容易に調べが付く簡易魔法。

 彼女ほどの力を持つ者になれば穴を突き、破棄することくらい容易い。

 わざと、その資料を彼女の眼に入るように紛れ込ませても、変わることは無かった。

 ここまできて見ぬふりをして隅に追いやった可能性が頭をもたげ始める。

 あの子供と契約を交わすのではないか、と。

 その声は日に日に大きくなっていった。




 「僕としてはこの辺で終わりにしたかったんだけれど」

 ぎこちなく笑うその様子に引っかかりを覚えるものの、相手はあの策士。

 気を抜くことは許されない。

 景色が揺らぎ、森が、壁が砂山が風に攫われていくように消えていく。

 「できれば、後ろの子に取り次いでもらいたいんだけど」

 今度は口元を緩く持ち上げ、胡散臭い笑みを浮かべる。

 「アポロン」

 背を向けても分かる。

 アイスブルーの魂が私を不安げに見ていることが。

 「後生だ」

 無茶を言っていることも、妹に甘い彼を利用していることも知っている。

 「頼む」

 無理やりこじ開けた穴に二人を取り込み、幻想世界から追い出した。






 

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