2話
「確かにここの筈なのに」
隠れているのか。
「印が不安定なせいで印は役に立たないし」
互いの印は引かれ合う上に、どこに居ても視覚を共有できるようになっているのだが。
つながりが弱いせいか視覚はぼやけて判別できない。
一部屋しかない小屋に一体誰が隠れることができるというのだろうか。
「確かに匂うんだが」
魔の力には独特のにおいがある。
分かるのは魔の中でも、極一部だけども。
何かを隠す為の術に違いない。
「用意周到に香り消しまで使いやがって」
この姿じゃ、限界か。
「狩りの天才舐めるなよ」
逃げ切れると思うな。
ざわり、と体が泡立つ感覚と共に体が縮んでいく。
にゃー
嗅覚が優れているのは本来なら犬だが、魔の匂いを嗅ぎ分けるのは猫に限る。
鼻を引くつかせて、ツンとくるアンモニア臭の発信源を探れば。
『柱時計?』
聴覚も格段に上がったせいか耳に着く一定音が響く。
はて、こんなあばら家にこんな立派なものがあるだろうか。
二、三回行ったり来たりを繰り返せば、奇妙なソレ。
どうやら振り子が見える部分の透明な板はガラスではないらしい。
どの角度から見ても同じなのだ。
普通は角度を変えれば映り込む光の反射の仕方は変わる。
『ふぅん、何か見たことある手口』
踊らされている感が否めない。
が、拘束を解いてもらえなければ帰れない。
試しに前足で膜を押せば足はガラスの中に埋まり、しっとりと水のようなものが纏わりつく。
どうやら、この中は異空間に繋がっているらしい。
前足を舐めると、
『塩辛い』
海の水、か。
深呼吸して思い切って頭から飛び込めば、暗い闇の中で奥に煌々とした光が見える。
姿を猫から海蛇に変え、光を求める。
『捕まえてやる』
私を駆り立てるのは、本能だったに違いない。