26話
「マナ、この部屋から出るな」
―――必ず、迎えに来るから。
正直、そう言われて素直に待つつもりは俺には無い。
つい最近、その類の盲目的信頼は意味をなさないことを知ってしまった。
「いつまでも、そんな言葉で誤魔化されると思うなよ」
単身で敵陣に突っ込んだり、普通の実験のごとく自分の心臓止めるし。
そのせいで何回俺の心臓止まりかけたと思うんだ?
いつだって子供扱いで、俺のこと無鉄砲だ、反省が足りないって言うけれど。
それ以上に危なっかしくて、人の予想の斜め上を突っ切る。
「似た者同士ってことだ」
目の前にいないと心配になる。
もう帰ってこないかもしれない、そんな不安を抱えるくらいなら。
閉じられた扉に手をかけた。
手に掛けた兵士は数知れず。
失った者も数知れない。
そんな中、生き残った同志は心に影を落とした。
兄も私も例外なく、寝食ともに必要の無くなった体が衰弱するほどまでに。
―――燃え尽きた懐かしいラボ、王宮殿。
それが、一歩手前で保たれている。
お世辞にも綺麗とは言えなかった冷たい灰混じりの白は所々煤け、オレンジに染まっているが、確かにここにある。
「政府軍の奴ら、俺がでっち上げた話を信じちまって後悔するだろうな」
前を走る兄の口は軽い。
けれどそういう時は強がっているだけ。
普段飄々とした雲のような人間の皮をかぶる、そんな兄は妹に弱みを見せることを嫌がる。
だから、スピードを上げ、隣に移動して笑う。
「隣に居ていい?」
いつでも、大切なものの前に飛び出せるように。
もう、後悔しないように。
たとえ幻影の世界としても、もう一度。
それが駄目なら、またもう一度。
完璧に成功する現実は手に入らない。
それなら、夢の中で欲張ることくらい許してもいい筈だ。
扉を開き、政府軍と対峙する。
「やあ、元上司の皆さんと多国籍軍の皆さん」
「偉くはしゃいでいるようだが、此処が私の城と知ってのことかしら」
一瞬にして鎮静された炎の代りに木々が生い茂り、その木々には蔦が這い上っていく。
「これ以上、荒らすというならば―――」
言葉を遮って閃光が走った。