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25話

 扉が開かれた先には懐かしい光景の中にいる養い子。

 「ノックくらいしたらどうだ、マナ」

 上下する胸に駆けてきたことが窺える。



 目の前にいる男の思惑通りになって堪るかという気持ちが腹の底から湧いてくる。

 「連れ去られたなら、連れ戻すまでだ」

 マナの精神を取り戻してからでも答えを調べることは遅くない。

 誰かの記憶はこの男の中にあるのだから、マナを探せばそれは見えて来る。

 手を握りしめ心を落ち着かせると翡翠の瞳に視線を合わせ、飛び込んだ。


 目を開けばひたすら続く廊下が現れた。

 男の瞳と同じ色の空間は薄暗く、熱を帯びている。

 そんな中で辿るのは弱弱しく金の光を放つマナとの契約印。

 この先にマナがいる筈だ。

 幾つもの扉を通り過ぎ、ひとつの扉に辿り着いた。

 ひとつだけ深い紺の扉の中に光は続いている。

 一度、失ったその色。

 守ると誓った、大切な色。

 瞼に隠され、見えないその色。

 ゆっくりと手を伸ばし、触れた。




 白衣を肩に引っかけ、ベッドから立ち上がる。

 「ウピス……?」

 「とりあえず、中へ入ってきたらどうだ」

 まさか、此処に現在の私がいるとは思っていなかったのだろう。

 扉を閉め、目の前にやってきたマナの頬に手を添える。

 「思っていたより馴染みが早いようだ」

 どれも3000年前と違う行動にマナと体の持ち主の境界線が曖昧になっている事を悟る。


 「お前の記憶だったのだな……」


 そう言ったウピスは目を伏せる、その仕草に息が詰まる。

 長いまつげの隙間から見えた潤んだ瞳に心を揺さぶられる。

 これは懐かしさ、だけの感情なのだろうか。

 泣き出しそうになるその声にあてられそうになりながら、震える手を伸ばして頬に触れる。

 「泣きたいの?」

 空気ばかりが漏れ出して声が掠れる。

 「……大丈夫だ」

 必死の思いで伸ばした手を下され、頬にあった彼女の手も下ろされた。

 「帰ろう、元の世界へ」

 ―――此処も安全ではない。

 そう言うか言わないかのタイミングで扉の向こうから銃声が響いた。


 「アル!大丈夫か、俺だ!いるなら返事しろ!!」

 感傷に浸る暇さえ与えてくれない、過去の兄。

 そうは言っても、感傷に浸るなどしたことなかったのだが。

 このままでは済まないだろう。

 大人しく扉を開ける。

 「何事だ」

 本当は知っている。

 「国の奴らが俺たちに危険集団の印を押した」

 薄暗い窓の外に蔓延る紅蓮。

 銃声と爆発、軋む建物の音にあぁ、始まったのだなと思う。

 「近々そうなるとは思っていはしたが」

 「どうやら、研究員(アイツら)が上訴文をだしたらしい」

 詳しく言わないのは私の実験に関することで出されたものだからだ。

 「確かに。使用者に従わぬ武器は危険物だからな」

 「んな、呑気に言ってる場合じゃねぇぞ」

 珍しく慌てる兄に、若さを感じる。

 「上層部も思い切ったことをしたものだな。小さいとはいえ一国をたった一人で落とした女がいるというのに」

 半日の強制休暇の日は普段から働きづめの研究員達を休ませる為、と言うのは嘘ではない。

 ただ、私のスケジュールを隠す為でもあった。

 最近きな臭いと睨んでいた王国に攻め入ったのだ。

 魔術を陣無しで連射するものに対抗できる筈も無く、数時間国境で足踏みしたものの王城は崩壊。

 武力など持たなかった小国は異常な戦勝を大陸に名を轟かせた。

 「お前が心臓を止めたことが漏れていたらしい」

 用は、私が上からの命令に素直に従ったと―――つまりは死んだ、と確信したということだろう。

 「ふん。愚か極まれり、だな」

 「行動を起こすには早すぎやしないか」

 「私達を道具として扱っていたんだ。いつかはこうなっただろうよ」

 アポロンが正確な研究書類を出していなかったことも、この襲撃に一役買っている。

 「国を出るのにいい機会だしな」

 ここから、アポロンが私達から離れることは無い。

 違和感なく戻ることも難しい。

 タイミングを逃したと思いつつも、過去を変えられるかもしれないなどと思ってしまった。


 ―――囚われたのは私の方だったらしい。




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