22話
マナから視点が変わります
☆はウピス視点です
マナ視点に戻る時は※になります
青い顔をしたウピスが気になったのはこの体の主も一緒だったらしく、後を追う。
「副所長、そんなに動揺する程、重い病気なんですか!?」
この体と思った以上に思考が重なるようになった。
視点も同じ。此処に本当に俺がいるように錯覚することが増えるのは問題だ。
「いや、生きている分には問題ないのだが……」
歯切れの悪さに先を促すのを戸惑うが、体は正直。
「なら、何だってそんなに動揺するんです?」
本当は心当たりがあって、黙っているのではないかという風に疑ってしまう。
「いや、お前には関係ないから……」
はぐらかそうとするのは丸見えだった。昔は嘘が下手だったらしい。
誤魔化されたりしない、と口を開こうとしたところで、
「……関係無いってことは、ないな」
そう言って、一歩近づいた。
「あくまで私の推測だから、明日まで黙っていてくれ」
そう言って、簡潔にその内容と理由を話すと足早に去っていた。
耳まで真っ赤なウピス、貴重なのだが、自分も真っ赤だと思う。
―――人の老いを止める可能性がある。
推測に驚かされたのは認めるが、現在のウピスがいるのだ、そんな反応はしない。
原因はその推測に至った理由だ。
「『月のモノが来ていない』なんて」
男に言うことか!!
聞きたいと思った俺がいたんだけど、これは聞かない方が良かったかもしれない。
☆
「僕も、君と同じ。老いない体になった」
目前に迫った男への言葉はもう出なくて、獣のような威嚇するような唸り声が響く。
「やっと同じ土俵に上れた、そうだよね」
とうの昔に役目を放棄した心臓が収縮した気がする。
「その子の手を離して、僕の手を取ってよ」
腕に抱く少年に重みを感じなくなってきた。普通は重みを増して行くように感じる筈なのに。
「……その子を手放せないなら、それはそれで仕方ないや」
笑みに再び狂気が混じりだす。
「じゃあ、彼を含む僕なら、受け入れてくれるよね―――」
※
午前の健康診断の後、半日の強制休暇が明けて、緊急招集。
その場で、副所長が検査結果を発表した。
ざわつく研究員達は一瞬にして静まり返り、それ以降一人として声を発したものはいなかった。
それぞれが自室に戻るなか、俺は動かない。
「✗✗✗、」
「あれ、どういうことですか」
震える声に彼女は、言う。
「すまない」
何に対しての謝罪なのだ、それは。
「皆の人生が無茶苦茶だ」
自責の念から、そんなことまでするのか?
「そんなことじゃないでしょう!?」
それではすまされない。
そんなことして、責任をとるというのか。
燻ぶる感情のぶつけ場所が無くて、目の前の彼女に掴みかかる。
「実験台になるってどういうことですか!本当にそれで良いんですか!?」
彼女が良いと言っても、未来を知っていても、そんなことは認められなかった。
「俺は嫌です!!貴方が死ぬかもしれない、そんな……そんな、実験」
―――私と所長の心臓は止まりかけているそうだ。原因は刻みつけた陣の数だろう。
深く、頭を下げて、俺たちに伝える、推測。
2つ3つ位で人間の老いのスピードを緩めるらしい。
その十倍近くの陣を刻みこんだ二人の心臓は心停止のラインをかつかつ超す程度しかないらしい。
「何で、心停止まで陣を刻むなんて、無茶する必要があるんですか!?」
「それが、私の役目だ」
所長は反対しているが、これは私が望んだことだ。
だから、反対してくれるな、と。
そう言うと、俺に背を向けて扉を潜る。
本当に独りぼっちになったようで、立ち尽くしていた。
12/11/5 改