1話
「……何?」
こんな現象、初めてなのだが。
あまりにも長い期間こっちに居たせいかな、いや、そうであってくれ。
もう一度、右手を裂け目へ入れる。
バチチッ
先程よりも小さな音と衝撃が走り、はっきりと拒絶された。
「まさか」
まさか、でもこんな現象はソレしか知らない。
でもどうやって?
与えられた黒のローブの紐を解き、投げ捨てる。
胸元を肌蹴させれば、
「薄いけど、ある――――」
右胸には薄いが、黒いインクがのたくった様な印が形を定めず動き回っている。
「定まっていないのは正式な印じゃないからだろうけど」
使い魔は魔女と契約することで人間界に渡ることができる。
契約すれば契約印が互いの心臓の上に世界に一つしか存在しない互いの印が現れ、互いの位置やらの諸々が分かる。
そして、その印があると魔は帰ることができない。
契約は果されるべきものと決まっているのだから。
指で印を突きながら唱える。
「汝の場所を示せ」
こういう場合は本人にさっさと解放して貰うに限る。
無理やり引き剥がしたが為に代償として片眼が空洞になった者がいる。
魔族が人間に比べて回復力があるとしても、中身が持ってかれたんじゃ再生しようがないのが実際のところで。
心臓持っていかれた奴の話は聞いたことは無いが、持っていかれたら即死だから伝えようがない。
「そんな間抜けた死は御免だ」
目を閉じればそう遠くないところにあばら家があるらしい。
向こうは動く気配もなければ、話しかけても反応もしないといういい加減ぶり。
「契約違反者が偉そうに」
時々いるのだ、魔女が魔族を一方的に使役するのが普通だと勘違いする奴が。
若さゆえに傲慢。
そこで対応を間違った魔女は不利な条件を付けられたりするのだから、若さは命取りだ。
そして、そんな怖いもの知らずは新米だ。
「契約出来るようになったばかりの新米魔女」
引き戸を勢いよく開き、大きな音を立てる。
こういうのは最初にバシッとやってしまうに限る。
「契約とは対等に結ぶべきであって同意無しに結ぶものではないのは初歩だ」
こっちは出鼻を挫かれて不愉快極まりない。
交わした覚えのない契約のせいで帰るべき場所に帰れないなどいい迷惑だ。
「……いない」
さらに、出鼻をくじかれた。
思わず傍らにあった椅子を蹴り飛ばした私は悪くない、筈だ。
一つ一つを短めに、一定の投稿を目指そうと思います。