18話
蒸発した水分は視界を遮る靄に変わる。
「マナ、離れるな」
腕の中に引き入れ、相手を迎え撃つ準備を整えた。
靄を凍らせ、地面に落とすと氷の花咲く地面に降り立ち、微笑む男が現れた。
「会いたかった」
「私は会いたくなかったがな」
黄金の髪、翡翠の瞳。
「お前が魔女になったとは知らなかったな」
―――そうと知っていたなら?
「僕の使い魔になってくれてた?」
「その前に消していただろうよ」
高くも無く、低くも無い声は耳から離れない。
「随分と嫌われちゃってるね」
寂しいな、なんて言っていはいるがどこまで本気か分からない。
「それだけのことはしたと思わないか?」
「君に会いたいが為だけにあれだけしたんだ、少しは靡いてくれてもいい気がするんだけど」
どこまでも幼い、少年。
体だけは立派に成長し、背丈は自分を凌ぐ。
「会いたいが為だけにわざわざ戦争を起こす馬鹿と契約する程退屈してない」
今はどうか知らないが、とある国の王子だったこの男とはとある国で出遭った。
その国で遊学中だった少年はその国の軍師として雇われた魔女の使い魔に異常な執着を見せたのだ。
あの手この手で自分の側にいろとせっつく少年に飽き飽きしていたものの、私本人に言うくらいなら構わないと思っていた。
……のだが、当時の契約者のミネルヴァに、自国の父(国王)の名を出して契約の排除を求めて来るようになった。
当然、断っていたが。
3年後、帰国したソイツに胸を撫で下ろしたものだったが、その数ヵ月後、とある国に宣戦布告したのだ。
そこからが面倒な話である。
国々を転々として、細々と暮らしていたというのに私達が属した国々に宣戦布告するという暴挙。
無駄に頭の回るその男は私達が行ける場所を狭めていった。
それに、痺れを切らしたミネルヴァはそれ以上の悪知恵で絶対不可侵の土地を手に入れたのだが。
簡略化してしまうと私のストーカーということになる。
「つい最近まで退屈そうだったのに……その腕の中に居る子供が原因なのだろう?」
歪む顔、光る翡翠はマナを射殺さんとするように鋭い。
「だったら何だ」
「気に入らない。飄々としたその仮面を外したくて、追いかけ続けていた女がぽっと出の子供ごときで取られるなんて、ね」
ピリリとした異様な空気に眉をしかめる。
「お前、何をした」
数十年そこらしか生きていない魔女の力にしては視認できる程の濃すぎるそれに背筋が冷える。
「何って?君と同じことをしただけさ」
私自身が、そのおぞましさから破棄したものだ。
それが何故、ここにある。
「ねぇ、そこに居る君はこの女のどこまで知っている訳?」
12/10/29 改