16話
「オカアサン?」
それは、母親って意味か?
「違うの?」
違う、と勢い良く否定しかける己を抑え込む。
「誰が、そんな話をしてくれたのかな」
予想外の事態に陥りそうである。
先程の怯えた顔が穏やかになってくる程に危機を感じる。
しかもその前に何か付いてなかったか?
「お父さんが、新しいお母さんを連れて来るって」
「ちょっと、待って。新しいお母さんってどういうことだ」
私には理解しづらい複雑家庭なのか、と若干違う方に流されながらも先を促す。
「そこに居るミルファもカトレアもお母さんなんだって」
そう言いながらメイド姿の魔を見る。
「そうそう、扉の所に居るアデラだってかっこいいけどお母さんだって言ってた」
饒舌になる少年の言葉に基本の穏やかな笑顔にこちらの忍耐の限界が来ていることを悟る。
意味が分かって言っているのだろうか。
それって、国の頂点に居る人間が行うやつか?
実母以外の母親、愛人……ここでは妾と呼ぶのだったか。
「ここに居る三人が母、と言ったか」
色々と深みにはまっていく気がする。
「ウピスを入れたら4人だよ」
間違えてはならない、全員、少年の母とはなりえぬ存在。
もう一度言う、人外だ、人の母とはなりえない。
『ウピスが、僕の母さんなの?』
小さな村に移り住んで、ようやく落ち着いてきた頃だったか。
近所の子供が私のことを『マナの母さん』と呼んだらしかった。
それに答えたように、答えることが出来ないのはどうしてだろうか。
私は人外で、お前の母にはなれないのだ、と。
かたり、と扉が開く音がした。
「息子もすっかり懐いているようだ」
扉の向こうからこちらに向かってくる男、それがどうやら件の魔女であるらしい。
緋色の瞳に少年のような弱さを感じることも無いが、かといって兄から聞く狂気も読み取ることはできない。
「さぁ、カルヴィン。向こうの部屋で遊んでおいで」
それはここ数年よく見ていた風景とよく似ていた。
遠退いて行く子供の姿を追えるところまで目で追い、声が届かない距離になった所で残された魔女と視線を合わせる。
「いい子でしょう?」
「随分と可愛がっていらっしゃるようだ」
村で見た親子と変わらない、その様子がとても意外ではあったが。
「えぇ、私はあの子を愛しています」
「私達には人間の感情は分からない。それでも、そんな魔達を母親にする気か?」
そんな仮初、いつか崩れるものだ。
「ソレで傷付くのはお前では無いように思うが」
「貴方は面白い。実に面白い……まるで人間のようだ」
「順を追えば誰にでも予想は出来る」
「だから、貴方が欲しかったんだ」
全く話にならん。
「何故そうなる。私達を追いかけまわす理由と母親探しの関係はどうした」
話がかみ合わないままでいる様子だけを取れば、キチガイかもしれない。
12/10/29 改