15話
「あなたが、主?」
目線の先に居る男はとてもではないが兄が言っていた凶悪な人物とは重ならない。
線の細さは女と見紛う程で、こちらを見る瞳は泳いでいる上に濡れている。
瞳と同色の緋色のマントも着ているというより着られている有様。
そして、年の頃はマナと同じと思うのだが怯えたように見えるその顔はさらに幼く見えた。
「……な訳無いな」
後ろに付き従っているアポロンは私の存在なんて知らないとばかりに下を向いているので話にならない。
周りに居る三人の魔も教えてくれなさそうだ、とくれば聞ける人は一人しかいないではないか。
「君は誰?」
しゃがみこみ、視線を合わせた。
途方に暮れる。
行き先のメモがある訳でもなく、かといって契約は曖昧の為に居場所が特定できない。
魔の香りだって遠くに離れれば砂漠の中の砂金と変わらない。
曖昧なものと知っていた筈だった。
いつだって、側に居て、手を伸ばせば届く距離。
側にいる、と盲目的に信じているから。
「根拠もないのに」
「その通りだな。お前の怠慢だ」
後ろから聞こえた声に振り向くと彼女に似た容姿を持つ青年がいた。
至極悩ましげである。わざとらしい程に。
「アイツ、色々と勘違いしたままでひとり飛び出すから」
「勘違い?どういうことだ?」
俺の血を奪うことが目的じゃなかったのか?
「……今、アイツが仮契約でフラフラしているのが一番危ない―――とにかく行くぞ!」
あの男の目的はウピス―――?
いつもマナにやってきたように頬に手を当て、眼と眼を合わせる。
やはり人の子、温かな手は安心させるのに一番効果がある。
上気した頬、潤んだ瞳。やはり子供は可愛らしい。
「貴方が、新しいオカアサン?」
無邪気な言葉で心を揺らがすまでは。
12/10/27 改