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螺旋  作者: 悠羽
6/8

第六話 見舞い

病室は、

 いつ来ても

 同じ匂いがした。



 消毒液と、

 乾いた空気。


 時間が

 止まった場所。



 彼は、

 眠っている。


 もう、

 何年も。



 最初の頃は、

 毎日来ていた。


 話しかけて、

 名前を呼んで、

 手を握って。



 返事は、

 なかった。



 それでも、

 信じていた。


 起きると。


 いつか、

 必ず。



 年下だから、

 待てると思っていた。


 時間があると、

 思っていた。



 でも、

 時間は

 私のものじゃなかった。



 仕事をして、

 生活をして、

 年を重ねて。



 彼は、

 何も変わらないのに。



 それでも、

 私は

 来るのを

 やめなかった。



 結婚してからも。



 指輪を

 外すことは

 しなかった。


 外す理由も、

 つける理由も、

 分からなかったから。



 今日は、

 少しだけ

 長く

 居ようと思った。



「ね」



 返事は、

 ない。



 分かっている。



 ベッドの横に

 座る。


 彼の手に

 触れる。



 冷たい。



 それなのに、

 なぜか

 離せなかった。



 今日で、

 最後にしよう。



 何度も

 そう決めて、

 何度も

 破った。



 理由は、

 簡単だ。



 私は、

 まだ

 彼を

 終わらせられなかった。



 手を、

 少しだけ

 強く握る。



「……行かないで」



 小さな声。


 自分でも

 驚くほど

 弱い声。



 そのとき、

 彼の指が

 わずかに

 動いた気がした。



「……え?」



 気のせい。


 そう思う。


 そう思わないと、

 困る。



 私は、

 ゆっくり

 手を離した。



「また来るね」



 約束は、

 しなかった。



 病室を出る前、

 振り返る。



 彼は、

 相変わらず

 眠っている。



 でも、

 なぜか

 胸が

 ざわついた。



 あの人は、

 どこかで

 目を覚ましている気がした。



 それが、

 ここじゃない

 どこかだとしても。



 私は、

 廊下を歩く。



 時間は、

 進む。


 止まらない。



 それでも、

 私は

 少しだけ

 立ち止まった。



 あの手の感触が、

 まだ

 残っていたから。


第七話:引き戻される

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