第三話 介入
今日は、
立ち止まらなかった。
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目を覚ました瞬間、
時計を見ない。
日付も、
確認しない。
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どうせ、
同じだ。
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私は、
家を出る時間を
三分早めた。
コーヒーは、
飲まない。
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駅前の道も、
いつもとは
違う側を歩く。
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事故の場所を、
避けるためじゃない。
事故を、
避けさせるためだ。
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横断歩道の手前。
昨日と同じ時間。
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私は、
そこに立っていた。
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視界の端で、
人影が動く。
スーツ姿の男性。
昨日とも、
一昨日とも
違う人。
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彼が、
前に出ようとする。
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「待って」
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声が出た。
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彼が、
振り返る。
不思議そうな顔。
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「信号、
まだですよ」
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私は、
それだけ言った。
理由は、
言わない。
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男性は、
一瞬迷ってから
足を止めた。
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胸が、
大きく鳴る。
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変えた。
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私は、
初めて
確信した。
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信号が、
青に変わる。
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人の流れが、
一斉に動く。
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その瞬間だった。
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背後から、
強い力が
ぶつかってきた。
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誰かが、
転ぶ。
悲鳴。
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私は、
振り返った。
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倒れていたのは、
さっきの男性では
なかった。
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若い女性。
スマートフォンを
見たまま
歩いていた。
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彼女は、
道路側に
よろめく。
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エンジン音。
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ブレーキ。
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間に合わない。
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音が、
重なった。
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私は、
目を閉じた。
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——死なない。
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分かってしまう。
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救急車。
人だかり。
時間は、
やはり
進む。
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私は、
立ち尽くしていた。
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助けたはずだった。
止めたはずだった。
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それでも、
事故は
起きた。
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違う人に。
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会社へ向かう電車。
今日は、
二分遅れ。
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一分、
短い。
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私は、
その違いに
なぜか
安堵していた。
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世界は、
完全に
決まっているわけじゃない。
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でも、
自由でもない。
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夜。
ベッドに
横になる。
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私は、
考え続けた。
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もし、
全部を
止められないなら。
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もし、
誰かが
必ず
倒れるなら。
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私は、
何を
選べばいい。
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目を閉じる。
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眠りに
落ちる直前、
ふと
思った。
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この世界は、
私が
中心じゃない。
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それなのに、
私だけが
知っている。
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それは、
罰なのか。
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それとも、
試されているのか。
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答えは、
まだ
出なかった。
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ただ、
分かったことがある。
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私は、
もう
見ないふりは
できない。
第四話:温度




