第一話 螺旋
目を覚ましたとき、
時計は七時四十二分を指していた。
いつもと同じ数字だ。
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カーテンの隙間から、
朝の光が差し込んでいる。
天気は、晴れ。
昨日も、
たしか晴れだった。
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スマートフォンを手に取る。
日付を見る。
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——四月十七日。
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胸の奥に、
小さな引っかかりが残った。
理由は分からない。
ただ、
知っている気がした。
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このあと、
コーヒーを淹れる。
少し苦い。
砂糖は入れない。
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キッチンの床が、
わずかに冷たい。
マグカップの取っ手が、
少し欠けている。
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全部、
初めてのはずなのに。
全部、
見覚えがある。
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玄関を出ると、
向かいの家の犬が吠えた。
タイミングまで、
予想通りだった。
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駅までの道。
信号は、
赤。
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次は、
青になる。
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そう思った瞬間、
信号が切り替わった。
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胸が、
ひとつ、
跳ねる。
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偶然だ。
そう言い聞かせる。
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横断歩道を渡りながら、
視線が、
自然と
右側に向いた。
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——八時三分。
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ここで、
事故が起きる。
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頭の中に、
唐突に
浮かんだ。
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想像ではない。
予感でもない。
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知っている。
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「……?」
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自分の考えに、
自分で戸惑う。
そんなはずはない。
今日は、
今日が初めてだ。
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でも、
体は緊張していた。
呼吸が、
浅くなる。
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次の瞬間、
遠くで
エンジン音が
跳ねた。
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ブレーキ。
クラクション。
鈍い衝撃音。
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人の声が、
重なって聞こえる。
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横断歩道の向こう側で、
誰かが倒れていた。
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見知らぬ人。
それなのに、
私は
目を逸らせなかった。
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——死なない。
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また、
分かってしまう。
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救急車が来る。
担架が運ばれる。
人は集まる。
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そして、
時間は進む。
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私は、
何もしていない。
助けようとも、
止めようとも、
していない。
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それなのに、
胸の奥が
ひどく
ざわついていた。
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駅のホームに立つ。
電車は、
三分遅れ。
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それも、
知っていた。
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風が吹く。
アナウンスが流れる。
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私は、
ふと
思ってしまった。
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もし、
明日も
同じ日だったら。
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そんなはずはない。
世界は、
ちゃんと
進む。
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そう信じながら、
電車に乗り込む。
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窓に映る自分の顔が、
どこか
他人のように
見えた。
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この日が、
何度目なのか。
その答えは、
まだ
浮かばなかった。
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ただ、
一つだけ
確かなことがある。
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私は、
この日を
知っている。
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理由は、
まだ
分からないまま。
第二話:確認




