短編版「掃除記~人類の清掃を始めます~」
短編の小説です。暇だったら連載します
※連載版では少しだけ設定が変更される可能性があります
掃除の始まりは縄文時代からとされている。しかし、当時はこれといった掃除道具はなく、決まった場所にいらないものを捨てるだけの作業だったと言われている。そして飛鳥時代、仏教思想から、貴族の間に「掃除」をするという考えが広まっていった。そんな長年の文化をより楽にした物…それが「掃除機」である。1868年、アイヴス・マガフィーによる手動式真空掃除機の発明に始まり、進化し世界に普及していっている。ちなみに私は最新型の掃除機(59,800¥)でして...
これは、掃除嫌いの青年と掃除機の美しい物語である
「不規則動詞ってなんで存在するんだよ…別に不規則にしなくたっていいだろ…」
この道で単語帳を見ている彼。名前は払出健。中学一年生である。健は勉強も運動も人並み以上にできる。顔立ちも整っており、周囲からは羨望の視線を浴びることが多かった。
しかしそんな彼にも致命的な欠点がある。それは…
掃除を一切しない
雑巾がけをしていて廊下で膝を擦りむいたとき、教師は眉ひとつ動かさず『やり直せ』と言った。あの日以来、掃除は嫌いになった。
「健!また掃除しないの?いい加減できるようになったほうが良いよ」と健の姉の声が聞こえる。
「無理」と健は断っった「全くもう…今日だけはやってあげるからね」と言いつつこれを言うのはもう700回を超えてしまっている。「昼だけどもう寝る」と言い健はベッドでかけ布団にくるまった。
ここからあんなことになるなんてことは…健は知らなかった
「ふぁぁぁ…よく寝た…」起きて最初に見たものは寝起きでも目を瞠るほどだった
そこにはなんと、見る限りの地平線が広がっていた。
「...!」健は驚いて声が出なかった。見渡す限りの土の地平線が広がっていた。家も、隣のマンションもも、駅も――何もなかった。
健は冷静でいられるはずがなかった。
足は震え、ただ立ち尽くす。
十分が過ぎたのち、ようやく我に返ると、健は走り出していた。
足音が、乾いた地面に吸い込まれる。
人の声はしない。風だけが耳をなぞった。
走っても走っても何も無い。健は最早あの世に行ってしまったと錯覚するほどであった。「せめて誰かに合わなければ…!!!」健は走り続けた。
何処かにいる誰かを探して――ただ、ひたすらに。
「これは…?」健は起きてから初めて地平線ではない物を見た。それはもう既に東京を本人も驚くほどかなり走ったことを証明した。
「山だ…た…高尾山だ」高尾山は八王子市にあるはずだ。つまり健の家がある葛飾区から八王子市まで走っていた。気づけば、半日以上走り続けていた。しかし問題はそこではなかった。健が最初に見たのは独りでに動く謎の機械。よく見ると
そこには―― 掃除機がいた。
「……何だ、あれは」健は思わず変な声が出た。
健は理解できなかった。ただの掃除機が、まるで獣のように彼を睨んでいたからだ。
その自立した掃除機は赤い光は獣の瞳のように健を射抜いた。
健は胸の鼓動が耳に響いているのを感じた。赤い光が何なのか、理解できなかった。しかし健の中にある本能が悲鳴を上げている。
「逃げなきゃ…」と本能的に察して逃げようとした。しかし足に何かが引っかかって動けない。足元を見るとそこには何も引っかかってなかった。健は心臓が耳の奥で鳴り響き、足は石のように硬直して動かなかったのだった。
「…」健は死を覚悟して気絶してしまった。気絶する前に銃声のような音がした。おそらく銃で撃たれたのだろう…。
目が覚めるとあの世ではなくコンクリートの少し溝が入っている感じの天井が見えた。駐車場のような地下室だろうか…。健は包帯の下がズキズキと痛むたびに、あの赤い光が脳裏にちらついた。
――あれは夢じゃない。確かに俺を睨んでいた。と思った。
そこにはベッドが複数置いてあり、簡易的な台所などもあった。そして健のの体には包帯が巻かれている。「ここは?」健は理解が追いつかなかった。 「目を覚ましたぞ!!」と声が聞こえた。
そこには白髪の青い作業着の男が立っていた。笑顔は爽やかだが、目の奥には徹夜続きの疲れが滲んでいる。 「…ここはどこですか…?」健は聞いた。
すると清掃員のような男は口を開いた「ここは避難所みたいなものだよ」男は紙コップに水を注ぎ、健へ差し出した。「……まぁ元々はショッピングモールの地下駐車場だったんだけどね」と清掃員のような男は語る。
「避難所……?」
健は水を受け取りながら、まだ頭が追いついていなかった。
「でも確か僕は撃たれたはずじゃ…」
清掃員の男が入口の方を顎で指す。
健が振り向いた先、駐車場のスロープから迷彩柄の服装をした女性が現れた。長い茶色の髪を後ろで束ね、黒い二丁拳銃を提げている。
「目を覚ましたのね」女性は落ち着いた声で言った。
「……あなたが?」健は思わず呟いた。
「ええ。あなた、赤い目をした掃除機に襲われていたでしょう? あれを撃ったのは私。銃声が聞こえたはずよ」
「じゃあ……あの銃声、やっぱり……掃除機を撃った音だったんですか?」
女性は無言でうなずいた。
健の喉がごくりと鳴った。自分は、ほんの紙一重で命を落としていた。
「安心するのはまだ早い」
女性は視線を鋭くした。
「やつらは群れで行動する。あの一台を倒したところで、また別の掃除機が追ってくるわ。私達はとにかく掃除機と戦って、みんなを助け出さなければならない――。」
「…!」健は気付いた。そもそも健たち以外の人が生きている確証はない。健は失礼ながら聞いてしまった。
「その人たちは生きているんでしょうか…?」口にした瞬間、胸の奥がひどく痛んだ。
「生きてるって確証はない。でも……もし、たった一人でも残ってるなら……私は命をかけて守る。」
彼女の言葉に、健は強く震わされた。「亡くなった未来は帰ってこない。だからこそ――今ある未来を守りたい!…いや…守る!」
銃を握る指先がわずかに白くなっていた。
本当は彼女だって恐怖に押し潰されそうなのだ。
だが、弱音は吐かなかった。
彼女の青い瞳には覚悟があった
彼女はそれでも前に進もうとしている。
健の胸に熱いものが込み上げた。
健の脳裏に、姉の笑顔が一瞬だけ浮かんだ。胸の奥がずきりと痛み、全身の血が逆流するような感覚に襲われる。気付けば、健は叫んでいた。
「……俺にも姉がいました!もし姉が生きているのなら……いや、誰か一人でも生きているのなら――俺も守りたいんです!どうか、俺にも行かせてください!」
彼女は言った「一緒に来てくれるのか…!…あ、自己紹介がまだだったな…私は椎名美咲。よろしく」
美咲は銃を軽く腰のポケットに入れ、にっこりと笑った。
清掃員の男も口角を上げ、手を差し出す。
「僕の名前は田島清。田島でいいよ。よろしくね」
これは、掃除嫌いの青年と仲間達の美しい物語である
短編版 掃除記~人類の清掃を始めます~ ~完~