2.荷物送り
僕の名前は、ジル。熊本県に住む大学1年生の佐藤桜の子犬のぬいぐるみだ。桜には、日葵という姉がいる。日葵は、東京の大学に通っている大学3年生で、一人暮らし。
桜のお母さん、明子が日葵に荷物を送るようで、段ボールの用意をしている。風邪を引いた日葵に手作りのかりん湯送るらしい。どうやら段ボールの中は、まだ空いているようだ。
「うーたん、僕、段ボールの中に入って大阪までスピくんに会いに行きたいよ」
うーたんというのは、子うさぎのぬいぐるみ。名前はうさ。僕はうさのことが大好きで、きっとうさも僕のことが大好き!?(僕はそう信じてるよ)うーたんは、ラベンダー色で大きなたれミミが特徴的だ。性格は、お嬢様気質なんだけど...本当にかわいい。そして、スピーくんは、日葵が持つ鹿のぬいぐるみ。桜から何度もスピーくんの写真を見せてもらっているけど、青色で、たれ目とずんぐりむっくりな体、短いつのがなんともかわいらしい。
「ジルくんが大阪いくならうーたんも行く!」
うーたんが答える。
「じゃ、一緒行こうよ、段ボールの中に入ってしまおう」 僕はうーたんに呼びかけた。スピーくんに会いにいきたい!
よいしょ。ジルとうさは、段ボールの中にちょこんと入った。あ、桜がこっちに来る。
「お母さーん、ジルくんとうーたんがまた段ボールの中に入ってる、スピーくん会いたいのかな」
明子も来る。
「そんなことしたらあんたが許さんでしょ」
「許さん許さん」
「ほら、ちゃんと元の場所においてあげて」
計画失敗。桜に止められちゃった。
桜もスピーくんのことが大好きだ。
「お母さーん、私スピーくんに今年も年賀状書くよ。去年スピーくんにダイエットしますって書いたら、成功できたもん」
どうやらスピーくんに年賀状を書くらしい。今日はもう1月10日なんだけどね...なんて書くのかな?よいしょ。僕は桜の机に飛び乗り、手元を覗き込んだ。
“スピーくんへ あけましておめでとうございます。緩やかな1年になりますように。”
「あー間違った、穏やかって書きたかったのに緩やかなって書いちゃったどうしよう」
なんてあほな子だ。桜の漢字の間違いはひどい。ときどき、とんでもない漢字を作り出すこともある。
“スピーくんに会いたいです♡ジルくんも会いたいって!”
やったー。僕も会いたいって書いてくれている。僕はスピーくんに会ったことがない。スピーくんは、英語が得意だと聞いたことがある。日葵が大学で英語を勉強していて、ときどき家で受ける授業に一緒に参加してるとか。偉いなあ。僕は全く話せない(桜も英語は苦手だもん)。スピーくんに会ったら、僕も英語を教えてもらおう。
桜が書いた年賀状は、送る荷物と一緒に段ボールに入れられた。結局、段ボールは食材やらで埋まったらしい。僕とうーたんが入るスペースはなく、桜は僕たちが大阪に行くことを許してくれなかった。でも、桜が書いた年賀状が熊本にスピーくんに届くの楽しみ。僕の思い、届きますように。そして、いつかスピーくんに会えますように。ジルは心の中でお祈りした。