第十六話 千載一遇の好機
すみません、文章を直すことができる環境と時間、精神的余裕がなくなってしまったので、以降の話は供養としてそのまま投稿させていただきます。つたないお話ですが、覚えていてくれたらうれしいです。
これに伴い、検索で作品が出てこないように変更しました。URLからは引き続き飛べるそうです。よろしくお願いします。
早朝、森の深部に探索に出る。
「特訓がお休みになったと思ったら、今度は宝探しかぁ」
僕はひとり、担当の方角を散策する。
ニルが母親から譲り受けた宝物は、未だに見つかっていない。
それに、今朝になって、アヅキさんまで探し物があると言い出した。
「手伝うのは、いいんだけど。何を探せばいいのかくらい、教えてくれたっていいのに」
宝物の情報を尋ねても、二人とも秘密の一点張りだった。
「二人して、匂いで探せとか。僕、人間なんだけどな」
ひとり、薄暗い森を散歩する。
夏の道草を食べていると、微かに空気が揺れた。
「探知魔法にしては、隠す気がないね」
興味を惹かれつつも、静かに踵を返す。
しかし、不自然な風の匂いに、咄嗟に飛び退く。
「……ま、待ってくださぁい!! 」
助けを求める声が、目前の草木を薙ぎ倒した。
風に乗った男は、態とらしい呻き声を上げながら、足元に転がってくる。
「み、見てないで、助けてください! 」
小柄な男は、上目遣いで訴えてくる。
しかし、彼は五体満足で、怪我ひとつ見当たらない。
左手には、身の丈ほどの魔杖が握られていた。
腰には、魔法剣だろう。煌びやかな短剣を帯びている。
「……な、何で助けてくれないの? 」
半目で観察していると、彼は当然のように言った。
警戒するのが馬鹿らしくなり、無言で手を貸した。
「オレはバリス。大魔術師だ」
「魔力使い過ぎです。森が枯れます」
「顔は可愛いのに、凄みがあるね……。怯えてる犬みたい」
自称大魔術師は、不躾に頭を撫でようとしてくる。
しかし、背伸びをしても、額にも届かない。
「お座り! 」
僕は無視をして、宝探しに戻った。
けれど、バリスは後ろをついてくる。
「何か用ですか」
「仲間とはぐれちゃってね? 魔法に反応があったから飛んできたんだけど、残念ながら君だったって訳」
「どうして僕についてくるんですか? 」
「君も言ってたじゃないか。この辺の魔力が枯れちゃって、魔法が使えないんだよ。だから、ちょうど壁が欲しかったんだ……って、うそうそうそ! 置いてかないで!! 」
バリスは頭を下げると、護衛を依頼してきた。
風に耳を傾けると、遠くで鎧の擦れる音がした。
「お仲間さんに、騎士は? 」
「いるいる! 」
歩みの遅いバリスを連れて、獣道を進む。
しばらくすると、一際開けた場所に出た。
「バリス! 無事だったか! 」
端正な顔立ちの青年が、他の仲間を連れて駆け寄ってくる。
「置いていくなんて、ひどいじゃないか! 」
「悪い悪い。でも、安心しろ。きっちり魔獣は倒した」
「それなら、いいけどさ」
バリスは報酬を払わずに、天幕に消えた。
「礼をさせてくれ」
招かれた野営地は、下手な家よりも設備が充実していた。
「俺はカイオス。このパーティーのリーダーだ」
「カイオス様は、勇者なんですよ」
「勇者さん!? 」
「ただの肩書きさ。呼び捨てで構わない。君のことは、何と呼べば? 」
「レイです。ランクは最低ですが、一応冒険者です」
カイオスさんの挨拶が終わると、他の人たちも前に出てきた。
「アリシアと申します。聖女見習いとして、勇者様と旅をしております」
「従騎士、ニカだ」
「ウチは、フレアや。荷物運びと、武器の整備を任されとる」
「バリスからは、何か聞いているか? 」
「大魔術師だと名乗っていましたが……本当だったんですね」
「失礼はなかっただろうか」
「お座りと言われた時は、流石にびっくりしました」
笑って言うと、ニカさんが席を立つ。
「折檻してきます」
まもなく、バリスさんの悲鳴が聞こえてきた。
「……すごい音してますけど、大丈夫ですか? 」
「二人とも、防御魔法を使えるからな。仲間同士で、戯れているだけだ」
「喧嘩するほど仲が良いと言いますものね」
「ウチには、そうは見えへんけどな……」
フレアさんは、ひとり恐ろしげに体を抱いていた。
「レイ。単刀直入だが、護衛の報酬は何がいい? 」
「すみません。相場がわかりません……」
「それなら、腹の探り合いも必要ないな」
カイオスさんは、台の上に金貨の袋を置いた。
「すべてとまでは言えないが、好きなだけ持っていってくれ。都合が悪ければ、余ってる魔導具を選んでくれても構わない」
僕は、迷わず金貨に手を伸ばした。
しかし、知った匂いがして、体が止まる。
「魔導具も、見ていいですか? 」
「ああ。遠慮しなくていい」
「よっしゃ。ちと待っとき」
フレアさんは、魔導具を並べて見せてくれる。
「これ……」
「すまない。それは譲れない」
「聖剣、ですよね? 」
「せやで。んで、こっちが冥剣。どっちも、本物やで」
「はじめて見ました」
「そりゃそうや。勇者ん中でも、いっちゃん強い奴だけが授かる、生きた祝福や」
「そう言う訳だ。すまないが、別のものにしてくれないか」
僕は、他の魔導具を眺める。
すると、その中にひとつ、ニルの匂いがするものがあった。
「これがいいです」
「……何故だ? 」
「いや、知り合いの匂いがして……。たぶん、無くしたって言ってた宝物です」
正直に言うと、アリシアさんが表情を曇らせる。
「レイ様は、匂いでお分かりになるんですか? 」
「はい、何となくですけど」
「それは、黒龍に謂れのある魔剣です。魔剣は人の心を蝕み、闇に堕とす邪悪な武器。設計をはじめとして、製造、所持、使用は禁忌に抵触します。ご友人様には申し訳ありませんが、お返しすることはできません」
アリシアさんは、毅然と言い放つ。
僕は諦めきれずに、魔剣の前で立ち尽くした。
「分霊剣っちゅうんや。石碑みたいで、ゴツいよな」
フレアさんは、慰めるように語る。
「黒龍の力を使える大剣って言えば、聞こえはいい。けどな、魔剣は使用者の命を削る。そして、この魔剣は、他人の血を注ぐことで力を得る。悍ましい武器や」
「……どうしても、ダメですか? 」
「持ち上げられたら、考えてやってもええで」
「フレア様!? 」
「心配せんでも、魔力を流したところで、うんともすんとも言わん。持ち上げるにしても、ウチとニカの二人でも、少し浮かせるのがやっとや」
フレアさんの言う通り、黒い剣石は、主人の帰りを待つように微動だにしない。
「どうや。諦めはついたか」
「……はい」
「未練たらたらやな」
僕は、泣く泣く金貨を手に取った。
しかし、カイオスさんに引き止められる。
「レイ。俺のパーティーに入らないか? 」
唖然として固まっていると、彼の仲間たちが抗議の声を上げた。
「カイオス様、お戯れはおやめください! 」
「俺は本気だ」
「どうせ、勇者の勘って言うんやろ? 」
「フレア、わかってるじゃないか」
「失礼を承知で申し上げますが、レイ殿のランクは最底辺です。我々と肩を並べる資格はないかと」
「だが、祝福は強い……気がする」
言葉尻に反して、カイオスさんの表情は自信に満ちていた。
「祝福は力だが、同時に弱点でもある。気軽に他人に聞く物ではない。だが、俺はお前を仲間にしたいと思っている」
「……勇者の勘、ですか」
「仲間になれば、分霊剣を返すこともできる」
「それは、魅力的ですけど……」
「お金にも困らないし、可愛い女と付き合えるぞ」
カイオスさんは、ぐいぐいと迫ってくる。
「……レイ。”龍の耳”って知ってるか? 」
「馬鹿、その名前を出すな! こいつが消されるぞ! 」
「かもな」
「そんな、他人事みたいに言わないでください! 」
「死ぬのが嫌なら、仲間になればいい……だろ? 」
平然と言ってのける彼に、寒気を覚えた。
「大丈夫だ。断っても、悪いようにはしない。ただ、真剣に考えて欲しかった」
「急に言われても……」
「今すぐに答えを出さなくてもいい」
時間が欲しいと言うと、多めに金貨を握らされた。
「直に満月だ。魔人たちが暴れ始める。夜には気をつけろよ」
アリシアさんの加護を受けてから、僕は帰路につく。
途中、影から出てきたキンジュさんに金貨を渡すと、ものすごく心配された。
「人助けのお礼にもらったんだ。悪いお金じゃないよ」
事情を説明すると、彼女は嬉しそうに受け取ってくれた。
巣に帰ると、ニルに引っ叩かれた。
「おかえりなさい」
「叩く前に、言い訳くらいさせてよ……」
「ニルとレイは仲良しね」
マシロさんに手当てをしてもらいながら、余った金貨を眺める。
「これだけあれば、しばらく困りませんね」
「嬉しくなさそう」
「そうですね。何ででしょうね」
「お財布、落とした? 」
「かもしれません」
僕は、二人に分霊剣のことを話さなかった。
「どうやって、取り返そう……」
お昼寝の時間。ギルドカードを手に、ひとり頭を悩ませる。
「仲間になれば、宝物は取り返せる。でも、祝福を使わないといけない。だからって、仲間にならないと、名前も知らない誰かに殺されるかもしれない」
改めて言葉に出すと、理不尽過ぎて泣きたくなった。
けれど、彼らがニルたちを受け入れてくれるとは、到底思えない。
「剣だけ返してくれないかなぁ」
僕はマシロさんと、ニルと旅がしたい。
そう思うと、勇者の仲間になりたいという気持ちは、簡単に消え去った。
「……僕も寝るかな」
陽だまりで微睡む二人にあてられて、大きなあくびを吐く。
両手の花は、無防備に寝息を立てている。
「……おやすみ」
僕は守るように、手折るように抱き留めて、ゆっくりとまぶたを閉じた。




