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幕間 最強スキルは使ってなんぼ?

「こんなはずじゃなかった……」

 堆く積み上がる悪人を前に僕は頭を抱えた。

「ナツキに聞いたけど、本当に強いのね」

 マシロさんは木の枝を拾い上げると、襲撃者をつつきながら褒めてくれる。それらは、僕がスキルで撃退したものだ。

「無血で済ませるなんて、新しいご主人様は優秀ね」

「僕のスキルは、こと生物相手なら無双ですよ。例え伝説の魔獣が相手でも負けません。でも、それは祝福の力です。褒められても嬉しくないです」

「でも、顔は笑ってる」

「そんなこと……!」

「もしかして、楽しかった?」

「……これは、あれです! 生物としての本能です!」

 僕は図星を見抜かれたくなくて言い訳をする。

 けれど、気恥ずかしさに振り回していた手は、マシロさんにぽんと捕まえられてしまった。

「こういう時くらい素直に使えばいいのに」

「そうだとしても、人に向けていいスキルと、そうでないスキルがあるんです」

「なら、次は私がやる?」

「それは、絶対にダメです!!」

「どうして……?」

「世界が滅びかねないからですよ!!」

 僕はマシロさんの襟首を掴んで必死に言い聞かせる。

「この際だから聞かせてもらいますけど、さっきの力は何ですか!? いきなり地割れが起きたかと思えば、晴れてるのに雷が落ちてくるし、もう訳がわかりません!」

「……私じゃないわ」

「嘘をつかないでください!…… もしかして、昨夜の地震もマシロさんの仕業なんじゃないですか?」

「乙女の秘密に踏み込んではダメよ」

 マシロさんは困ったように半身で後退る。しかし、早々に木にぶつかってしまい、それ以上下がれなくなってしまう。

「どこ行くんですか」

 僕はすかさず腕をつき逃げ道を塞いだ。

「誤魔化すのは禁止です。正直に話してください」

「……いじわる」

 マシロさんは不貞腐れながらも、小さく秘密を打ち明けてくれた。

 しかし、その内容が衝撃的だった。

「スキルが六つ!? それも全部、致死スキル!?」

「だめよ、声が大きいわ」

 マシロさんは慌てたように、えいと口を塞いでくる。

「こうなるから、言いたくなかった……」

「もしかしなくても、マシロさんって神様か何かですか……?」

「……皮肉?」

「いいえ。そう思うくらいすごかったってことです!実際、相手が雷で怯んでくれなかったら、やられてたのは僕らでした。おかげで助かりましたよ。ありがとうございます」

 神罰を思わせるスキルに倣って、恭しく一礼をする。

「マシロさんがいれば、向かうところ敵なしですね」

 僕はスキルの庇護を受けるように背中に着く。

 けれど、彼女は嫌がるように僕を盾にした。

「あれは暴発よ。安心して」

「それを聞いて何を安心しろと……?」

「私が自由に使えるのは、この髪だけ。だから、安心して守って」

「そっちの心配なんですね……」

「それ以外にないわ」

 マシロさんはスキルで髪を跳ねさせると、ひ弱な女の子を演じ始める。

 けれど、感情の起伏で大地を揺らしたり、青天の霹靂を起こすような彼女だ。無能を騙る白髪もあって、胡散臭さしか感じない。

(天変地異を起こすスキルなんて、噂でも聞いたことないよ……)

 環境を操作するスキル自体は、いくらか存在が報告されている。

 しかし、マシロさんの力は威力、規模ともに常軌を逸していた。

 加えて、他に五つも致死スキルを持っていると言うから、規格外もいい所だ。

 その点で言えば、頭髪を自在に操れるスキルは、まだ大人しい。

 とは言え、それも易いものでないことは想像に難くない。

(髪の毛にしても、色々隠してるんだろうなぁ)

 小川で髪を切った時、その断面からは鮮血が滴り、表情は痛みに歪んでいた。

 毛髪に神経や血管が通っているのだとすれば、それは剝き出しの弱点である。触覚を有する腕を十万も持つ以上、脳にかかる負担は常人の比ではない。

 それに、髪同士は常に擦れて刺戟し合っている。どちらにしても、発狂していておかしくない。

(……スキルの代償、だよね。よっぽど強力な能力なんだろうな)

 ともかく、致死スキルと呼ばれる以上、一見して無害に見える能力でも、人命を脅かす力を秘めていることは間違いない。

「違うわ」

「まだ何も言ってません! 心を読まないでください」

「……スキルを使いこなせないのは本当よ?」

 マシロさんは自虐するように言う。

 しかし、スキルの矛先が自分に向いたらと思うと、笑い飛ばせなかった。

「……あれ? もしかしなくても、マシロさんを無能だと思ってたのって僕だけ?」

 思いがけず親友たちの心配の理由に至ると、浅慮な自分を殴りたくなった。

 けれど、例え未来を知り得ても、僕は変わることなく彼女と旅に出ていただろう。

「レイは私みたいな子、どう思う……?」

「別に。普通ですよ」

「私は、本当のことを言ったのに……。レイだけずるいわ」

 返事をもらえないとわかると、マシロさんは拗ねてしまう。

 すると、不満に大地は揺れ出し、木々がみしみしと悲鳴を上げ始めた。

「ちょっと、マシロさん!? スキル! 暴発してます!!」

「聞こえないわ」

「子供みたいなこと言わないでください! このままじゃ森がダメになっちゃいますよ!」

「……レイよりは子供よ」

「ああ、もう! わかりましたよ! 言えばいいんでしょ、言えば!」

 僕が折れると、マシロさんは機嫌を直したのか、すぐ揺れは収まった。

 けれど、代わりに直接体を揺すられる。

「言う気はないのね……」

 控えめに握られた手に胸が痛んだ。

 けれど、僕は馳せる想いを静かに絡めることしかできない。

 それでも、次第に互いの鼓動は高鳴っていく。

「もう、お昼ですね」

「うん」

「野宿の勉強も兼ねて、今日はこの辺りで休みましょうか」

「そうね」

 僕は川のせせらぎに、一人の手を連れる。マシロさんは誤魔化されてあげると言わんばかりに擽ったく笑ってくれた。

お知らせ: 次話は土曜の日。

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