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四神物語

純白の風と蒼の雷

作者: 星行張

「それでは、会議を始めるとしよう」

 真紅の瞳と髪を持つ女…炎神·"朱雀"の言葉で会議が始まる。

 各国の主同士が集まっての会議など、面倒くさい。こんなことをして、一体何の意味があるというのだ。

 それに、私はここに集まった奴らが…みんな、嫌いだ。

 "朱雀"がさぞ楽しそうに話を進めている。東西南北、4つの国の主が初めて一堂に会したので、気合いが入っているのか。

 …いや、婚約者といられるのが、よっぽど嬉しいのだろう。

 この世界は、4つの国に分かれており、それぞれが異なる力の加護を受けている。東が雷、西が風、南が炎、そして北が水。4つの国はそれなりの交流があったが、南北の相反する属性の国の民は、互いに一切関わることはなかった。しかし、それもつい最近までの話だ。なんと両国の主…炎神·"朱雀"と水神·"玄武"が婚約したのだ。そもそも異国民同士の婚姻が認められていなかったにも関わらず、2人は炎と水でありながら、惹かれ合い、周囲を納得させ、結ばれた。

 その結果が、東の国で開催の、初の4国会合だ。"朱雀"の言葉に、真剣に答える"玄武"。"青龍"もまた、彼女の熱意に応えるべく、一生懸命発言しようとしている。馬鹿馬鹿しい。発言を振られたときに適当に返していると、いつの間にか会議は終了。自国で用があるという"玄武"は、早々に帰国した。

 私だって早く帰りたい。だが、今日はこの国に泊まることになっている。せめてとっとと部屋で1人休ませてもらいたかったが、雑談の茶会のようなものが始まってしまった。一応主の立場上、こんなものでも簡単には抜け出せない。

「やはり他国の者と話すのは、新鮮な発見があってよいものだな!会合の場を提供してくれたこと、感謝するぞ、ブルドゥラ」

「いいえ、十分なおもてなしができず申し訳ございません…。ヴェルミス様こそ、会議を主体的に進めてくださり、ありがとうございます」

「私が好きでやっているだけだ。…それにしても"白虎"…ウィガーよ。そなた、まあいつものことといえばいつものことじゃが、今日は特にやる気がなさげではなかったか?」

「別に、参加してるのだから問題はないでしょう?あんたがやる気ありすぎなのよ鳥女」

「…前々から言うておるが、その鳥女という呼び方はどうにかならぬのか?名で呼ぶのが嫌ならば、せめて"朱雀"と呼べ」

「え?気に入らないなら、焼鳥女にしましょうか?暑苦しい貴女にぴったりでしょう」

「何じゃと?!」

「まあまあ、ヴェルミス様もウィガー様もどうか落ち着いて…」

 私の言葉に"朱雀"が苛立ち、それを"青龍"が鎮めようとする。この3人で集まると大体いつもこんな感じだ。もう飽きた。

 そんな茶会も終わり、ようやく今日泊まる部屋へ案内され、1人になれた。いつも案内される部屋とは違うようだが、まあそんなことはどうでもいい。ベッドに寝転がり、ぼーっと天井を見上げる。

 "朱雀"は「優れた主」の典型みたいな女だ。常に自ら国を周り、民の声に耳を傾け、よりよい国となるよう心がけている。誰にでも優しくて、皆から好かれている。…よくやる。私には、絶対に無理だ。だからあの女が嫌いだ。あの女といると、自分の不出来さが際立つ気がする。

 それに、もう1つあの女が嫌いな理由が増えた。"玄武"との婚姻だ。しょっちゅう城を抜け出したりはするような女らしいが、これまでの世界共通の掟を破るようなことまでやらかすとは。しかも、それを、周囲に認めさせている。…なんで、そこまで。

 "玄武"も"玄武"だ。真面目だがどちらかといえば意志が弱そうな男だと思っていたのに…。なぜ、よりによって、あんな女と…。掟が絶対ではなかったのなら、私だって……。

 …いや、もういい。あいつらのことを考えても苛つくだけだ。早く寝てしまおう。

 真っ白な自分の髪が視界に入ると、さらに苛々してくる。嫌悪感でそのまま目を閉じかけたときだ。

ーーー世界を、変えたいか。

「?!」

 どこかから、低く暗い声がする。

ーーー世界を、変えたいか。

 その声は、繰り返し続く。

 ベッドから起き上がり、声の出どころを探る。何やら、下の方から聞こえてくる気がする。声がより強く聞こえるところで立ち止まり、しゃがみこむ。…その箇所の絨毯をめくってみると、扉のようなものがある。扉を開けると、地下へと続く階段が現れた。

ーーー世界を、変えたいか。

 声に導かれるように、階段を降り、地下の道を進む。しばらく行くと、祭壇のようなところで行き止まりとなった。両端には扉、中央には巨大な龍の像がある。声は、この像から発せられているようだ。

「これは、青龍像…?いや、何か違うような…」

「ええ、それは青龍像ではありません」

「?!」

 後ろから、今度は聞き覚えのある声がした。振り返ると、いつの間にか1人の女が立っている。

「"青龍"…?!あんた、なんでこんなところに…」

「ここは私の城の中です。なぜ、は私の台詞かと」

「…っ。それは、その…変な声が聞こえてきて…それで…」

「…声?」

「そうよ!あんたも聞こえるでしょ?一体何なのよ?」

「……」

 "青龍"は、驚いたような表情で私を見る。…まさか、彼女にはこの声が聞こえていないというのか。

「…ちょっと、」

「…その、声というのは…『世界を、変えたいか』。…そう、言っていますか?」

「?ええ、そうじゃない…」

「…そう…そうですか…」

 今度は何やら安心したような、嬉しそうな様子だ。…本当に、何だというのだ…。

「ねえ…さっきから何なの…?」

「…申し訳ございません。ウィガー様がおっしゃっているこの像の声…どうやら、私達以外の者には聞こえないようで」

「え…?」

「私もこの声を不思議に思い、数名の城の者を連れてきたのですが、皆何も聞こえない、と…。そこで、この像について調べてみました。これは黄龍像…かつて、世界が1つの国であった頃、頂点に君臨していた者の象徴のようです」

「?じゃあ昔はその黄龍っていうのの力を宿して生まれてきた人間が、全属性をもって全世界を支配してたっていうの?」

「いいえ。黄龍は大地を司る神獣のようですが、その力を持って生まれてきた者が王となっていたわけではないようです。『神獣の力を受け継いで生まれし者』など存在せず、国民達が、『主に相応しいと思う者』を選出し、その選ばれし者が力を得て、王となっていたとか」

「そんな時代が…。けど、そんな話、聞いたことないわよ?」

「恐らく、同じく龍に守護され、縁のある我が国にのみ、この黄龍像とともに秘かに受け継がれてきた話なので」

「なんでそんな秘密に…。…というか、そんな話、私にしちゃっていいわけ?」

「かまいません。むしろ、ウィガー様には知っていただかねばなりません。…これからの、変革のために」

「変革…?」

「ええ。まず、"黄龍"が治めていた時代が歴史から抹消されていた理由についてですが。これは、とある王がその地位から降ろされそうになったとき、私欲で世界を変えたいと強く願った結果、これまでの世界が崩壊し、今の世界が生まれたためです。世界そのものが消えたのですから、当然、『この世界の歴史』には本来ないものなのです」

「え…『世界を変えたい』って…」

「そう、その王は、『民衆に選ばれる王が治める世界』ではなく、『王として生まれた者が死ぬまで王として君臨し続ける世界』を望んだ。その強い願いは…神獣·黄龍の力かどうかは分かりませんが、叶えられました。…そして、今、その『世界を変える』選択は…私達に、委ねられています」

「…嘘、でしょ…?」

「本当です。現に今、私達には、黄龍の声が聞こえているのですから。…私達は、世界を変えたいと願っている。そして、それを実現するチャンスを与えられたのです」

「ちょっと待ちなさいよ…。あんた、世界を変えたいとか、そんなこと考えてたの?」

「…だって、おかしいじゃないですか。生まれながら、国の主となる者が決まっているなんて…。…私は、確かに青龍の神力を受け継ぐ者として生まれ…強大な雷の力を宿しています。けれど、それだけです!私には、主として国を治める技量など、ありません…。皆に信頼される主でい続けるなんて、私には無理です!もっと、相応しい人がいるはずです!それなのに、どうして私が…」

「…ブルドゥラ…」

 …驚いた。彼女がこんな思いを抱いていたとは。いつもにこにこヘラヘラしてる穏やかな女で気にくわないと思っていたが、今の彼女は、真っ青な瞳に悲しみと苦悩が浮かんでいる。…まるで…。

「…ウィガー様も、同じでしょう…?」

「……ええ……」

 そうだ。私だって無理だ。主なんて器じゃない。国の者は、こんな私でも主として慕ってくれるが…。そんなの、たまたま私が"白虎"だからだ。

「そうだと思い、ウィガー様をこの地下に通ずる部屋に案内させていただきました。…貴女にはあの声が聞こえたようで、安心しました。世界を変えるには…今回はどうやら、2人以上の神獣クラスの力が必要なようですから」

「…もしかして、"朱雀"にも同じような部屋を…?」

「ええ。あの方はやはり…何も聞こえないようです」

「…ま、でしょうね。"玄武"も、ちょっと前なら引っ掛かりそうな気しなくもないけど、あの鳥女に影響されて変わったみたいだから、今は無理でしょう」

「…そうですね」

 少し、悲しそうな返答。まさか、彼女も…。

「まあ私がいてよかったわね。で?世界変えるって、具体的にどうすればいいの?」

「…ウィガー様。先ほど、貴女も私と同じでは、と申しましたが…その…本当によろしいのですか…?かつてと同じように黄龍が願いを聞き届けてくれるとしたら、この世界そのもの…私達自身を含む恐らくすべての生命が消えて、新たな世界が創造されることとなるのですよ…?」

「まったく、何今さら怖じ気付いてるんだか。さっきまでの態度はどうしたのよ。…私はかまわないわ。こんな世界、どうでもいい」

「…分かりました。私からけしかけておいて、申し訳ございません。…では、左右それぞれの扉へ。同時に全神力をぶつけ、扉を開きます」

「…分かったわ」

 私達は左右に分かれる。そして、"青龍"は雷、私は風の力を、思い切りぶつけた。…もうすぐ、扉が開く。


『ウィガー様の髪は、本当に真っ白で、お美しいですね』

 …簡単に汚れるってことじゃない。

『ウィガー様の風は、私達を守ってくださる、優しくて力強いものですよね」

 ……世界を、切り裂いて壊す力よ。



ーーー


 こうして、2人の神獣の力を宿した主達の願いにより、4つの国に分かれていた世界は崩壊した。

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