88 学校生活終了のお知らせ
鼻をツンと突くアルコールの匂いで目が覚めた。
体を起こして周りを見渡すと、一人。白衣を着た若そうな女性が椅子に腰かけて寝こけている。しかし俺が起きたときの音で目が覚めたようで、慌ててこちらに声をかけてきた。
「あら!? あ.... 起きたのね。 私は養護教諭の七瀬 若葉です。それにしても..... あなた、腕の骨が折れてたんだけどね、Bランクスキルの高位回復を使ってもなかなか回復しなくって.... どうしてかしらねぇ?」
.....俺のHPは約7000。耐久が二桁台まで落ちていたせいで骨折するくらいにHPが削れたようだが、それでもHPの値は据え置きなので、ハイヒールくらいではなかなかHPが戻らなかったのだろう。
先生に気絶させられたようだが.... 何が起こったのかが全く分からん。闘気脈動が働いていれば耐久も強化されているので、ちょっとやそっとじゃ一発KOされないはずなのに。
....まぁ、何はともあれ。
「わかんないです.....」
言い訳をしておいた。
「そうよねぇ。あと、回復は済んだので授業に復帰していいわよ!」
そう言われて時計を見ると、時刻は二時三十分をさしており、ちょうど五限目が終わる時間帯だった。
「ありがとうございました」
お礼をしてすぐに保健室を出ると、校内の地図が近くにあった。どうやらここは高校と大学の境目にある保健室のようで、桎梏と神呪を解いてから速足で教室に戻ると、何とか六限目に間に合った。
「はい、今日の総合の時間はいつも通り、探索班活動を行います。明日のダンジョン実習への計画をきちんと立ててください」
そう先生が言うと、周囲のクラスメイト達は机を動かし始めた。
そうして机の配置が終わると、各々が席を立ってそれぞれの1から6班の探索班に分かれてグループ別に机に座っていった。
勿論、俺はパーティーなど組んでいないので、立ち尽くすほかないわけだが.....
「あら? 編入生の早川君は..... どこかパーティーに入れてもらいましょうか。ところで、天職はどの系統ですか?」
「斥候系です」
「あ.... と、どこかの班で、パーティーを組んでくれる所はありますか?」
そう、先生が周囲に問いかけるが、それにこたえる生徒は.... いなかった。
そんなに斥候系って不人気なの!?
それとも俺の見た目か? やっぱりモブ顔なのが嫌なのか?
そんな疑問が頭を渦巻くが、答えは出ないし入れてくれるという班も現れず、沈黙が教室中を満たしている。
「あらあら...」
先生が気まずそうにしている中、一人の生徒.... あの熱血系っぽいやつがその沈黙を破った。
「先生。彼のレベルなんですが、3限目の実技の授業で御剣先生が計った結果、レベルがたったの5から10だったらしいんですよ。そんな低レベルを連れて行ったって無駄死にするだけですし、こっちの命だって危ない。なにより.... コネ入学したようなやつには背中を預けられません」
.....裏切ったな熱血野郎!
そう思う気持ちが半分。しかし、俺の冷静な部分はその指摘が正当なものだという事も理解していた。
だって、このクラスの編入条件は迷宮遭難者でレベル30以上だか、そんな感じだった。しかも、百武さんに無理を言って入学させてもらっているので、コネ入学といえなくもない。
.....教室中からの視線が痛い。
あと、先生の視線からも、哀れみと侮蔑の色が感じられた。
マジで失神しそうなほどの精神状態だが、しかし状態異常への耐性がそれを許さないせいで、まるで拷問でもされているような気分だ。
もう空に向かって全力で魔法をぶっ放して、「俺はレベル999だぁーーーーー!」と叫びだしても構わないと一瞬思ったが、それでキングのように世間の注目の的になれば、俺の精神は状態異常耐性を突き破って崩壊するだろう(確信)。
それに、レベル200かそこらの大吾ですらあんな特別待遇なのだ。自分がレベルカンストの隠者だと公言したらどうなることやら.... 少なくとも、今のような生活はおくれなくなる。
「このクラスにいるのは、身をもってダンジョンの危険を感じた人だけなんです。だからこそ、その危機感すら分からないような人と一緒に探索をするなんて耐えられません」
「そう.... ねぇ」
先生はこちらから視線を外すと、悩むようなしぐさを見せる。
またしても場を沈黙が支配し、手持無沙汰になってしまうと周りからの視線が痛い。しかし、俺がいろいろと隠しているせいだという事は理解しているのだが、なんか無性にイラついたので、熱血野郎のステータスを精査と虚影の併用でバレないように覗いてみた。
こんな公衆の面前で2度もこき下ろしてくれたんだ、文句は言わせない。
そして、その内容はというと...
....レベル39、苦痛耐性がEランクのレベル6、精神異常耐性は... 無しどころか、一段階下の恐怖耐性すらDランクのレベル11。こいつに危機感がーとかこき下ろされるのはマジでイラつくな。
いっそのことAランクライセンスでも見せつけてやろうか...
だが、俺のレベルが低いと思われている中でAランクライセンスを見せても、偽造だなんだとさらに面倒になる予感しかしない。
これはもう八方塞がりでは?
「では、みんなはそのまま班ごとに話し合いを進めていてください。早川君は先生とお話ししましょうか」
.....................
後ろの方に机と椅子を二セット持っていき、そこで俺と先生は面と向かって話をする羽目になった。
結果。先生にはなんとか不正入学でないと信じてもらえたが、パーティーは組めなさそうなので、探索者組合の例のマッチングで頑張ってくれという結論に至ってしまった。
さよなら、俺の青春....
第三章 学校編 終 .....とはなりません。
精神異常耐性
恐怖耐性 気絶耐性 魅了耐性 睡眠耐性 混乱耐性 のいずれか3つが統合されて精神異常耐性になる