85 登校初日の朝活
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
↑
作者の反応
朝、いつものように目が覚めると、まずは軽いランニングを行い、続いて魔闘法の訓練を行う。だが、昨日一区切りがついたというのもあって、武器開発は行わないことにした。
そんな一通りのルーティーンを終え時計を見ると、時刻は朝の8時を指している。
「そこ! モク抜け! そう、そーーーーうだ! ナイスキル!」
俺の強化された聴覚がバロムの声を捉える。その声は明らかにFPS系のゲームをやっている声だった。
まだやってるのかアイツ.... と、少々呆れるが、別に健康を損ねる訳でもないので気にすることではない。むしろ、先にPCの方が殉職しそうな勢いをしている。
なんというか... その光景に俺はもう慣れてしまったが、あのタキシードイケおじフェイスでFPSゲームってのはものすごいインパクトだな...と、始めはそう思ったものだ。
『たまにはPC休ませろよー』
『心得た!』
まぁ、バロムもPCもハイスペックなので問題ないだろう。
「さっさと飯を食うか」
リビングに出てきてそう呟いていると、キッチンの方から何やらガサゴソと物音が聞こえる。気になって覗いてみると、そこには紅茶を詰め込んだ戸棚とにらめっこしているアネモイの姿があった。
「うーん.... 今日はどうしましょうか...」
ちょうど朝で少し眠気が残っているので、目覚めのカフェインを体が欲しているところだ。
「アネモイー 紅茶入れてくれない?」
「ん? マスターでしたか、いいでしょういいでしょう.... 幾星霜の時間をかけて磨かれた淹茶技術を味合わせてあげましょう!」
そう言うと、アネモイはキッチンに色々と道具をそろえ始め、手始めにコンロでお湯を沸かし始めた。
....なんかおしゃれな形をしているやかんに金属棒.... 温度計?をさしており、権能を使って水の.... 浄化?まで行っていた。あいつって水の大精霊じゃないよな。どうしてそんなことできるんだよ....
何はともあれ、コンロは占領されてしまっている。
.....自分で言った手前、場所を代わってくれとは言いづらい。しょうがないので、今日はメニューを変えることにした。
「具材は...」
冷蔵庫を開けると、目につくのは野菜の数々。フェルもクズノハも野菜をあまり食べないので、少し余り気味になってしまっているのだ。せっかくなので、それらを袋から取り出しておく。
「あとは...」
見ると、フランスパンの袋が目についた。よし、これを使おう。
さっそく野菜を輪切りにし、この前作ったダンジョン産ローストビーフと一緒に、切り分けたフランスパンの間に詰め込んでいく。そして、トースターにぶち込んで軽く焼けば出来上がりだ。
バケットサンドは本来焼くものではないので似非バケットサンドだが、時短飯などこんなものだ。そして、最後にドレッシングをかけて完成ということで。
「よーし」
完成した似非バケットサンドをアルミホイルで包み、食卓に置く。すると、丁度いいタイミングでキッチンの奥からティーカップがふわふわと飛んできた。
「こちらも出来ましたよー」
紅茶とバケットサンド、かなり合う組み合わせだろう。 と、いう事で.... いただきます。
味は及第点といったところ。やはり、簡単な料理ほど素材の質が味に直結するな。しかし...
「.....やっぱり野菜は1時間くらいかけて常温にしないとなー」
今度からは事前に解凍しておこう。だが、短時間で作ったにしてはいい味だ。
そして、紅茶の方にも口をつける。
「凄いな.... この紅茶、おいしい」
素人の舌でも明確にわかるレベルで味が違った。コクが深く香りが豊か、それでいて薄く自然な甘味も感じられる....
「当然ですねー」
いつの間にかリビングのソファーで、紅茶を片手にとろけているアネモイから、そんな間延びした声が返ってくる。
その姿は最初に会った頃の威厳のいの字も感じられないものだ。今も3日間連続でゲームを続けているバロムしかり、長く生きると皆こんな風になってしまうのだろうか?
いつの間にかティーカップは空になっており、バケットサンドを完食する頃には8時半になっていた。食器を水に漬けておき、新品の制服に袖を通す。
「久しぶりだな~ ネクタイ結ぶのも...」
少し手間取るが.... 意外と手が結び方を覚えていて助かった。着替えも終わり、準備は万端。
「いってきまーす」
アネモイもバロムも、ヘッドホンを付けて娯楽に勤しんでいるので、その声に対する返答はない。だが、不思議と寂しさを感じることはなかった。