79 ツナマヨが正義
このエピソードの後書きには挿絵があります。
自分で世界観をイメージしてみるのが小説の醍醐味の一つだと思うので、イメージと違うみたいなことを避けたい人は、ページ右上の『表示調整』から、
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それから約3時間ほどにわたって実戦訓練は続けられた。
といってもやっていることは単純で、因幡さんが戦い続けて俺が修正点を言っていく。ただそれだけの繰り返しだ。周囲に居るモンスターを俺が糸繰人形で操り、倒した傍からおかわりしているという条件付きだが....
大吾ほどではないが、かなりハードな訓練をこなしたことで因幡さんの技量はめきめきと伸びてきており、その短剣二刀流は俺でも圧倒されるほどのものとなっていた。
俺自身はそこまで短剣での二刀流を扱うわけではないので詳しく教えることは出来なかったが、教えられる範囲で足運びや、間合いの取り方と詰め方などを自前の短剣術と融合し、自己流で昇華するその様はとてもレベル20代とは思えないほどだ。
「そろそろお昼時か」
「お! お昼ご飯ですか!?」
「そうしましょうか」
いつものように伏魔殿で料理.... となるわけもなく、俺は来る途中で買ったコンビニのおにぎりを格納庫から取り出し、因幡さんは腰につけた大きめのポーチから弁当を取り出した。
先ほど見つけていた開けた場所に座り、さっそくおにぎりをむさぼる。
.....やっぱりツナマヨが正義だよな。 異論は認める。
そんなことを考えていると、因幡さんは声をかけてきた。
「早川さんはまだ若そうですけど、Aランクなんですよね。どうやってそんなに早くレベルを上げたんですか?」
少し答えにくい質問が来たな。
「あー、 実は迷宮遭難者になってしまって、四六時中ダンジョンに居たんですよね」
「ほへぇ、あ。 すみません」
「気にしなくていいですよ」
巷では、迷宮遭難者はモンスターに腕を取られた状態で発見されただの、暗い場所で水とコケだけで生き延びていただのと、色々な情報が出回っており、こういう風に答えると空気が悪くなってしまうようだ。こんな雰囲気はぶっちゃけかなりつらいので、今度からは少し違う言い訳を用意しておこう。
それはそれとして、この空気を何とかして払拭せねば...
「あっと.... 何か聞いてみたいこととかありますか?」
「! では、早川さんは高ランクの移動系スキルとか持ってたりするんですか?」
「持ってますよ」
「すごいですね! Aランクの移動系スキルは、まるで瞬間移動みたいに見えるって聞いたことがあります。でも、やっぱりレベルを上げないと手に入らないんでしょうか?」
「運が良ければ70レベルくらいまで行けばAランクスキルも手に入ると思いますよ。同系統のスキルが合成されればランクが上がるので」
「レベル70.... という事は20階層後半まで行かないといけないんですね....」
「....ちょっとだけ、移動系スキルを試してみますか?」
「?」
今までに、式神や召喚対象にしか貸与を試したことが無かったので、実験として因幡さんに神足通を貸してみるか... それに、やっぱりモチベーションは探索に不可欠なので、実際に使ってみてやる気を出してくれればいいな。
「俺のスキルに、他人に自分のスキルを貸すことのできるというスキルがあるんですよ。それで試しに高ランクの移動系スキル、使ってみますか?」
「え! ぜひお願いします!」
既にご飯は食べ終わったので、腹ごなしにちょうどいいだろう。とりあえず.... 神足通、レベルは1でいいか。
【貸与・神足通】
貸与が終わると、因幡さんはすぐにその変化を感じ取ったようで、試しに近くの木へと走り始めた。神足通はレベル1でも常時かなりの敏捷強化が入るので、そのスピードは目に見えて早くなっていた。
「すごい! すごいですね!」
「このスキルは神足通と言って、常時敏捷強化と、SP消費での敏捷強化、あとはMP消費で視界内の場所への瞬間移動と、空や壁などのどんな場所でも足場として踏むことが出来たりもします。他にも、召喚系スキルがあれば召喚対象との位置の入替とかも出来たりしますね」
「え!? まだあるんですか?」
更に詳細なスキル効果を伝えると、因幡さんはすぐにその能力を使いこなして見せた。
【神足通】
瞬時に彼女の姿が消えると、次に気配を感じたのは後ろにあった木の枝の上だ。細い木の枝が人一人を支えているのは、普通であれば目を疑うような光景だろう。しかし、瞬間移動は流石にMP消費がひどかったようで、因幡さんはそのままふらついて地面に落ちて行った。
「あ...」
「むきゅう.... きもちわるいですぅ」
幸い、大事には至らなかったが、だいぶ気持ち悪そうな顔をしているので少し休む必要がありそうだ。まぁ、因幡さんはMPを消費するスキルをあまり持っていないので、気持ち悪さが収まれば訓練を再開できるだろう。
「少し休みましょうか」
「はぃ...」