77 俺流の戦闘スタイル
初めのあいさつ以降、一言も発さずに絶句していた俺に、彼女は声をかけてきた。
「どうしましたか?」
「あ.... いや、そのぉ.... 一人ですか?」
「はい、そうですが....」
やばい、マジで泣きそう。だが、そんな気持ちを表情に出すわけにもいかないので、思考制御のスキルで意識を戦闘時のような状態に切り替えておく。苦手な人付き合いなどをするときに、このスキルはすごく便利だ。
「まずは自己紹介から始めませんか?」
「..... はい、そうですね。では俺から、早川誠といいます。一応Aランク探索者をやらせてもらってます」
「よろしくお願いします、早川さん! 私は因幡 由衣っていいます」
「因幡さんですね。まぁ、さっそくダンジョンに行きましょうか」
「実戦訓練ですね!」
身長は俺よりも20くらい低い、150センチくらいかな? 見た感じは童顔なので中校生くらいに見え、身長がさらにその考えを助長させる。 ....女性に年齢を聞くのは少し憚られるな。 まぁ、特に大事なこととかそういう訳でもないので、別にいいか。
そう考えつつも、昨日と同じようにカウンターに並ぶ。今日は特段パーティーの数合わせをする必要もないので、Aランクのライセンスを提示すればすぐにダンジョン行きの列に並ぶことができる。
「探索階層は何階層ですか?」
「あ.... と、 因幡さん。 レベルはいくつ位ですか?」
「18です!」
「じゃあ... 15階層でお願いします」
探索登録も終わったのでさっそく列に並ぶと、前の方に見覚えのある顔が並んでいた。
「あれは....」
しかし、俺が反応する前に、因幡さんはその3人を見て顔をしかめていた。
「お知合いですか?」
「あ、はい。少し前に固定パーティーを組んでいたんですが...」
その三人というのは、例のガラの悪そうなやつと、コバンザメと、無口なヤツ。三人とも戦士系担当のAランクさんのグループの中におり、そのグループは遠目から見ても20人は超えている。
正直、格差スゲーと思っていたことはここだけの秘密だ。
「あー 俺も昨日、たまたまマッチングで当たったんですよね」
「え? そうなんですか?」
「はい、俺は以前別のダンジョンで活動していたのでこのダンジョンは初めてだったんですけど、昨日組んだ時に何を勘違いしたのかFランクだと思われて、ダンジョン入った後でどっか行けとか言われたんですよ」
「相変わらずなんですね... 実は、私も攻撃系のスキルを全然持っていないからっていう理由でパーティーから追い出されたんですよ! しかも、普段から言動も最悪でしたし.... 今考えると追い出されてよかったかもしれません」
あの三人衆と固定パーティー.... 考えただけで苦労しそうだなと、そんな会話をしているうちにやっと俺たちの番が回って来た。そうして15層に転移し、黒門から少し離れると早速指導を始めることにした。
「因幡さん。まず、天職の系統は斥候系という事で大丈夫ですか?」
「はい! その通りです」
俺と同じであれば、戦闘スタイルなどはある程度教えられそうだ。
「今のスキルにはどんなものがありますか?」
「えーっと..... 早川さん、鑑定系スキルを持ってたりしますか?」
「持ってますけど」
「じゃあそれで見ちゃってください」
「なるほど、分かりました」
【精査】
⇒ 【種族】人間 Lv.18 【Name】 因幡 由衣
【天職】 奇蹟士(A) Lv.1 【状態】-
【称号】 探索者(東京ダンジョン:15階層)
◇ 能力値
HP 91/91 MP 127/127 SP 135/135
筋力 97 魔力 115 耐久 86 敏捷 127
◇ 耐性
⇒耐性
苦痛耐性(D)Lv.1 恐怖耐性(E)Lv.6
◇ 職業技能
⇒奇蹟士(A) Lv.1
天運(A)Lv.1 隠匿(B)Lv.1
移動術 Lv.2 – 俊足(D)Lv.1
◇ スキル
・武技スキル
⇒ 移動術
跳躍(D)Lv.2
・特殊スキル
⇒ パッシブ
継承(S)Lv.1
......やっぱり、レベル10かそこらだとスキルが少ないな。だが、気になる所も大いにある。
「奇蹟士.... それに継承?」
「どちらも微妙なんですよねぇ、それ。 奇蹟士は運がよくなるだけで、継承は.... 最初はもてはやされたんですけど、なぜか使うことができなくて....」
精査で詳しく見てみても、結果はスキルを継承するという説明だけでそれ以外に分かる事はない。だが、使えないということは、何か条件付きで発動できるスキルなのか... クズノハの九尾などがスキルの効果としては近いだろうが、それ以上のことは分からないな。
「一旦、そのスキルは置いておいて、取り敢えずは斥候系の戦闘スタイルから教えていきましょうか。幸い、最低限の移動系と隠密系のスキルを持っているようなので、それをメインとした立ち回りですね」
「はい!」
「まず、移動系と隠密系のスキルを活用した戦い方を教える前に、前提が一つあります。それは簡単に言うと、ソロかパーティーのどちらで探索を行うかという事です。因幡さんは将来、どちらのスタイルで探索を行っていきたいとか、そういう希望はありますか?」
「.....ソロでお願いします」
「わかりました。武器はその腰の短剣なら、戦闘スタイルは近接戦闘となるので、一言で言えばヒットアンドアウェイが基本戦術になります。斥候職はそもそも能力値が敏捷に多く振られて、耐久やHPが少なくなるので、とにかく相手の間合いに入らない。そして、安全圏から攻撃する。この二つを徹底して行うのが重要ですね」
「ヒットアンドアウェイ...」
「はい。レベルの低いうちはそれを徹底しておかないといけません」
「やっぱりHPと耐久が低いと正面から打ち合うのは不利という事ですね」
「斥候系は敏捷以外が伸びにくい。ですが逆に言うと、敏捷は他より有利をとれます。なので、そこを最大限に利用できる戦闘スタイルを取るべきです。そして、そのスタイルはとにかく逃げに徹し、相手の隙を突いて攻撃。これが一番押さえておくべきポイントですかね。それを基礎として、レベルが上がって手に入ったスキルを状況に応じて使い分ける。俺はそうやって今までやってきました」
「経験則ってやつですね」
「そうです。あとは、何かしらの感知系スキルが手に入れば、奇襲を取り入れていくのも大切です。探索は体力を使うので、出来る限り初手で敵のHPを削っておけば戦闘を有利に進められますし、素早く戦闘を終えられれば体力の消耗も少ない。これも経験則なんですが、スキルの獲得というのは探索しているときの行動が反映されることが多いので、常に周囲に気を配って探索を行ったりするとそういうスキルが獲得できるかもしれませんね」
「なるほど....」
「ではさっそく実戦と行きましょうか。何かあればその都度指摘していきます」
森羅万象により強化された聴覚がこちらに向かってくる生き物を捉えた。レベルもそこまで高くはないし、これくらいなら良い実戦練習になるだろう。
〇 スキル解説コーナー
森羅万象
周囲のあらゆる存在を五感を用いて感知できるスキル。視覚範囲は千里を超え、かつ全方向を見渡せるになり、聴覚はその音源の物質や重量までも正確に把握し、肌で空気の揺れを感じ取り、攻撃を避けることも可能となる。
〇 81話に因幡さんのイメージイラストがあります。良ければ見てね!