75 ぼっちざだんじょん
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やってまいりました、ダンジョン探索のお時間ですね。
今日は例の依頼の前日だ。なぜわざわざ来たかというと、今のところ俺はまだ東京ダンジョンに潜ったことが無いからだ。つまり、教える立場でありながらいまだに到達階層は1階層.... AランクライセンスのくせにFランクと同じだと流石に示しがつかないので、今日中に30階層には到達しておきたいところだ。
そうして今、俺は探索者組合のカウンターに足を運んでいた。
「ご用件をどうぞ」
「えっと、マッチングの申請をお願いします」
「かしこまりました。ではライセンスの提示をお願いします」
「はい」
そう言って取り出したAランクライセンスを見て、受付の女性は目をむいた。なんでも、Cランク以上の探索者は、そのほぼすべてが固定パーティーを組んでいるか、Dランク以下に課せられるパーティー探索の義務が無くなるのでソロ専門になるらしい。俺のようにわざわざマッチングサービスを利用して臨時パーティーを組むような物好きはなかなかいないだろう。しかし、今回は出来る限り攻略階層を稼ぎたかったので、既に15階層付近まで探索している人に乗っかることにした。
.....一応、Aランクなので寄生とは言わせない。
「なん階層付近をご希望でしょうか?」
「15階層くらいでお願いします」
「受理しました。現在マッチング可能なパーティーは、一組ありますね」
「ではそこでお願いします」
「はい、ではあちらの控室へご案内いたします」
Aランクライセンスを見せてからというもの、窓口のお姉さんは営業スマイルを更に研ぎ澄ませてきた気がする。しかも、案内までかって出てくる始末だ。やはり世の中、地位と金が正義なのか.... と思いつつ案内についていくと、待合室という大部屋に通された。
「マッチング番号305番の探索者様方。マッチングメンバーが揃いました」
そうしてメンバーが揃うと、お姉さんは少し名残惜しそうにしながらもウインクをして去っていった....
「チッ やっとかよ」
「だりー」
「...........」
一人目、ガラの悪そうなやつ。二人目、一人目のコバンザメか太鼓持ち。三人目、無口なヤツ。
......マッチングを選んだのは失敗だったか? おとなしく一階層から順当に攻略していけばよかったか? などという考えが頭をよぎるが、組んでしまったものは仕方がない。そのまま三人についていくが、特に連携の話や、自分のポジションの話もなく東京ダンジョンの入口ゲートにつく。
俺は未登録なので、始めに中央のアーティファクトで登録を行い、それから他三人と合流する。そのまま係員さんの前でチェックを取った後に魔法陣に乗って、次に見えた景色は密林だった。
「おい、お前.... 東京ダンジョンに潜ったこともねぇのかよ」
開口一番、そう言ってきたのはガラの悪そうなやつだった。そして、他の2人の方もこちらに白い目を向けていた。
「こき使ってやろうと思ったがやめだな。お前はどっかに行っとけ」
「は?」
そこまでダンジョン法に詳しくない俺でも知っていることだが、探索者がパーティーを組む場合、索敵等で一時的に離れるなどの状況を除いて全員で行動し、ダンジョンの出入りのタイミングでの報告が義務のはず.....
それなのにどっか行けって..... いや、俺からしたらラッキーだ。どうせ一緒に探索してもこれ以上の階層には行けるとは思えないし、ここで離れて30層くらいまでは攻略を進めたほうが効率が良いか。
「はぁ、分かりましたよ」
俺がそう言うと、三人は密林の奥へと消えていった。
「よし、じゃあ移動するか」
少しナイーブになった心を吹き飛ばすように声を出すと、さっそく探索を始めることにした。せっかく人目を気にする必要もなくなったことだし、あの三人が探索を終えるまでに30層まで行くことを目標に頑張ろう。
「さて....【天眼通】」
広範囲を見渡す目を生み出すイメージで、更にその視点に階層全体を駆け巡らせる。15階層は60階層以降と比べると圧倒的に狭いので、天眼通を使えば黒門をすぐに見つけられた。
あと、例の三人衆が猿のようなモンスターと戦っていたが、かなり危なっかしい感じだった。三人とも武器の扱いがなっておらず、連携もクソもないような立ち回りのせいで、見ているこっちがハラハラする。攻撃スキルもスカしており、10階層代まで上がれたのが不思議なくらいだった。
まぁ、そこまで気にすることではないのでそっちは放っておく。
「ボスは... あいつか」
黒門の周囲に人影はなく、周囲にはモンスターがたむろしている。これなら横殴りと言われることもなさそうだ。
【神足通】
神足通によって視界の場所に転移するが、天眼通を介しての行使だったために意外と負担が大きかった。だが、この階層を見渡しても俺の脅威になるレベルの相手は存在していなかったので、多分大丈夫だろう。
そして、目の前にいるのは狼型のモンスター。
精査の結果、レベルは25で種族はファングウルフ。特段目立ったスキルもなく、こちらにとびかかって来たところをすれ違いざまに切り伏せると、あっけなく光の粒子になり消えていった。
「これなら30階層までは余裕で行けそうだな」
黒門を触れるとちゃんと通れるようになっており、そのまま俺は16層へ足を踏み入れた。
探索を始めてから3時間近くがたった。
「意外と広いな....」
ダンジョンの面積は階層を経るごとに指数関数的に増えていき、天眼通を使い続けたせいで24階層でMPが半分を切ってしまったので、そこからはしらみつぶしに探すようにした結果、今の到達階層は27階層だった。
だが、指導する人のレベルが10~20とのことだったので、取り敢えずはこの辺まで来ていれば問題はないだろう。むしろ、たった五時間の探索で階層を12層も更新できただけ御の字といえる。
「ん? これは....」
その時、不意にスマホに通知が届いた。ダンジョン内でネットがつながっていることに少し驚きつつ、画面を見るとそこにはパーティーメンバーがダンジョンを出たという内容が書かれており、細かく見るとその探索記録が地図に表示されていた。
なるほど、このスマホはやはり便利だ。ライセンスを差し込むだけで様々な機能が解放されるとは知っていたが、こうして実際にその機能を体験すると、その便利さが身に染みる。これが茨城ダンジョンでの遭難の時にあればどれだけよかったか....
そう思いつつ、27階層の入口に神足通ですぐさま戻ると、そのまま黒門を通りダンジョンの入口につく。何度やってもこの瞬間に少し高揚する自分がいる..... ダンジョンのどの階層からでも地上に戻れることを俺ほど享受している人は、多分この世にいないだろうと思う。
一応、誤魔化す用に少し取っておいた15層付近の魔石を十個ほど手に持って帰還すると、その魔法陣の少し横では例の三人衆が警備員に囲まれていた。
「ですから、パーティーメンバーの方が一人足りないようです」
「うっせーよ! こっちは疲れてるんだからさ、もう少し配慮ってもんを....」
「だから、あの寄生虫は..... あ! ここにいますって」
こちらを指さす二人、すると警備員さんの矛先はこちらに向いた。
「ライセンスの提示をお願いします」
「はい」
そう言ってライセンスを渡すと、いつものように警備員さんの目が見開かれる。
「え...Aランク? じゃあパーティーなんてことは.... あれ? 正式にパーティー登録がされている....」
混乱したような警備員さんを押しのけて、もう一人の警備員さんが続ける。
「原則としてパーティーで探索をする時は、集団行動を維持してください。今回は注意だけで済ませますが、次からは罰則として最悪の場合ライセンス停止もあり得ますからね」
「あ... はい」
それだけ言われると解放されたが、手に持っていた魔石はガラの悪い奴にひったくられ、そのまま販売所に預けられる。遠目に見ているとその合計はなんと25個、俺の分を抜いたら15個しか取れなかったのかよ.... と少し呆れつつ、スマホに送られてきた分配を見ると、なんと俺の取り分はたったの一割だった。
「マジかよ...」
明細には分配方法も書かれており、俺は当然頭割りだと思っていたのが、なんとパーティーリーダーの申告制。一割を下回ってはいけないようになっているようだが、俺の取り分はきちんと最低の一割で、残りの9割を3人で分配することになっていた。
「はぁ」
別にこんなはした金は惜しくないが、それにしても胸糞悪い。だが、事前の取り決めで俺は何も口を出さず、そのままパーティーを組んでしまっていたので何かを言うことは出来ずに解散となった。
.........俺はこの日、契約の確認は重要だと学んだ。あと、今度見かけたら糸繰人形で小指をどこかにぶつけてやろうと心に決めた。
あれ? 探索記録が取られてるってことは俺が27層まで行ったことがばれるのでは?
結果 → 百武さんの仕事が一つ増えた。
〇お知らせ
最近感想を多く書いてもらっていてうれしいのですが、作者はLINEの返信でも長時間思案するくらいの陰キャなので、基本返信はありません。ですが、サイレント修正は多少しているので、何か感想がある人はジャンジャン書いてみてください。