65 暴君(笑)
「お前ェ... 今俺を鑑定しやがったのかァッ!!!! ぶっ殺してやるよ!」
冷静に距離を取ったかと思えば、鑑定スキルを挑発と受け取ったのか、暴君はまたもや距離を詰めてこちらに突進してきた。
しかし、これはちょうどいいかもしれない。
今回は大吾のスキルだけを使って戦ってみて、大吾の見本の動きを教えてみよう。
『大吾、よく見とけよ』
『え? あ、はい』
[狂瀾怒濤] [唯我独尊] [怪力]
接近する中で、暴君はスキルを三つほど使った。[精査]によるとスキルの効果はそれぞれ狂化暴走の上位互換、天使の使ったデバフに近い効果、単純な筋力の強化、といったところだ。
大吾の体の能力値は軒並み下がっているが、これぐらいならまだ回避すればいいだけ。そう考えていた時に、暴君は予想外の行動をとった。
[一刀両断]ッ!
双剣の片方が大吾の首へと迫る中で俺は混乱していた。
なぜ双剣で一刀両断を使った?
俺も持っていたこのスキルは、両手で発動することで最も威力を発揮する両手剣用のスキルだったはず。
こいつの武器とスキル構成からして、毒属性の付与と双剣の連撃スキルによってチクチク削っていきながら、あわよくば破壊で大ダメージを狙うタイプだろうと推測していた。
いや、ぶっちゃけこいつのステータスだとそれ以外の戦闘スタイルが思いつかなかった。しかし、何かしらの高ランク装備の線も疑ったが、それらしき魔力は感じられない。
[死線眼]
俺の死神よりも自身の死を感じ取ることに特化した大吾のスキルを使ってみても、このまま大ダメージを負う可能性はみじんも感じられない。そのまま迫ってきた刃を太刀で受け流すが、この体の場合だと少し重く感じられるくらいで、ダメージを負うようなこともない。
「.......?」
双剣のもう片方を振りかざす暴君の腹に蹴りを入れて距離を取るも、暴君にとって予想外のことだったのか、体勢を崩して壁に激突し鼻から少し血を流しながらこちらを見ていた。
「え、それだけ?」
没入で完全に大吾の体を自分のものとして動かせることが災いして、思ったことをそのまま口にしてしまう。すると、みるみるうちに暴君の顔が赤くなった。
「ゴミがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
スキルの影響で、先ほどよりも少し早い接近により距離を詰めてくる。しかし、何の戦略性もないその突進に、もはやコイツがただの馬鹿であることが俺の脳内で確定した今、大吾の体ですらその攻撃は脅威でも何でもない。
「手本にもならなさそうだな」
その一言の直後に暴君はスキルを使用した。
「[全身全霊]ッ [破壊]、[一刀両断]!!!!!!」
「この期に及んで一刀両断かよ」
確かにその技に秘められた一撃は必殺の威力を秘めているが、避けられたら終わりでSPとMPを使い切るような技は必殺技と呼ぶにはあまりにも稚拙だ。
『大吾、これがお手本だ』
[鏡刃]
大吾の持つEXスキルの一つ、[鏡刃]。
このスキルの持つ特性は受け流したスキルをコピーしての反撃、しかもMPもSPも使わない。単純だが強力無比で攻防一体のこの効果は使いこなせれば下剋上が容易になるという、今まで俺が見たEXスキルの中でも5本の指に入るスキルだった。
暴君の文字通り全身全霊の斬撃の太刀筋を横に逸らすと、瞬間。膨大なエネルギーが暴君の双剣から握られた太刀に流れ込んでくる。
...これ、普通に殺しちゃいそうだな。
[手加減]
一応だがHPが一割は残るくらいに手加減のスキルを使って、無防備な暴君の背中にその一撃を叩き込むと周囲に衝撃とともに砂埃が舞った。
結局の所、あまり見本になったとは言えないなと思う中、なぜか違和感を感じた。
太刀から感じる感覚からは肉を絶つ感覚はせずに、まるで...そうだ、結界のようなものを切ったような、そんな感触しか伝わってこなかったからだ。
そして周囲の砂ぼこりは数秒でおさまり、見えた暴君の周囲には結界が、それも二重に張られていた。
「神降使ってギリギリとか... イカレてるわね」
「..............」
巫女のほうは何やら神威に似た気配を漂わせていてとても気になる。対して聖女の方は、その杖から膨大な魔力を感じられた。ちなみに暴君(笑)からは黄色い何かがしみだしていた。
「まともそうなのが入ってきたと思ったら、やばい奴だったわね。いきなり殺そうとする暴君もそうだし、それを余裕で躱したと思ったら流れるように始末しようとしたあなたも... やっぱり頭のネジが外れたやつじゃないとこんなところに来られないのね」
大吾のイメージがヤバいと思う中、そこにキングがフォローを出してくれた。
「まてまて、大吾はちゃんとセーブしてたぜ?」
「どういうことよ」
「手加減、そういってスキルを使ってた」
「…..なるほど、大吾さん、さっきの言葉は撤回するわ、これからも常識人枠としてよろしくね」
キンググッジョブ!と、そう思ったのもつかの間にキングからまた衝撃の一言が放たれる。
「あえて手を出さなかったが、どうだった?」
『.....大吾、後は頼んだ』
『え!? ちょっとぉ!』