63 集う超越者たち
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大吾が案内された場所は探索者組合ニューヨーク本部。
エレベーターで階をまたいで最上階まで言った場所で、何重もの防壁で守られたその中央には、更に結界で守られている大きな結晶が鎮座していた。
精査によるとそのアイテムの名前は転移結晶。二対になった結晶同士が起点となり、触れることで瞬時にもう片方の結晶の前に転移されるらしい。また、大吾が案内に従って開かれた防壁を全て通り抜けて転移結晶に近づくと、その中央には緻密な魔法陣が刻まれており、魔力回路と繋がっていることが分かる。アイテムとしてのランクはAでかなりの高レアだ。
「外交官のお方はここまでとなります」
そう告げられた背後に控える外交官は転移結晶を一瞥した後、エレベーターに乗り下の階に戻っていった。
「ここから先はEXランクの方以外が入ることはできませんので、案内もここまでとなります。移動はこの転移結晶に手を触れるだけで行われますので、転移した後は会場までカーペットに沿ってお進みください」
そのまま案内人も説明を終えると、エレベーターに乗って降りていき最上階には大吾だけが残される。
『アニキも転移できるんですか?』
『多分大丈夫だ、もしダメでも直接行ける』
大吾が転移結晶に触れる前に一応虚影で姿を消して、更にこちらでも影を通して転移結晶に触れておく。
一瞬の浮遊感の後に周囲の様子が一変し広間のような景色が見えた。
『ここが天空城の中?』
『ダンジョンの中と同じような空間に漂う魔力を感じるし、ちゃんと天空城の中にいると思う』
先ほどまでの現代的なビルの一室と違って洋風な城の廊下といった様子で前には一本道が続いており、そのまま大吾はカーペットに沿って廊下を進むと一際大きいドアが見えた。
ギィィ という音とともに重厚な扉を開いて、部屋の中に進むとその部屋の中央には大きな円卓があり、反対側に見覚えのある筋骨隆々な男が座っていた。
装備された鎧は天上のシャンデリアの光を受けて赤々と輝いており、その傍らには暗い赤をした戦斧、血喰が鎮座している。
「君が”世界三位” 石山大吾で間違いないか? 俺はキング、覇王と呼んでもらって構わない」
キングと別れて早三か月。もう一年ぶりくらいの感覚がするが、それだけあの迷宮での遭難生活が濃厚なものだったということだろう。キングの今のレベルはピエログリフによりこの三か月で392まで上昇していることが分かっているが、それは大吾が今のレベルに至ってから初めて対峙する一段上の相手という事。大吾もスキルによりその格の違いを感じ取ったようで、額には汗がにじんでいた。
「わかりました、では一応自己紹介を、石山大吾と申します」
席を立ったキングと大吾が互いに握手を交わすと、二人はそれぞれの名前のプレートのある席に着く。そして少し経つと次の人物がやってきた。
「一番乗り... というわけではなさそうね」
入ってきたのは巫女服、というには所々に甲冑が目立つ装備に身を包む、黒い髪を切りそろえた大和撫子という言葉を体現するかのような女性だ。
ネット記事で見たことがある。英傑序列6位”八百万の巫女”、EXスキルをレベル1時点で3つ獲得していた日本の奇跡であるとか。彼女は大吾の席の方に歩いてきて大吾が席を立つと、軽く会釈をしてから自己紹介を始めた。
「新入りさん、私のことは巫女さんと呼んでちょうだい? 家がそういう家系で呼ばれなれてるの。あなたのことは... 」
「大吾で結構ですよ、サード みたいな感じだと少し恥ずかしいので」
「わかったわ、それにしても、やっとまともな感性を持った人が会議に来てくれてよかった。他の人達ってば、自分の異名を平気で名前代わりに使うんだもの。中二病ってやつね」
「かっこいいじゃないか」
「はいはい」
キングの言葉は軽く受け流されて、巫女さんは自分の席に優雅に座り、次いで今度は三人が談笑しながら入ってくる。
金髪の美女に、中華風の服を着た美男子と、ドラゴンボ〇ルのような胴着を着た男で、彼らは大吾のほうに気づくとこちらに近づいてきた。
「初めまして! 私はオリヴィア、魔女さんってよんでね!」
「斉天大聖は呼びにくいだろうし、李とだけで構わない」
「少林だ、よろしく頼む」
三者三様の挨拶をした彼、彼女らは、前二人がそれぞれ英傑序列4位と7位、あと一人は聞いたことのない人だ。
その三人が席に座るとほぼ同時に今度は二人、肩を組んで大広間に入ってきた。
一人は細かい装飾が刻まれた大層な鎧を着こんでおり、その横の一人は随分とオドオドしていて自信なさげに見える、対照的な二人組だ。
「我が名は騎士王だ! これからは同じ円卓を囲むもの同士、仲よくしようではないか!」
一方的にそう言うと騎士王は円卓の一席に座り、その場に残された彼は
「太陽王」
という覇気のない一言のみでその場を離れて席に腰を下ろした。
騎士王は序列8位、太陽王は9位で、席は序列順なのか、二人は横並びに座っており、太陽王がまたしても騎士王に絡まれていて、その陰のオーラに俺は少しシンパシーを感じた。
『なかなかだな』
『はい。 特にあのキングと、魔女さんには勝てる自信がありません』
『....? キングに勝ち目ゼロなのはわかるが、あのオリヴィアさんにはお前でもいい勝負ができると思うが...』
『いや、ちょっと.... そのぉ』
大吾の視線はオリヴィアさんの胸元に向いていた。大胆な服装と言わざるをえないその部位は肌色が露出している。
『おい』
『眼福です』
『はぁ.....』
そして、今度はとても清らかなオーラを放つ女性が音もなく歩いてくる。その手には豪華な杖が握られており、衣装は白と黒を基調に所々青が混ざった、まるで聖女を思わせるような女性だが、彼女は誰と会話するでもなく席に直行した。
「あー... これでとりあえず一通りはそろっているし。まぁ、あいつが遅れるのはいつも通りなんでもう会議を始めようか」
しかし、キングがそう宣言すると同時に入口の扉が弾じけ飛び、また一人、俺と同年代くらいのチンピラのような男が入ってきた。
◇スキル解説コーナー
影法師(EX)
触れた対象のスキルをコピーすることができる。生きている対象だと抵抗されてコピーしたスキルが分からなくなるが、死体か友好的な対象であれば任意のスキルをコピー可能。眷属創生により魂でつながっている対象のスキルは遠隔でも使用できる。
現在は 筋肉至上(EX) 天啓(EX) 鏡刃(EX) の三つをストックしている。