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56 国家権力がなんぼのモンじゃい

あれからさらに一週間。


一日3時間ほどをSP(闘気)の練習に費やし他はゲームと睡眠という日々が続き、その成果として複数の新スキルの開発に成功したことで、魔闘法にはEXの文字が増えている。


そして、今日は大吾が言っていた定期的に東京とここを行き来する車が到着する日らしい。


今日でこの自堕落な日々とさようならになるのは少し惜しいが、ダンジョン生活の中で少しだけ残った常識が社会復帰はするべきだろうと訴えかけてくるので、その車に乗って東京に行かせてもらうことにした。


Go〇gle先生情報によると俺みたいな境遇の人は大吾の言っていた通り迷宮遭難者と呼ばれるらしく、保護されてすぐに身元確認や事情聴取が政府と各地の探索者組合により行われ、終わり次第レベル測定と高レベルの場合は探索者ライセンスの配布があり、そうしてやっと解放という手順で手続きが進むのだとか。


俺はレベル999な訳だが大丈夫だろうか? もしばれたら面倒ごとになる気しかしないので何とかしてごまかす所存だが、影法師のスキルである虚飾はSランクなのでもしEXスキルとかで鑑定されたら普通にばれる。


....神通スキルを併用すればいけるか?


しばらくの間考え込んでいると車の音が聞こえてきたので窓から覗いてみる。しかし、そこには軍用車らしき灰色の車が十台近く停車していた。対する大吾はその集団に対し物々し気に対峙している。


「なんだアレ?」


ナンバープレートは一般的な物とは違い数字だけのもので、中でもひときわ目を引くのは中心に二台だけ鎮座している装甲車と形容すべき車だ。その男心に刺さるフォルムをしたその車からは2人ほどレベル90相当の人間の気配がする。流石にあのレベルに大吾が負けることは無いだろうが、一応木陰に影を伝って移動して様子をうかがうことにした。





少しの膠着の後に装甲車の一つの後部に取り付けられたドアが開かれ、スーツ姿の男性が降りてくる。その前後には腰に剣を引っ提げた迷彩柄の装備をした男と、ローブを纏い手に宝玉の取り付けられた杖を持つ男がスーツの男を守るように控えている。


「内閣府からの依頼をお願いに参りました、迷宮省の相羽と申します。英傑序列第三位、石山大吾氏にお取次ぎいただいても宜しいでしょうか?」


「ぁはい、私が石山ですが...」


「そうでしたか! まさか日本でシングルナンバーに名を連ねるほどの強者が誕生するとは、こうして直接お会いし話すことができて光栄です」


そんな雑談が始まる中で大吾の視線がこちらへと向いていることに気づいた。一応影の中から覗いているんだが...


大吾が手に入れたスキルを後で確認させてもらおうかと思ったところで、その額に汗が見えたのでそろそろ助け舟を出すとしよう。まぁちょっと通話するだけなのだが...


そうしてキングも使っていた以心伝心を発動し声をかけると、すぐさま露骨な安堵のため息が聞こえてきた。


『今スキルで声を届けてるんだが、そっちからも頭で思い浮かべればこっちに声を送れるから。で、どうするんだ?』


少しして状況を把握した大吾から返信が返ってくる。


『どうするも何も、国の言う事ですしついていかなきゃまずいんじゃないんですか?』


『そうなのか?』


『さぁ? こんなことは初めてなので分かりません』


『とりあえず相手は本当に内閣府の迷宮省なのかと、どうして名前を公開していない大吾の本名と居場所を突き止めたのかを聞くべきだ』


『了解しました!』


一度以心伝心を切るとスーツの男が繰り出すマシンガントークの隙を見て大吾は質問を始めた。


「二つほど聞きたいのですが、先ずは本当に内閣府からの依頼なのか...と言いますか...」


「はい、こちらが令状になります」


「れ、 令状⁉」


相羽さんの手には一見するとただのA4サイズの紙が握られており、その一節には物凄く読みにくい四字の印鑑が押されていた。


「一応ですが大吾さんは世間一般で言うアウトローなので... ですが上層部に代わってこのような令状という形で依頼を行う事になってしまったことをお詫びします」


「あ...はい。 あともう一つだけ... 私は英傑序列に実名は登録していないはずなのですが、どうして居場所と名前を知ることができたのでしょうか?」


「我々迷宮省直轄の能力者警察組織である新選組の事はご存じですね? そのメンバーの中にそういうスキルを持つ隊員がいるとだけ言っておきましょう。ただし機密事項なので他言無用でお願いします」




距離の詰め方が上手い。


俺の彼への第一印象はそんな感じだ。上層部に悪印象を誘導しつつ自身は謝罪、さらに機密情報を共有し他言無用ということで仲間意識を植え付ける。だが新選組云々の話は嘘だろう。森羅万象により強化された五感が捉えた心臓の鼓動はあの一瞬に少し早まっていた。



『油断するなよ、あとは任せる』


『了解しました!』


後のことは本人に任せよう。本人の脂汗もかなり引いてもう大丈夫そうなので、ここからは見守ることにした。だが、どっちにしろ俺が東京に行けないことはほぼ確定してしまった。


あんな車に身元不明の迷宮遭難者が乗れるとも思えないしな。




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