54 ホームグラウンド
こここそ俺のホームグラウンド。約二か月半もの月日をこの階層過ごしているので、ここら一帯は既に知らない場所は無いといっても過言ではない。
そして、後ろを振り向くとそこには黒門があった。いままでに見たことがある次階層への門と同じ姿をしているが、確実に俺が通って来た、0階層と繋がる黒門だ。
「で、アニキ ここは何階層なんですか?」
「58階層だ」
「骨は拾ってください....」
「自分で持って帰ってくれ」
顔が真っ青を超えて紫になっている大吾の冗談をスルーしつつ、まずはこの階層と武器の説明から始めていく。
「まずこの階層はオークの上位種が出てくる」
「なるほど」
「レベルは平均200ちょい」
「あばばばばばば」
遂には泡を吹き始めた所をすぐに回復し、更に解説を続ける。
「その武器に関してだが」
「これってアレですよね、英傑の上位しか持ってないと噂の魔法武器...」
実は魔法武器はAとBのランクの武器の事で、Sランクからは聖剣や魔剣のような分類になるのだが.... まぁ、言わなくてもいいか。
「ついているスキルは殺戮応酬、怨念吸収、不壊、血判の四つ。効果としてはそれぞれ、大量に殺した種族への攻撃力増加、倒した相手のMPとSPの吸収、壊れなくなる、血を介した契約、って感じだ。うまく使ってくれ」
「さすが魔法武器...」
言い終わってすぐ、木の枝が折れる音や木の葉を踏む音が聞こえてきた。
「興奮してるところに悪いんだが、お客さんが来たぞ」
「へ?」
お久しぶりのオーク先輩が一匹、感覚的に距離は約300メートルくらいでこちらに一直線に走ってきている。すぐに大吾の手を掴み、神足通でその後ろに転移して四肢を切断してしまう。
「よし、やっていいぞ」
「すごいっすね..」
若干引かれた気がするがオーク一匹で大吾のレベルは80に到達した。この調子であと百体ほど狩ればいいだろう。
「後 五、六匹は俺が相手してとどめだけ任せるけど、そこからは一人で実践経験を積んでもらうぞ。」
「押忍!」
それからたった5分ほどで、神足通と天眼通により8匹のオークを狩った大吾のレベルは150。それも格上を相手したおかげで能力値の伸びもいいので、これくらいならオークをタイマンで相手できるだろう。
「ここからはタイマンで戦ってもらう訳だが、戦うにあたって把握すべき要素が3つある。何かわかるか?」
「わかんないっす」
「...正直でよろしい。まず一つ目は敵の特性の把握、これができると相手の弱点を効率的につけて、かつ負傷のリスクを下げられる。
二つ目に周辺の把握、敵との戦闘で予想外の伏兵は致命的な隙になる。だがこれができると周辺の地形効果を利用した戦闘が可能になる。
三つ目は自身のスキルの把握だ。今一番するべきことで、スキルがいきなり増えた今みたいな時は、スキルが統合されて今までと違う使用感になることもあるからな。逆にちゃんと自分の手札を把握することで戦闘での選択肢が増える。
あ、ちなみにこれ俺の経験談ね」
「なるほど...」
うん、コイツ絶対分かってないな。
「つまりは、自分の切れる手札と相手の切れる手札を把握して場を整えるってことだ」
「つまりは... 麻雀⁉」
この世の真理に気づいたような顔をしている大吾だが、それもなんか違う気がする。こんな時はやはりアレだよな。
「いい事を教えようか、今みたいに安全が保障されているならば、一番成長できるのは命の危険を感じる事なんだ。ちなみにこれも経験談」
その瞬間、大吾の顔が青くなる。どうやら直感のような系統のスキルを獲得したらしい。
「え~っと、もう十分強くなれたし...」
「力を持て余したっていい事ないぞ?」
「ギィヤァアァァァァァァ」
突如として逃亡を図った大吾であったが、俺から逃げられるはずもなく。既にその体には無数の糸が巻き付き指の一本たりとも動かせない状態になっている。どうやらこの焦りようからして、もっとランクの高い、予知のようなスキルがあるのだろう。
「一生ついていくって言ったよな? 生半可な状態で辞めるのはいただけないな」
「ここで一生が終わっちゃいますってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
悲鳴が森中に木霊する。
この階層のオーク達はかなりの確率で感覚系のスキルを持っているので、既に多くのオークの耳にこの声が入り、こちらに向かってきていることだろう。
「レベルだけ上がっても自分の戦い方を確立できないとすぐ死ぬぞ~」
「お助けぇ!!」
その後どうなったかは想像に難くない...