3 目覚め(2回目)
またしても、自分の体に当たるヒンヤリとしていて、ザラザラした石畳の感触で目が覚める。
いつの間にか、手に持っていた宝箱と狼の死体は消えていた。しかし、アレが夢だったわけではない事実を、背中と腕の激痛がこれでもかと証明している。
冷汗が滝のように出て、痛みのある場所は赤く腫れあがっていた。まだ試したことはないが、自身にも解析をかけてみると...
【解析】
⇒ 【種族】人間 Lv.105
【Name】 早川誠
【天職】 忍者(New!) Lv.1
【状態】 骨折(腕) 全身打撲
【称号】 探索者(茨城ダンジョン:57階層) 先駆者...
◇ 能力値
HP 53/624 MP 762/762 SP 782/792
筋力 680 魔力 753 耐久 594 敏捷 916
◇ 耐性
⇒耐性
物理耐性(C)Lv.1(New!) 苦痛耐性(D)Lv.1(New!)
恐怖耐性(E)Lv.1(New!)
◇ 種族スキル
人智の加護(D)Lv.-
◇ 職業技能
⇒忍者(A) Lv.1
神出鬼没(A)Lv.1(New!)
暗殺術 Lv.1 - 急所看破(D)Lv.1(New!)
忍術 Lv.1 - 遁走(E) Lv.1(New!)
◇ スキル
・特殊スキル
⇒パッシブ
成長加速(A)Lv.1(New!)
強化五感(C)Lv.1(New!)
罠発見(E)Lv.1(New!)
⇒アクティブ
式神作成(EX)Lv.1 解析(S)Lv.1 隠密(C)Lv.1
罠作成(C)Lv.1(New!) 罠解除(D)Lv.1(New!)
状態の欄が 骨折(腕) となっていることからも、やはり腕は完全に折れているようだ。あと、勢いよく壁にぶつかったせいで、焼けるような激痛が背中からも感じられる。
「ってぇ...」
鑑定があるなら回復は出来ないのかと必死にイメージを浮かべるが、変化は何もない。まあ思い起こしたステータスには回復ができそうなスキルはないし、当然と言えば当然のことだ。しかし、目の前に転がっている剣を見て、そういえば色水をポケットに入れていたという事を思い出した。
かなりの勢いで壁にぶつかったようなので、瓶が割れてないかなと心配しつつポケットをまさぐると... よかった。無事だ。瓶は割れてないし、中の液体も前のケミカルな色合いから変わっていない。
相変わらずの着色料を溶かし込んだような色合いに抵抗はあるが、無視して強引に嚥下する。...味はただの経口補水液だった。もっとも、無難な味とは裏腹にその効果はすさまじく、全身がスッと冷めたと思えば、腕から背中の痛みまでが嘘のように消えていく。
「!... すごい効果だ」
違和感なく動くようになった手で全身を確認すると、両腕の骨折と背中の痛みどころか、爪のささくれまでもきれいさっぱり消えている。加えて、まるで冷や水を浴びせられたように、思考や感情の乱れが凪いでいた。
狼のいたはずの場所を見ると、そこには雑貨のような何かが散乱しているのみ。肝心の狼の姿は、影も形も見えなかった。
取り敢えずは一安心だ。まぁ、今回は幸運にも助かったらしいが、あんなのに襲われては命がいくつあっても足りない。なので、足音や呼吸など、細心の注意を払って立ち上がり、あの狼の置き土産を遠目から確認すると...
「あれは... 宝石と、ビー玉かな?」
少し距離が遠いが、念じると問題なくスキルは発動した。
【解析】
⇒ 種別 魔石 Rank B
総評 フロアボスモンスターの魔石
特殊スキル 式神作成(EX)に使用可能
⇒ 種別 スキルオーブ(魔力自在S) Rank S
総評 割るとスキル 魔力自在(S) を獲得
⇒ 種別 スキルオーブ(覇気A) Rank A
総評 割るとスキル 覇気(A) を獲得
「スキルをゲットできるのか、すごいな」
どこから見てもただのビー玉だが、ランクの高いスキルを手に入れられるらしい。
確認も終わったので、スキルオーブを二つとも割ってみる。すると、それぞれが虹色の光と赤色の光を発して消えてしまった。慌てて自身を解析してみると、スキルの欄には魔力自在と覇気のスキルが増えていた。
そして、今までは身体の中に無かった温かい物が感じられる。これは... 多分だが、魔力自在の効果かな? そして覇気の方はというと... 使える感覚はあるものの、当てる相手がいなくて効果はよく分からない。だが予想するに、あの狼の眼前で感じた威圧感の正体... それがこのスキルなのだろう。
「これで俺も魔法使いかな?」
そんな軽口をたたいてみるが、狼の殺気は未だに頭から離れてくれない。どんな魔法が使えようとも、あの狼を倒せるわけがないという考えが、既に脳裏に焼き付いているせいだ。
「よし! 次だ。次いこう!」
空元気で自らを鼓舞し、次は魔石を取ろうと足を動かす。そこで、他にも巻物のようなものが落ちていることに気づいた。物は試しだ。と、そう思い開いてみると、こちらはすぐさま燃えて消えてしまう。
【解析】
もう一度、改めて自分を解析してみると、新たに魔法スキルの欄が増えていた。
「”鎌鼬” 風の魔法か。あの狼のステータスにもこの魔法があったな.... というか、魔法もスキルなら魔力自在の存在意義はどうなるんだ?」
鎌鼬を使ってみると、ヒュ... と鋭い音を立てて、つむじ風が岩壁を抉った。まずい。結構大きな音が出た。
すぐさま息を殺して様子を見るが... 大丈夫そうだな。
「はぁあああ...」
少し脱線したが、改めて魔石の方を見る。さっきは解析で見た結果、どうやら俺のスキルが使えるらしい。
「物は試しだな」
【式神作成】
何が起きるのかと、ちょっとした期待を膨らませながらスキルを発動する。
すると、魔石を中心に霧の渦が形成され、一分ほどでその霧は晴れていく。しかし、その中心に立つものの姿を見た瞬間、俺の意識はまたしても飛びそうになる。
そこに居たのは、先ほどの姿と寸分も変わらない狼だったからだ。




