33 最終決戦 ②
多分だが、天穿を十発当てれば倒せるだろう。しかし、それは不可能と断言できる。そもそもSPが足りないし、未知数なEXスキルの数が8個あり、防御系のスキルがあれば、必要数はもっと増える。
EXスキル多すぎだろ。下がる前のレベルは999だったんじゃないか?
「考えるのも良いが、まずは拳で語り合おうじゃないか」
バロムは即座に距離を詰めて来る。
速い が、普通に俺よりは遅い、MPとSPを節約して戦う戦法ということだろう。その大振りの拳を避け、後ろからスキルを使おうとするが、いきなり何かが眼前に迫って来る。直前で神足通で回避することはできたものの中々危ない。どうやら視界を覆っていたのはあいつの足だったようだ。
「ほう、なかなか素早いようだな」
そこから攻撃をよけること少し、バロムは周りの石礫を目に向けて投げてきたり、拳の間合いで接近戦を仕掛けてきてはスキルの使用を察知して妨害をしてくる。
言っていることは戦闘狂のそれだが、なかなかに老獪な戦い方だ。しかし、神足通を使えば攻撃を喰らうことはない。
「ふむ、埒が明かんな。少し本気を出そうか」
その一言をきっかけにバロムの雰囲気が変わった。魔力しか感知できず、法術スキルも持っていない俺でも分かる程の爆発的な気配の高まりで、一瞬気を失いそうになった。
「[ 怪力乱神 金剛不壊 疾風迅雷 ]、そして最後に、[憤怒] では参る」
その瞬間、バロムの姿が掻き消える。
すぐに神足通で距離を離すが、その先にはすでに拳が迫っていた。
とっさに魔力を眼前に集中させ魔力装甲を展開するも、それもまるで飴細工のように割られてしまい、どうやら顎を殴られたようで意識が朦朧とする。
しかし、頭が吹き飛んだわけではないのは幸いだ。
「どうやら運も良いようだ」
頭がはっきりしてくると、目の前に割れた般若面が見える。中々着け心地もよく気に入っていたのだが、綺麗に真っ二つだ。しかし、気にしている時間はなくすぐ剣を構え直し、数秒でなんとか頭の揺れも収まってきた。
バロムは持ち直す間にどうやら律儀にも待っていたようで、拳を構えフォームを取る。
「吾輩の力を前にして、貴様は何を成すか見せてもらおう」
そう言うと同時に、またもやバロムの姿が掻き消える。今の俺の敏捷は前よりも高い8000ほど、その動体視力ですら捕捉できない。
神足通で移動し壁を背にして対処しようとするも、その拳を躱すのは至難の業で、剣を盾に防御するもその防御すら簡単に崩される。
「ぐぉッ [鎌いッ
防御を崩されるも、拳が振り抜かれた隙にカウンターを狙うが、それすらも読まれていたのか体勢を崩され吹き飛ばされてしまった。軽い足払いですらこの威力、筋力値が2万はあるんじゃないかと疑うほどだ。
さらにバロムはその機動力を生かして接近してくる。こちらは影糸で罠を張るが、すぐ近づかれて背中に攻撃を喰らった。もう既にHPは半分を切っている。
「やばい、このままじゃ... あれは?」
姿を見せたバロムは何故か腹のあたりを押さえており、よく見ると白かった手袋は赤く染まっている。今まで俺はあいつに攻撃が当たっていない。しいて言うなら影糸が当たったかもしれないというくらいだ。だが、アイツの耐久値は3000を超えている。耐久値が500ならあれくらいの傷を負うかもしれないが、対してあいつの筋力は2万、敏捷は3万を超えていてもおかしくない。
スキルというものは等価交換であり、ランクに合わない効果を持つスキルはデメリットを伴うものが多い。
バロムの拳がさらに振り抜かれる。その攻撃はまともにくらえば俺の命を簡単に奪える威力を持っていた。対して、こちらも影糸で拘束しながら雷霆万鈞を放つが、その雷はあまり効いているようには見えない。
....移動中だけ耐久が下がっているのか?
予測はできた。
バロムのスキルは自分の能力値を減らした分ほかの能力値を上げられるスキル、移動中は耐久を犠牲に敏捷を上げ、攻撃時は敏捷を犠牲に筋力を上げている。だから連続で攻撃していないと考えると辻褄が合う。
が、あくまで予想でしかない。
「賭けだが、やらなきゃ死ぬだけだしな」
であれば攻略法は一つ、移動中に最大火力をぶつける。幸い使えそうなスキルはこの間手に入れたところだ。
[剛糸結界]
まずは移動場所を制限する。そして使うのはこのスキル、
[残像剣・五月雨・天穿]
新スキル残像剣、これは武器による攻撃をその場に残像として残せるスキルだ。壁側に移動してさらに迎撃方向を制限しつつ、ポーションでなけなしのSPを回復して、その場に残留する斬撃を配置する。
これで正真正銘、SPはもう使い切ってしまったので、バロムのHPを削り切れなければそれまで。
どうなるか、
そして視界からバロムが消え次の瞬間砂埃が上がる、感覚から残像剣が起動したことは分かった。
「ッ どうなった?!」
砂埃がおさまり、そこには胸に大穴が開いたバロムがいた。
「まさか吾輩にここまで傷を負わせるとは、スキルに気づく慧眼もある。よもや人間界にここまでの人間がいるとは、楽しみが一つ増えたな」
そういいながらも、バロムは何事もなかったようにこちらに歩いて来た。
SPはすでに無くMPも残り二割、一割は山勘で頭部の防御に、そして残り一割でこいつを仕留める!
[過充電・雷霆万鈞]
バロムの拳が目の前に現れる、やはり頭を狙ってきたが、魔力装甲を割られる直前に火花が散り、腕を伝って雷撃がバロムを貫いた。
一方の俺はというと、鼓膜も破れたのか雷撃の音も聞こえなくなったが、それでもバロムが何を言ったのかは何故か理解できた。
「見事だ」
だが、俺の頭には一つしか思い浮かぶ言葉はない。
「頭いてぇ」
そして俺はいつもどおり意識を手放した。