31 そこはやられる場面だろ
セイクリッドオーク程度ならば瞬殺できるほどの一撃であり、この技は自分の敏捷でも認識できないほどのスピードを持っていた。衝撃波によって周囲の窓はすべて割れ、重かった大扉も吹き飛んでいた。
しかし、オークエンペラーは傷一つ負っていない。
「はぁ!? そこはやられる場面だろ!」
流石にあんな前置きをして、必殺技っぽい名前まで言って無傷とか... 恥ずかしすぎるだろ! 黒歴史確定じゃねーか。
しかし、解析してみると、オークエンペラーのMPは半分以上削られていた。
防御力を超強化するスキルか、だが当たった感覚はなかった。ということは回避した? いや、オークエンペラーは動いていない...
考えても仕方がないということは分かった。だが、少なくともこれにはMPを大きく使うことは確実。オークエンペラーのMPは半分を切っているので、もう発動はできないだろう。しかし、こちらもさっきの一撃でSPがかなり吹き飛んでおり、同じ技はもう使えない。
やはりスキルを三つ以上組み合わせるのは燃費が悪いのがネックだ。
「グギィいいいいいいいいいいいい!!!!」
いきなりオークエンペラーが叫び出す。そして、窓から山賊のようなオークが複数入ってきた。俺はそちらに気を取られ、そのタイミングでオークエンペラーも魔法を、なにやらタメを入れて発動しようとしている。
この魔法は見たことがある。風が集まって歪んで見えるその魔法は、フェルの使うウィンドランスだろう。
「ギィ!」
蔑むような笑みで、そのまま魔法が俺へと放たれた。その魔法に込められた魔力は、到底脅威には感じられず、魔力装甲で十分防御できるレベルだった。
しかし、次の瞬間。放たれた魔法から禍々しいオーラがあふれ出した。すぐに残りのSPを温存している場合ではないと判断して神足通を使うも、少し遅かったようでそのまま魔法は腹を掠めた。
「グぅッ 魔力装甲と外套の結界を貫通した!?」
二重の防御と耐久の能力値をいとも容易く破られ、かすっただけで腹から血が流れ出る。見ると、さっき突入してきたオークが一匹膝から崩れ落ちている。それを見て何となく察した、これはオークエンペラーのスキル”生贄”だ。体感でクズノハの神通よりも強化倍率はよほど上のようだ。
「クソッ 判断ミスったな、作戦変更で行こう」
すでにオーク達は魔法を用意しこちらに打ってくるが、こいつらは無視で狙うはオークエンペラーだけ。式神作成で落ちている小石の2つを式神化し、まとめて投げる。そして、神足通で位置を入れ替え接近する。
オークエンペラーの槍が振られ、それを刀で受けると、とてつもない圧力がかかった。そのまま皮膚を引っ張られるような感覚で身動きが取れず、俺は槍を喰らい吹き飛ばされバランスを崩してしまった。
そこでオークエンペラーが、今度は槍を前に構えた。よく見ると輝く星のようなものが中に封じ込められたその槍は、輝きを一層増していき一筋の光を作り出す。あの槍のEXスキル、月光収束。あれを喰らったら良くて貫通、最悪塵も残らないだろう。
「だがしかし!! [斂魔・水鏡]、 追加で [筋肉至上]!」
放たれた光線は、生み出した水の鏡面に当たると、物の見事に跳ね返り、オークエンペラーの肩にこれまた見事に突き刺さり、その肩に大穴を開けた。
待ってましたとばかりに、すぐさま俺は石の式神と位置を入れ替えた。さらに、
[武装破壊]
片腕で槍を握るオークエンペラーの槍に一撃を叩きこむ。すでに勝ち筋は見えていた。
「グアァ!」
ガラスの弾けるような音を出し、オークエンペラーの槍は砕け散る。これが俺の作戦、武器破壊作戦だ。
オークエンペラーを仕留められない理由である武器スキル”龍鱗”。こいつさえ何とかなれば、後は魔法攻撃が通るようになる。
しかしそのまま首を狙い、雷撃を宿した剣を振りかぶるが、その攻撃は違うオークに当たっていた。
「入替転移か、でも時間稼ぎにもならないな」
オークエンペラーが逃げたのは玉座の前。そして、今まで静観していた他のオークが一斉に飛び掛かって来て、また時間稼ぎかと少し辟易する。しかし、その考えは瞬時に吹き飛んだ。
オークエンペラーの前に浮かぶ大きな魔法陣。その周囲には、さっきの生贄を使ったオーラが漂っていた。
「まずい!」
すぐほかのオークを片付け、オークエンペラーの首を斬るが、そのオーラは一つとなって異様な気配を放ち始めた。
「クソッ [致死一撃・天穿]!」
残りのSPを振り絞った一撃は、岩を切ったかのように動かない。
「まったく、せっかちな奴だな」
その切先は、たった二本の指で止められていた。