1 目覚め
少しずつ目が覚めてくる、体中の小さな痛みで意識が覚醒していく。
(なんだ? 体が痛い。まるで地面で寝た後みたいだ)
頭に疑問が浮かぶ、昨日は家のベットで寝たはずだ。
(ベットから落ちたのか?)
しかし、そんな考えを否定するように、背中から岩の少しひんやりとしていて、ごつごつした感触が伝わってくる。
あまり見えなかった目も少しずつ慣れてきて周りが見え始めるが、目線の端には自室にあるはずもない石の畳が見えていた。
(硬い... 石畳?どういうことだ?)
岩の上で寝ていたせいで少し痛む体に力を入れて飛び起きるが、そこはどう見ても自室ではない。まるで洞窟のような空間が広がっていた。
床だけは石畳でできているものの、壁や天井は岩肌がむき出しになっていて、見たことも無い光る苔のようなものが至る所に張り付いていたり、虹のような光沢を持つ水晶のような鉱石が所々に見てとれた。
「え、 ここ... どこだ?」
俺は誘拐される理由も思い当たらないし、誘拐にしてもこんな洞窟に放置される理由だって分からない。
そして、ここは所々に空いている横穴や、先の見えない一本道があるだけ。しかし、その光景は不思議に光る岩壁と今まで感じたことのないような情景によって、この世のものとは思えないほどに神秘的だった。
(ハハハ... ダンジョンってやつかな?)
あまりにも現実味のない光景に頭がフリーズしてしまっている中、試しに少し歩いて近くにあった横穴をのぞいてみると、なんとそこには虹色に輝く宝箱があった。
「た...宝箱!? マジで? え、ドッキリ?」
しかし、現実にはあり得ないような不思議な色で光るその箱を見て、ここはファンタジーなダンジョンであると、なぜか確信が持てた。
もはや、頭の中からは誘拐だのの可能性は微塵も残っていない。
「すっげーキラキラしてる、この宝箱何が入っているのかな?」
【解析】
そんな風に宝箱に触っている中。声に反応したのか、頭の中に情報が刷り込まれるような... そんな何とも言えない感覚がした。
種別 宝箱 Rank S
総評:最高ランク一歩手前の宝箱
「うおぉぉぉ! これはやっぱり ”鑑定スキル” 的なやつか? こういうスキルはファンタジーの定番だし、というか、まさかスキルみたいなのまであるとは...やっぱりここは異世界か? 俺、異世界転移しちゃった?」
よくある展開だと、こういう時はミミックだったり、空っぽだったりというパターンがあるものだが、深夜テンションならぬ中二病テンション中の俺からすれば、そんなことが脳裏によぎるはずもなく、何の迷いもなく宝箱を開けていた。
すると宝箱からは光があふれ出し、煙のように消えてしまった後には三つのアイテムが残っていた。
「剣と瓶と.. また宝箱?」
一見するとただの無骨な剣と、青い薬の入った瓶と、木の小箱でしかない。これがあのすごく光っていた宝箱から出てくるものだろうか...
そんな疑問が浮かぶが、こういう時こそ鑑定スキルの出番だろう。
「鑑定、鑑定、.....」
ただ鑑定と口にするだけではなかなか発動せず少し不安になったものの、これは何なのかと少し念じてみると、意外と簡単にスキルは発動した。
スキルの発動条件は、明確な目的を持って念じるという物なのかもしれない。
【解析】
⇒ 種別 魔法武器 刀剣 Name 鉄骨剣(Lv.1) Rank B
材質 青生生魂 龍骨 魔鉄 耐久度 ∞
補正 攻撃 +500 魔力 +250
スキル 成長(EX) 不壊(A) 修復(B)
総評 成長する武器。
潜在的にEXランクに進化する可能性を秘めている
特殊な攻撃以外で破壊されず、壊れても修復する。
⇒ 種別 エリクサー Rank A
効果 状態異常治癒(A) 身体欠損再生(A)
MP回復 HP回復
MP+10(永続)
総評 Aランクの回復アイテム。
⇒ 種別 罠の宝箱 Rank S
効果 土槍射出(一回) 攻撃 3500 防御貫通(S)
総評 一回に限り、前方に土属性魔法の槍を射出する
鍵穴で敵に反応するため後ろから持てば発動しない
青生生魂 アポイタカラ?って確か伝説の金属のはずだし、エリクサーはあれだな、F〇で出てくる回復薬だ。あと、何気に罠の宝箱のランクが地味に一番高いのは何なんだ...
所々に違和感はあるものの、大体の情報はよくあるファンタジー作品に出てくるものであり、剣と回復薬はランクがAやBなので、結構なレアものかもしれない。
そして、実際に手に取ると鉄骨剣は意外と軽くて扱いやすそうだ。しかし、エリクサーの方は近くで見るとただの色水にしか見えなかったが、一応ポケットに入れておいた。
そして最後の一つ、罠の宝箱。
「これは置いて行ってもいいかな」
罠の宝箱をわざわざ持ち歩いてもいいことはないだろう。
その後は、夢現な気分のまま剣を振り回してみたり、ビンを観察するだけでも日頃の不安が吹き飛ぶほどに気分が良くなる。
学校の剣道で習ったように剣を両手で正眼に構えて振ってみると、フッと風を切る音が聞こえて気持ちいい。
まるで物語の主人公になったようだった。
「グォアゥ....」
しかし、そんな気分も束の間のことだった。
何かが力強く歩いているような音がした後、動物の唸り声のような声が聞こえてくる。
その瞬間、先ほどまでの有頂天な気持ちは一瞬で消え去り、俺は金縛りにあったように動けなくなってしまった。
唯一動く目線をおそるおそる横穴の入り口に向けると、そこにいたのは体長が3メートルを超える巨大な狼だった。