25 料理は意外と大切
...
そしてそこから5時間ほど影を伝ってオークを追いかけると、前方に白い壁が見えてきた。一度影から出ると、キングは窮屈だったようで、大きく伸びをしている。
「ぐッ ~ああぁぁ ふー ここ最近、太陽が恋しいと感じすぎてる気がするな」
「それよりもこっち見てみろよ」
そこには、先ほどオークが抜けていった白い壁に、ぽつりと一つ付いている大きな門があった。
「なんだこの壁は。 ダンジョンの壁か? でも門がついてるな。」
上を見ると40メートルほどで途切れていることからも、それは確かだろう。
「とりあえず壁の上に上るぞ。[神足通]」
壁の上は肉眼でも見えるため簡単に移動できた。しかし、そこから見える景色には二人そろって開いた口がふさがらないほどだ。
「村? いや、そんなもんじゃない、これは城下町か!?」
目の前には万里の長城のように長く続く城壁に囲まれた、無限に続くような同じ作りの一軒家と、異質感の漂う巨大な城がそびえ立っていた。
そして、しばらく見ていると、あのオークは城の中へと入っていく。他の一軒家に影眼を飛ばしてみても生活感は無く、オークもいない。
結論としてオークはあの城を拠点としているらしい。影眼で見たところかなりの数のオークがおり、最上階には結界のようなものが張ってあって影眼で確認できなかった。それに、他の場所には突出してレベルの高いオークの個体はいなかったので、多分ボスは最上階にいるのだろう。
根拠? RPGで魔王は最上階にいる、そういうものだろう。事実として結界も張ってあるし。
だが、あの数のオークを相手にするのは一人では厳しく、フェルたちを呼べない今、数で押し切られれば負ける可能性もある。
「キング、今のレベルはいくつになってる?」
「171だな」
流石に、レベル300越えのオークを複数相手にするには少し心もとない。
「まずはレベリングをしよう。多分だが、定期的に偵察部隊のオークが城から出てくるはずだ。そいつらを狙おう」
「わかった、まだ足手まといだし頼らせてもらうぜ。」
話がひと段落すると、空が黒く塗りつぶされ始めた。
「なんだあれ? 空が黒く染まっていく」
「夜が来たんだ。 見たことないのか?」
「あぁ、俺のいたダンジョンは最初は洞窟型で、30層からは猛吹雪で空なんて見えなかったからな」
そんなタイプのダンジョンもあるのかと少し感心しつつ、伏魔殿のスキルで空間に裂け目を開く。流石に夜中の探索は避けるべきだろうし、特に連携も取れない2人組なら尚更だ。
「とりあえず今日は休もう」
そう言って開かれた空間の裂け目を見たキングは、遠い目をして特に反応はしなかった。
「これは俺のスキルで、自分だけの空間を持てるんだ。主に俺は拠点として使ってて、あの小屋は寝室でその隣は倉庫、食事は基本あの焚火のところでとるようにしてる」
「フッ 俺はどうやら、ダンジョンに居すぎたせいで現実が見えなくなったらしい」
「現実を見ろ、取り敢えず飯にするぞ」
「パンか」
「いや そうだな、今日は生姜焼きにでもするか。」
「ショウガヤキ? 食べたことのないパンだな」
「パンじゃなくて豚... というかオークだけどな。」
その一言を聞いた瞬間、なぜかキングは固まってしまった。オークを食べることに衝撃を受けたのかと思い、別のにするかと声をかけてもまったく反応しないので、先に生姜焼きを作ってしまうことにした。
まずは、豚を薄切りにし、本当は薄力粉が良いが、今回は無いので片栗粉をまぶす。
次は、レモン、塩、生えていた生姜など、ありあわせの材料を混ぜてたれを作り、最後に豚肉を油をひいた薄くて平べったい石の上にのせて、焚火を使って中火くらいで焼いていく。
本当は玉ねぎも欲しいところではあるが、無い物は無いので仕方ない。両面がある程度焼きあがったら、たれを全体に絡めていって完成だ。
醤油がないので随分とさっぱりとした味わいになっているだろうが、生姜を使っているので生姜焼きであることに変わりはない。
「よし完成!」
できた生姜焼きを薄い石の皿にとって、キングの方にも置いておく。ボケっとしていたキングだったが、気が付いたらものすごい勢いで料理を食べ始めていた。
「やっぱり味気ないよなぁ。醤油はさすがに作れないし」
キングの方を見てみると天を仰いでいる。少しレモンを入れすぎてすっぱめなので、舌に合わなかったのかもしれない。
「どうした? 味付けが合わなかったのか、」
「アニキ、 いや師匠 俺に料理を教えてくれ!!!」
いきなりの大声に、レベルアップした体でもびっくりしたが、そこからはキングの自分語りが始まった。
「今までの俺の食事は朝昼晩で、パンパンパンパンパン..... 毎日パンだらけ。調理器具もなくて料理もできないし、植物だって生えてなくて、もう限界なんだ。だけど...
「そうか」
俺はその後一時間ほど、BOTのように「そうか」と繰り返していた。
「あ~、この階層を抜けるまでに道具の作り方とか、まあいろいろ教えようか。ただ師匠とかはむず痒いから無しでな」
「神よ...」
「それもダメだ」
大げさな気がするが.... いや、俺が迷宮に迷い込んでから約3か月、パンしか食えなかったらこんな感じになるのだろうか?
その後もいろいろな話をしていい時間になったので寝ることにした。
プレハブ小屋の中で寝ることにして、オレは最近作った布団2号、キングは高級羽毛布団のような布団をどこからか取り出していた。
布団を並べて寝ていると、修学旅行の時のように話が弾み、キングはその見た目のわりに日本のアニメオタクのようで、同じくオタクとしては、かなり話が合う。
なんでも、趣味はアニメ鑑賞と筋トレとのことで、ちゃんと最後のは見た目どおりだった。
そして、キングはのろけ話を展開したり、ダンジョンで戦った相手の話をすることで、お互いの連携のための話し合いも順調に進み、二人していつの間にか寝落ちしていた。