22 パワーレベリング
「ま...まぁ、とりあえず探索を始めないか? あとレベル上げも、90くらいだと即死するかもだし、俺が拘束してその隙に倒すって感じで」
「確かに、このままだと足手まといもいいとこだしな。厚意に甘えさせてもらう」
話もまとまったところで、改めて探索を始めていく。フェルたちと離れたことは不安ではあるが、パスから安否は確認できるし、フェルは俺より強いくらいで、クズノハも回復やバフができるので心配はいらないだろう。
キングはどうやら両手斧を武器として使っているようで、如何にも脳筋戦法が得意そうな風貌をしている。そして、少しするとオークが3匹現れた。
「オークか。21階層にもいたな、ここは任せてもらおうか」
「待て、あいつらのレベルは平均250はあるハイオークってやつだ。」
キングは見た目と裏腹な俊敏さで、オークから距離を取った。
「見た目に違いはないのだが、危なかったな」
「おう。じゃあ俺が足を切るから、とどめは任せた」
「ok」
もう少しだけ近づくと、オークはこちらに気づいて走ってくる。
「[神足通] からの [多重連撃]」
愛剣が進化して太刀のようになり、短剣術スキルが使えなくなってしまったので、今だけは代わりにA-ランクの短剣を使っているが、100レベル近いレベル差もあるおかげで、オークの足は一撃で吹き飛んだ。
そして、キングはオークにとどめを刺していった。
「すごいな。何も見えなかった、しかもレベルがもう100を超えたし」
さすがにレベル90台が250レベルのモンスターを倒すのは、かなり経験値効率がいい。この調子ならあと100体ほどでレベル200の大台に乗れるだろう。
「マコトは忍者だったのか、今のは飛雷神の術か?」
「NARUT〇知ってるのか... まあそれと似たようなことはできるんだが。」
「アメリカでも日本のアニメは有名でな、色々見ているんだ。ちなみに俺も火遁の術は使えるぜ!」
「なるほど、じゃああいつで試してみてくれ。」
「?」
「グボァルル!!」
すぐそこにはオークが迫ってきていた。数は5体、一体鎧を着こんだ奴がいるが問題はないだろう。
「俺は鎧のヤツとその取り巻き3体を相手する。あとは任せた」
「okッ やってやるさ!」
フェルの氷結地獄でオークを1体と4体に分断し、俺は親玉含め4体と相対する。しかし、何故か鎧を着こんだ親玉は動く気配を見せなかった。
だが、なんにせよ好都合なことには変わりない、まずは3匹の方から仕留めよう。
[式神作成] [影糸]
近くの茂みから葉っぱを三枚抜き取って式神にした後、影糸を付けオークの方へと向かわせる。オーク3体もこちらに向かってきているが、そのスピードはレベル差もあって遅い。式神がオークの周りを旋回して、その首に糸がつながった。
[雷帝万鈞]
言わずもがな、3匹の豚は灰燼に帰した。しかし、鉄砲玉がやられても、ボスのオークはまだ動く気配を見せない。一応横目でキングの方を見ると、
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ [金剛力] [狂化暴走]!! 」
自らを奮い立たせるように声を上げた後、キングはスキルを発動した。
スキルの効果かその体からは蒸気が立ち上り、目は理性を失ったように濁っている。解析で見てみるとその能力値は防御力が1.5倍近く、また筋力は3倍に上がっていた。思うに、あの狂化暴走というスキルは、俺の昔のスキル神出鬼没の筋力版ではなかろうか、ただ、どうやら俺のスキルにデメリットがあったように、あのスキルにも暴走してしまうようなデメリットがあるのだろう。
それを加味しても、能力値があそこまで上がるのは、なかなかにぶっ壊れスキルだ。
オークの棍棒がキングの肩に当たったかと思えば、その隙にキングはオークに一撃を叩きこむ。
ただそれだけを繰り返しオークを倒し切っていた。しかし、その割に装備している鎧には傷一つないように見える。
ちなみに火魔法はあまり効いていなかった。
「フェギアァ ブモィ」
キングの戦いが終わり、氷結地獄の氷を解除すると、今までずっと戦況を見守っていたボスオークが、こちらに近づきながら意味不明な言語でしゃべり始めた。
「意味わかんないよ」
そんな風にぼやくと、キングから声が返ってくる。
「”お前強いな”って言ってるぞ」
「プゴアキゥ ブゴァ ガギゥ」
「”いざ尋常に勝負”だそうだ」
オークは大剣を地に突き刺し鼻を鳴らしている。
「武士道精神かな? まあ元々そのつもりだし」
オークは剣を抜くとこちらに構えた。それはこちらも構えるのを待っているように見える。
「その前にキング、これ」
とりあえずキングにポーションを投げておく、そして、改めてオークの方に目線を合わせる。能力値とスキル構成は、オークバーサーカーの剣特化といったステータス。正面から行くなら、いつもどおり。
[影鎧] [過充電] [纏雷] [纏風] [魔力装甲]
魔法を使った途端、オークはこちらに踏み込んできた。
かなり早い、が俺よりは遅い。今の俺の敏捷は神足通込みで常時6000を超えており、発動すればさらに加速できる。それどころか、お手軽に瞬間移動に空中機動も可能なため、対処は余裕だ。
オークは剣を上段に構え、こちらの首を取りに来ている。そこでこちらはその間合いの外へ回避する。
[グボァ]
しかし、オークが声を発した瞬間、剣の軌道がありえない方向へ曲がり、こちらへと迫ってきた。今の攻撃がスキルならば、剣で受けるのは得策ではない。
すぐに空中へ飛びオークの方を見るが、その顔は醜悪に笑っている。まあ普通は空中にいる奴なんて格好の的だ。 だが、
[神足通]
スキルで大剣の上へと体を動かし、オークの追撃は空を切った。
大剣のように隙の大きい武器は、やはり攻撃の後が一番狙いやすいので、オークの肩に着地して振り落とされる前にスキルを放つ。
[天穿・五月雨]
オークは、スキルの発動直前に体を捻って、俺を振り落としたが、空中を足場にできる俺には意味が無く、そのままスキルは発動した。
あきらめずに、オークは剣を盾にして防御を試みていたが、その抵抗もむなしくスキルの一撃目で刀身を壊され、二撃目で鎧が大破。
そのまま後の三撃分をもろに食らい、光となって消えていった。