15 翌朝
フェルが起きて俺の体を揺さぶってくる、それがいつもの朝のルーティーンだ。頭もぼんやりとする中で、すぐに体を起こすが、クズノハを起こさないように、足音を殺して部屋を出る。
これもいつも通りだ。
ドアを開け外に出ると、地平線にまだ半分しか見えてない太陽がある。この空間にはダンジョンと同じように太陽が見えるが、俺のイメージが反映されて出来ただけのものなので、実体はないのかもしれない。
「ぐおぅ~」
「そうだな、始めるか」
そのまま原っぱの上に座り込み瞑想を始める、これは最近は毎日行っている、魔力を扱う訓練だ。
これをすると自分の中の魔力、つまりMPを動かしやすくなり、スキルのキレが上がる気がするのだ。
体の中にある、少し暖かいぬるま湯のような魔力を、腹の少し下辺りに溜めてかき混ぜるように動かしていく。すると、その温もりがだんだん温度を上げていき、熱湯のような魔力が出来上がる。
これを準備したうえで魔法を放つと、かなり威力が上がるという事が、これまでの練習で分かっている。
とてもいい発見だったと思う、 ....準備時間のせいで実践で使えないことを除けば。
この練習はもともとフェルがやっていたもので、フェルはこれを約二秒ほどで魔力を完成させている。ちなみにクズノハは自分の魔力を感じることができないらしく、多分これは魔力自在のスキルを持っていないからだろう。
最近は、ダンジョン生活の趣味の範囲からは出ないくらいで、自分なりに魔力について研究をしており、様々なことにもチャレンジしていた。
そして、今日も少しの思い付きを試してみることにした。
「なあフェル、この魔力って体の外に出せるかな?」
「グォ?」
フェルはわからないように首を振っている。
「試してみるか」
少しずつ魔力を腕のほうに移動しようとすると、少しつっかえるような感覚がある。だが、中々動かせないものの、少しづつ腕に浸透しているように魔力が通っていく。そしてついに魔力が掌まで到達した。
「これを何かに利用できないか...」
試しに手にまとわせてみたが、ただまとわりついているだけだ。
ふわふわしていることからも分かるように透過してしまい、防御だとかには使えそうにないし、少し指でかき回すと、指の魔力に一部は絡め取られて、二つに分かれた魔力はすぐに霧散してしまう。
そして、そこらへんに落ちている木の棒でも試してみたが、木の棒に宿った魔力と反応はするが、すぐに魔力が攪拌され、やはり消えてしまった。
他にも、その魔力を掌から外へ出そうとするが、これもまたすぐに霧散してしまい、特に発見はなかった。
柔らかい物を固くする方法... 押し固めるとか?
思い付いたことを試してみると、薄く綿あめのような魔力が少し圧縮されているように感じるが、実体は無いようで、やはり通り抜けてしまう。
であれば....互いに結合させるとか?
魔力と魔力を繋ぎ合わせることに関して、純化した魔力はとてもスムーズに結びついていく。中々に体外に出た魔力の操作は難しいが、数か月の練習の成果もあって、魔力は密度を高め結合していった。
「もっと固く、もっと固く、もっと固く」
今、俺の頭に浮かんでいたイメージは、ファンタジー物でよく見かけるバリアの様な物だ。しかし、魔力は魔法として出力されない限り、雲のように流動する。
....だが、自分以外の魔力には、押し流されるように、干渉されていた。であれば、魔力が鎧のように固くなれば、魔力を含む物質を防ぐ鎧になるはず。
イメージは出来た。 そして、それに反応するように、急速に魔力は組みあがっていく
そうして出来上がった腕を覆う高密度の魔力はとても頑丈になり、小石を投げてもカン、と音を立てて弾き返した。
[解析]
⇒ 種別 魔法 Name **** Rank D
耐久度 500/500 補正 防御 +152
効果 魔力の遮断
総評 物質に宿る魔力や魔法を遮断する。
魂の器に記録された機能ではなく、
技術を用いて発動されている。
成功したのもつかの間に、スキルにより流れてきた総評には様々な新情報が含まれていた。
「...? 新情報が多いな。名前は、俺の自作スキルだしないのは当然として、魂の器に記録? いつものスキルは魂の器なるものに記録されているってこと? ていうか魂って実在するのか」
.....結局、いくら考えてもわからないことはわからないままなので、一旦おいておいて練習を再開しよう。
...と思っていたが、今度はいきなりレベルアップの熱を感じ始めた。
「あれ? 魔物も倒してないし、なんでレベルが上がるんだ?」
[解析]
⇒ 【種族】人間 Lv.348 【Name】 早川 誠
【天職】 忍者 Lv.18 【状態】-
【称号】 探索者(茨城ダンジョン:59階層) 開祖 New!
格上喰い 虐殺者 オークスレイヤー...
~
◇ スキル
~
・魔法スキル
⇒ 雷属性
雷霆万鈞(A)Lv.5 up! 過充電(B)Lv.5
雷撃(C)Lv.7 纏雷(C)Lv.1
⇒ 風属性
風翼(B)Lv.2 鎌鼬(C)Lv.15 風纏(C)Lv.4 up!
⇒ ****
純化(S) 魔力自在(S)Lv.6 up! ****(D) New!
「魔法が新しく増えてる? レベルアップしていないのにか? つまり、新しいスキルとしてステータスに表記されて、あの感覚になったってことか。レベル表記がないのは... さっきの魂が何とかじゃなくて、自分の純粋な技術だからってこと?」
どうやら新しい魔法を開発したということのようだ。だが、名前がないのはどうしたものか。なので、適当な名前を付けることにした。
「まあ、魔力をまとわせるのは魔力装甲? でいいだろう。大本の方は、無魔法?いや語呂が悪いな、魔力で戦う方法で[魔闘法]とかでどうだろう。」
改めて解析してみると***のところが、それぞれ魔力装甲と魔闘法になっていて、よく見てみると開祖という称号も増えている。
「いや~ まさか新しい魔法が作れるとは、戦術の幅が広がる魔法とか作れないかな?」
さっき使った魔力はもう全部消えてしまったので、改めて魔力を練り始める。しかしそこであることを思いついた。
「そういえば普段の魔力はどう動いているんだ?」
試しに風刃を発動してみる。何度か試して集中すると、どうやら頭を一度経由して発動しているようだ。
「頭というか脳に通すのか」
しかし、やってみても腕より動かしやすいくらいで、特に何かあるというわけでもない。
「こういう魔法ってやっぱりイメージとか魔法陣とかがお約束なんだが、今回の場合は脳を通っているからイメージのほうなのかな?」
我ながら核心を突いた考えのような気がする、やってみよう。
魔力を練らずに頭に流し、そこでさっきのイメージをしながら魔力を練り始める。しかし、最初は何ともなかったのだが少しすると頭が痛くなってきた。
「ん? 頭が、痛い。 なんだ?」
少しずつ痛みは大きくなっていく。そして次の瞬間、いきなり脳が焼かれるような痛みが襲ってきた。
「がッ う... がアアあぁぁァァ...」
そのまま俺の意識は落ちていった。
主人公 「俺、最近気絶しすぎじゃない?」