14 自宅?
空間の割れ目を通って、ここ数か月で慣れ親しんだ自宅の前まで歩いていく。
ここの景色も、初めはただ真っ暗な平地だったのに、意外にも景色を改造できたので、今ではキャンプ場に様変わりしている。そして、歩いた先には丸太を組み合わせただけの、ドアすらない自宅が二軒...というか二台。
ぶっちゃけると物置や掘っ立て小屋に近いだろう。
一つは、今まで集めた革を使って拵えた布団のある自室で、もう一つは、スキルでカード化した食料やアイテムを保管している倉庫として使っている。両方とも58階層の木を切り倒して作ったものだ。
「今日は食べるか?」
「私は頂きます」
「グオンッ」
「オッケー、三食分ね、今日のメニューは...ホイル焼きかな。スキル使えば作り置きもできるし」
ちなみに、俺以外の二人は魔力さえあれば食料は必要としないはずなのだが、たまに食べたいと思うこともあるらしく、今日は食べる気分らしい。
早速、食事を作っていこう。まずは58階層の小川にいた鮭のような魚をさばいていく。解析で見たデビルサーモンという名前には、目をつぶっておくことにした。
次に耐火の皮の中心にオーク油を広げて、そこに鮭の切り身を皮を下にして置く。そして、その周りに森で見つけた野菜とキノコを盛りつける。
最後に58階層の森を抜けた所にある平原で見つけた牛からドロップした乳袋の中の牛乳を、振って振って振りまくって作ったバターをのせて、口を縛ったものを10個近く作って作業は終了だ。
三個残して、あとは小屋にカード化して仕舞っておく。そして、あとの三個分は焚火に放り込んで、15分くらいじっくり焼いて出来上がりだ。
「できたぞー」
「いただきます」 「ヴォウッ」
二人は待ってましたと言わんばかりに、前足を焚火に突っ込んで器用にホイル焼きを開いた。目の前にオークのドロップで手に入れた塩と胡椒も置いておいて、俺も味見をしてみる。
「うん、会心の出来。まあぜいたくな悩みだろうけど調味料、特に醤油かポン酢が欲しい味をしてるな」
やはり味が薄いのは、関東人にとって由々しき問題だ。塩でごまかせるとはいえ、それでは健康に悪そうで少し躊躇してしまう。
素材の味は、今までのダンジョン料理の中で5本の指に入るほどうまいが、魚料理自体は結構な頻度で食べているので、今では味が薄いという感想しか出てこなくなってしまった。
「大丈夫ですよ、とてもおいしいです。主様に出会うまで木の実ばかりを食べていましたが、この料理を一度味わってしまえばもう以前には戻れません」
「グオア」
しばらくして、俺も食事を終えそろそろ寝る準備を始める。クズノハは十秒で30センチはある魚をたいらげ、フェルに至っては一口で食べ終わってしまった。本当に味わっているのか疑問である。
気を取り直して、ついに58階層を超えたのだ。明日からは強い魔物を探して、どんどん階層を突破していきたいものだ。
「そろそろ寝るぞ、明日も早いからな。」
ということで掘っ立て小屋の一つに入る。
ここは革の布団があるだけで他には何もないが、フェルは真っ先に布団の端で体を丸め寝始めた。
そして自分はその隣で横になり、クズノハはフェルの上で丸まりすぐにいびきをかいて寝始めた。
最初はもっと毛布とかも作ろうとしたのだが、ダンジョンではそんな物はないので、今ではフェルを川で週一ほどの頻度で洗い、毛布代わりになってもらっている。
しばらく明日のことを考えていたが、まぶたが重くなっていき睡魔が押し寄せてくる。
「明日はさっさとボスを見つけたいな...」