111 秘密組織に狙われてるってこと?
二人の握手でエキシビジョンマッチは締めくくられ、その後は表彰式と閉会式が行われる。そして俺はそんな光景をぼんやりと眺めていた。
「.....はぁ」
正直に言って、全く話が頭に入ってこない。
めっちゃカッコいい名前の.... 何だっけ? 関東校主席だか何だかのイケメン君が屈託のない、爽やかな笑みを浮かべて指輪型のアイテムを受け取り、精霊使いの..... 破魔っ娘は、悔しそうな表情と共に腕輪型のアイテムを受け取っていた。
が、しかしだ。そんな事はどうでもよろしい。
頭の中を延々と反響するのは、あの傍迷惑な巫女が何故俺に目をつけたのかと言う疑問と、どうして貴重なアイテムを使ってまで俺の情報に固執するのかという二つの疑問。
俺が隠者であると気づいているならば、不本意ではあるが納得できる。
しかしそれを知っているのは、大吾、キング、百武さんというように片手で数えられる位しかおらず、他に情報が漏れる可能性は百武さんが言っていたように限りなく低かった。
なので次はその可能性を除外して、俺の浅く狭い交友関係を思い出してみる。
浮かぶのは先ほどの3人の他には因幡さん、大吾軍団... つまりは極東とやらのメンバーと、後はダンジョンで遭難する以前に世話になった人くらいか。
うん、改めて考えると悲しくなってくるな。
こんな現状を変えるために学校に入ったのに、俺は何をやっているのやら...
と、そんな事を考えている内に閉会式はつつがなく終了し、先生の引率に従って出口に近い方のクラスから順番に会場を後にする。
「で、ここからどうするか...」
うちのクラスが退場する番になって、俺はこのままだと百武さんと巫女の対談に居合わせられない事に、遅ればせながら気付いた。
巫女は「後で時間を貰える?」などと言っていたが、言い方的に後日などでは無く、会場の何処かしらで話す可能性が高いと見ていいだろう。
なので、一旦この場から離脱して百武さんに合流したいわけなのだが...
いくら俺の影が薄いとはいえ、居なくなれば確実にバレる。バスの中で全員居るかは絶対に確認されるだろうし、その時点で一発アウトだ。
その対処として一番イケそうなのは“影分身”だろうが、このスキルで作り出した分身体は自我を持たずスキルも持たないという、この場においてはただの木偶人形でしかない。なので、あと一工夫...
『んー ...フェル、影分身を操って家まで帰れそうか?』
『......ガゥ!』
フェルは影の中から力強くうなづいた。
俺のMP上限の半分を貸し出したとして、都心でフェルが活動できるのは少なく見積って約30分程と言ったところ。だが、魔力を安定して供給する手段さえあれば、それ以上に活動する事は可能ではある。
懐に格納庫を展開して取り出した、一本のアンプルの様な瓶。
虹色に光るヤクルトのようなこのポーションは、俺が手に入れたポーションの中でも三本の指に入る程の代物だ。
その効果は一時間のMPとSPの継続回復というぶっ壊れであり、70階層ボス戦でこれを飲んだ時にはスキルの重ね掛けをして使い果たしたMPとSPが一分後には全回復している程の凄まじい性能を持っている。
古代都市階層を探索した約三ヶ月間で手に入れた数は計6本。既に一本は使ってしまっているので残りは4本になってしまうが、そうそう使うこともないし今が使い時だろう。
ということで、これでMPに関しては何とかなる。
後の問題としては喋れないという点が挙げられるが、余程のことがない限り話しかけてくるような人はうちのクラスにはいないだろう。ハハハ... 思わぬ所で悪評が役に立ったな。全くもって嬉しくはないが。
『よし、帰ったらご褒美にマグロの大トロを買ってやるからな。がんばれ!』
『ワッフ!』
帰りのバスは式神ファミリーズで忠誠心No.1を誇るフェルに任せ、俺は本命の巫女と百武さんの方にすぐさま向かおう。
影の内部に“影分身”を作り出し、“神足通”の入替転移で一瞬の間に入れ替わる。そして念には念をで“虚飾”によってステータスを、いつも通りのレベル80位に偽装しておく。
そして、百武さんの居場所については“天眼通”による感知ですぐに分かった。そこは観客席の一角に存在しているVIP席のような場所で、向かい合わせに置かれた白いソファーに座った巫女と百武さんは、剣呑な面持ちで相対している。
見た感じでは口がパクパクしていたので、“天眼通”と併用して“風の報せ”で聞き耳を立ててみると…
「聞きたいことは決まったかしら?」
「ええ、しかしそちらの対応を見るに、その情報はあなた方にとってかなり機密性の高い物であるはずです。一応、それ相応の場所でなければいけないのでは?」
「そうねぇ、私としても助かるわ。では近くの神社で落ち合いましょう。場所はすぐに送るわ」
「了解しました」
百武さんはうまく合流までの時間を稼いでくれていたようだ。
そして、巫女が部屋を後にして一人になった百武さんの元へと、どんな感知もされないように細心の注意を払って馳せ参じる。
周囲を一通り索敵して、スキルやアイテムによる盗聴だったり、もちろん機械などがないことも確認してから隠密を解くと、百武さんはすぐに俺の気配を察知した。
『早川さん、私達も向かいましょうか。あと十分承知の事でしょうが、出来る限りの隠密系スキルを使っておいてください』
『もちろんです』
『それと、ここまで大事になったからには、色々と説明すべきことも多いので、道中で”以心伝心”を用いて説明をしておきます』
『はい。よろしくお願いします』
その会話の後に、俺は百武さんの影に潜んで気配を絶ち、部屋を出る百武さんを影の中から追従する。
『ではさっそく、巫女に関する事前の説明をしておきましょう。まずは... そうですね、巫女の所属する団体についてでしょうか』
例の、国家に物申せるだとか、国際迷宮対策連合の設立に関わったとかいう組織.... だったっけ?
『組織構造や成り立ちはとても複雑なのですが、クラン名で言うならば“高天原”といい、規模は日本国内で一番。また、代表的な探索者として八百万の巫女、歌姫、老武者が所属。
他に構成員は大きく分けて二派閥おり、神社本庁の一部である神道派と、非公然組織として存在していた陰陽寮が再編された陰陽道派に別れます。それらは全く別の二宗派ですが、共に政府機関だった経緯もあって無駄に規模が大きい。
その結果として一万人規模の組織となっていますね。一企業としては妥当ではありますが、憲法第九条も真っ青の武装戦力と化しています』
『あー... その神社本庁と、陰陽寮とは?』
『神社本庁というのは、全国の神社を取りまとめる宗教法人。そして陰陽寮はというと、公的には既に廃止された、陰陽師を取りまとめる政府組織です。
明治の初めまで陰陽寮は存続していましたが、明治維新を境にそれらは廃止。そして、その翌年に政府が神社を国家の宗祀.... つまりは国として祭ることを決定したことで、神社本庁の原型である政府組織が設立され、更に戦後のGHQによって解体されるも法人として存続したというのが公的な歴史です』
・・・GHQくらいしか分からんのだが?
と、そんな空気を察してくれたのか、百武さんは更に簡略化した説明をしてくれた。
『陰陽寮という一般には知られていない組織と、法人として知られる神社本庁という組織の一部が合併される事で、一つのクランである“高天原”を設立したという理解で問題ありません』
『なるほど』
『奴ら、半年前まではその存在すらも忘れていたくらいに大人しくしていたんですが、ダンジョンが出現してからはまるで事前に知っていたかの様に迷宮法や国際迷宮対策連合の舵取りをし始めましたからね。
そんな胡散臭い組織の一大戦力である巫女が直々に、それもあんな強硬手段に出てくるとは.... バレたのか、いや。そもそもがオフレコなのでバレるはずが....』
百武さんは原因究明に頭を悩ませているが、結局は質問してしまえば疑問は全て解決する。なのでまずは質問内容を考えるのが先決だろう。
『とりあえず、質問の内容としては、
1. なぜ俺の情報を求めるのか。
2. 誰の差し金か。
3. 情報の出どころはどこか。
と言ったところでしょうかね?』
『そうですね。一先ずはそんなところでしょう。っと、着きましたね』
目の前にはこじんまりとした鳥居があり、境内には人影が一つ。それ以外には人っ子一人の姿もなかった。
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
↑
作者の反応