109 使い捨てアイテム(0円)
既にこの戦いは、俺が今まで体験したことのないほどの長期戦に突入していた。
そもそも俺は成長する過程で、一撃必殺、短期決戦を基本とした戦闘を繰り返してきた。その理由は単純で、紙装甲の隠密職がダンジョンサバイバルするにはそれ以外の選択肢がなかったから。
刹那之一刀や千紫万紅などの大技を開発したのもその延長だった。
だからこそ、ギリギリの駆け引きが繰り返された巫女との長期戦は、いくら百武さんの体を使っているとはいえど、かなりの負担となっている。
「.......クソッ」
こんなに精神が削れる戦いは、仲間になる前のエルと対峙した時以来だ。もう保守的に勝つのはやめる。多少のリスクを被ってでも、完膚なきまでに叩き潰す。
最終手段、”アイテムのおかげで勝てました”作戦だ。
リスクというのは、あの疫病神を抑え込む程のアイテムを持っているという事で、百武さん... ひいては俺が狙われる原因となるだろうことだ。なので、使い捨てアイテムとして大衆の前で使い切ったように見せかければいい。
それが今の局面で俺の頭脳が導き出した最良の答えだった。
...ずさんと言うことなかれ、知力40台にはこれ位が限界だ。
『百武さん、今から召喚獣と使い捨てのアイテムを使います。後から誤魔化せますか?』
『え、ええ。何とかして見せましょう!』
『では、よろしくお願いします』
了承を得る傍らで、俺はまず一つ目のアイテムを影を媒介に取り出した。
それは一見すれば古びた羊皮紙のような物。うん、実際の所これはただのFランクアイテムで、正真正銘の魔法効果もないただの羊皮紙だった。しかし一応はダンジョンのドロップアイテムであるため、アイテムと言われれば信じられそうな見かけをしている。
そうして、巫女がついに俺が隠れている岩の方面に向かって薙刀を振るおうとした瞬間に、縮地によってその攻撃を回避する。もちろん巫女はこちらの姿を捉えたが、それこそが俺の狙いだった。
「召喚ッ!」
観客にも見えるようなわざとらしいスキルの詠唱を行い、同時に羊皮紙を見やすいように掲げて破る。そして俺の影から飛び出してきたのは、一メートルくらいの体躯に変化した狼... フェルだった。
今の世の中にはいろいろなアイテムが出回っているが、今回のミスリードとしたのはその中でも”闇鍋ガチャ”などと揶揄される召喚のスクロール。
このアイテムの効果はモンスターと自身の間に縁を結ぶという物であり、召喚系のスキルを持っていれば新たな召喚獣を得られるし、持っていなくても一度だけの簡易召喚を行える。
しかも、召喚獣との相性が良ければ召喚系のスキルを得て召喚を継続できるため、金持ちはこぞってこのアイテムを買い求めるのだ。ちなみに最低ランクのDランクですらそのお値段は100万円超で、召喚を継続できる確率は100分の1や1000分の1などどいわれるほどのゴミ排出率。ソシャゲであればサ終待ったなしだろう。
しかしこの状況あればむしろ好都合。
なにせ簡易召喚で一度のみの召喚であれば、以後使えなくなって当たり前。使った物は戻ってこないので、どんな高ランクモンスターが出てきても大丈夫という寸法だ。
【貸与・虚影】
「良い感じに頼むぞ!」
以心伝心を使うまでもなく、フェルはやるべきことを理解したうえで任せろとばかりに頷く。
そうしてフェルはまず周囲に霧を発生させると、その霧に紛れて移動した後に貸与によって獲得した虚影を使用して自身と百武さんを隠密状態にする。そして、影分身を生み出して巫女の方へと突撃させた。
「よし、20秒あればいい。数の暴力で押す感じで、出来るだけ弱く見せてくれ」
「グオゥ」
そんなやり取りを交わしたのちに、俺は百武さんへの操作を解いた。そしてすぐさまもう一つのアイテム、巫女を拘束するための神の呪縛を、使い捨てアイテムに見せるような細工を行う。
【複製量産】
と言ってもやることは単純で、式剣と同じことを神の呪縛で行うだけだ。
複製時の劣化でEXスキルが失われるので、二刀流のスキルによって神呪と桎梏を共有。更に制限解除によって耐久値を最大限に削ることで、使い切ったと見せかける。
このレベルのアイテムを複製するのは地味に初めてのことで、手元で震える神の呪縛の複製からは、溢れんばかりの魔力が感じられる。それらを何とか抑え込み、何とか複製が完了した。
「よし。【二刀流】も使って、これで」
魔力制御のための集中状態を解き、両の手に握られた2本の鎖を手繰る。
次に俺は没入によって百武さんの一人称視点へと乗り移り、傍に控えるフェルに向かって次の指示を出した。
『これを巫女の周りに仕掛けてきてくれ、気取られないようにな』
コクリと頷いたフェルに複製した方の神の呪縛を咥えささせると、フェルは虚影を使いつつ器用に瓦礫の山を静かに駆ける。
そして俺の方はというと、虚影が切れてしまっているので不用意に動く事ができなくなっていた。フェルが戻ってくるまで、どうにか気づかれないように息を潜める。
「.....」
◇ Side 巫女
まさかここまで手の内を晒さなければいけなくなるとは、本当に予想外でした。相手は海王殺しの三英雄と呼ばれる内の一人はいえど、所詮はSランク... そんな油断のせいでこんな無様を晒すなんて、情けないにも程がある。
私はそんな雑念を切って捨て、目の前の黒い狼に向かって薙刀を振るった。
「くッ...」
しかし、切り捨てた側から次の黒い狼が襲いかかってくる。ここまで合計で七体近くを屠ったが、いまだに黒い狼は途切れない。
無論、こちらは神の御技を身に宿している為、傷を負うことも、ましてや押し負ける事は万に一つもありはしない。しかし、私は何処かに隠れ潜んだ協会長を捉えられていなかった。
「ッ.... くどいッ!」
八匹目の黒狼の首を刎ね飛ばすが、またしても九匹目が、こちらの首筋に噛みつかんとして飛びかかってくる。私はその口へと薙刀を押し込み串刺しにするが、そいつもまるで灰のようになって消えていった。
召喚獣とはいえど、消える時はその身の魔力が光となって見えるはず。しかしこの狼は全て灰となって崩れ落ちていた。つまりは本体が別にいて、私に向かってきているのは全てが囮か。
十匹目を切り刻んで、すぐさま移動スキルにて瓦礫の山を登る。
そして見つけた。
狼供の本体ではないが、私と目があったのは、その召喚主である協会長本人。彼はこの時間稼ぎのうちに回復したなけなしの魔力で瓦礫に穴を開けて逃げるが、どうせ魔力はすぐ切れる。
予想通り、中央の瓦礫から顔を出した協会長の眼前まで私は瞬時に移動した。
「随分とてこずらせてくれたけど、これで終いよ」
そう言って私は横凪に薙刀を振るう。しかしその一撃は、平伏するように屈むことで回避されていた。
おかしい、そう簡単に避けられるような一撃ではなかった。いや、むしろあの動きは元からそう動くと決めていたような.... そんな動きだった。
しかし、その態勢ではこれ以上避けることもできまい。結技によって繋げた振り下ろしが、刹那のうちに放たれる。
...はずだった。
「セーフ!」
そんな気の抜ける声と同時に、体にかかる圧迫感と虚無感。
神降によって得ていた神力は消失し、それどころか己に宿ったスキルに、四肢をめぐる筋力すらも、全ての力が失われていた。
「何が!?」
そんな疑問を口にする間におでこに衝撃が走り、同時に耳をつんざくブザーの音が鳴り響く。
理解する間もなく、私には敗北の二文字が突きつけられていた。
観客席でうんうん唸ってるYABAI奴(主人公)
一応軽い虚影で隠密状態
"神"の呪縛("神"呪) → 神に対してめっちゃ強い
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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作者の反応