108 必殺技は外れるのが様式美
客観的に見たキャラの印象が知りたい今日この頃。
毎週土曜更新(目標)
勝利を確信したような顔をした巫女はこちらへと薙刀を振るう。しかし、その動きは舞のようでありながらも、精細さを体現したようなものだった。俺的にはここで油断をしてくれていれば万々歳だったのだが.... 顔芸が無駄になってしまったな。
そして、巫女が振るう薙刀を空歩と縮地で躱し、すれ違いざまにスキルを叩き込む。
「回天ッ!」【天穿】
振り下ろしの【回天】を口では唱えつつ、【天穿】を自身の体で手元を隠しつつ発動するという単純なフェイントだ。予想通り、その言葉にすぐ反応した巫女は振り切った薙刀の柄を素早く真正面に構えるが、しかし俺が脇から突き出した槍に気づくと、柄を傾けることで十文字槍を防がれた。
敏捷の圧倒的な差があるので、それくらいは想定内。俺はその反動で少しの距離を取り、空を踏んでバク宙による蹴りを叩き込む。
「くッ....!」
しかし、その蹴りは巫女を捉えていなかった。
回避系のスキルによってその攻撃を回避した巫女は10メートルほど離れた位置で薙刀を振りかぶっており、対する俺は空中で体勢を崩した状態。はたから見れば格好の的だろう。
が、そんな状況を認識する前に、巫女は既に技の準備を終えていた。
【神奉・天薙】
先ほどまでは身体強化のEXスキルに使われていた闘気の一部が薙刀へと集中し、それを用いて放たれた極大の斬撃は周囲の岩石を破壊しつつこちらへと迫る。明らかに先程の隕石を両断した技よりもはるかに大きい闘気を秘めており、その一閃によって周囲に砂埃が立ち込め、斬撃が結界の端にぶつかった衝撃は結界を貫通して地面を揺らすほど。
続けて巫女が薙刀によって空を切ることで周囲の砂埃を消し飛ばすと、斬撃の振られた範囲に存在していたすべての岩石は結界の端まで吹き飛んでおり、その圧倒的な威力が垣間見えた。
周囲の観客達もその場景を見て勝負は決したと思い、一部からは拍手が生まれる。しかし、当の巫女は全くと言っていいほど警戒を解いておらず、勿論だがその扇状に広がった斬撃跡に俺の姿はない。
【空歩】【砲身】【天穿】
「ッ!」
空中.... 結界スレスレの場所に俺はいた。空歩によって足場を確保し、全力で槍へと力を伝えた投擲が放たれる。
対する巫女はその投擲に気づき、いち早く槍を弾くと自由落下する武器無し、足場無し、逃場無しと三拍子が揃った俺に狙いを定めて技を放つ。
【神奉・天薙】
【魔槍式・解放】
「「勝った」」
両者が同時に同じ言霊を紡ぐが、その駆け引きを制したのは.... 俺。
巫女が弾いた十文字槍。それは周囲に存在した一切を飲み込むような闇を生む。これが俺の打っておいた布石の成果であり、決定打となり得るEXスキルを使えないと見せていた理由でもあった。
【魔槍式】は魔法効果を槍に宿すことができるスキルであり、その対象は既に発動中の魔法も含まれる。まるで効果が切れたように見せかけて、実はその魔法を一本の槍に集約させていたという訳だ。巨大な結界を一点に集中したことによって、その出力は更に増しており、それによって光すらも飲み込むような引力が巫女からそう遠くない場所で解放されたのだ。
巫女が放った、はたから見れば必殺だろう一撃もがその引力に絡め取られて消失し、巫女自身もその引力に飲み込まれる。そして周囲の瓦礫すらもがその一点へと吸い込まれ、それすらもが巫女にダメージを与える追撃と化していた。
「磁界は影法師のレギュラー入り決定だな」
そう独り言ちながら吸い込まれていく瓦礫を足場に着地した俺は、試合終了のブザーを待ちつつも警戒は怠らずに、巫女のいるであろう継ぎ接ぎの岩石を見つめる。何度も叩き込んだ殴打の感触からしても、巫女の耐久が五千以上なのは確実。であればそのHPを5割分削るには、少しの時間が必要だろう。
しかし、十中八九はこれで決着のはずだ。巫女は爆縮する魔槍の真横に突っ立っており、その性質からしても脱出は困難。なんなら、オーバーキルだと言われるぐらいにはダメージを負っているかもしれないと思っていた。
そんな楽観的思考に水を差すような違和感....
突如として肉体が産毛まで逆立ち、大量の冷汗が頬を伝う程に警鐘を鳴らす。しかし対照的に、俺の本体は全くと言っていいほどその脅威を認識していなかった。
そして、魔槍式と磁界によって生まれた石塊が爆散する。
「ッ!....」
俺は最後のEXスキルを見逃していたことを、その衝撃的な光景を見て思い出した。
巫女はレベル1でEXスキルを三つ持っており、レベル250を越えた時点でもう一つを手に入れているはず。そんなことは端からわかっていた。だが今の所で確認したスキルは、不可抗力、付喪神、神楽舞の計三つのみ。
最後の一つ。リヴァイアサンの擬似神化と同系統であろうスキルを使った結果なのか、石塊から出てきた巫女の体からは神威が吹き荒れ、目視可能な程に濃厚な魂力が宿っていることが百武さんの肉体を通じてのみ感じられる。
神化の資格に至らない人の身でそんな事をすれば、本来は俺のように魂が傷つくし、巫女のレベルでは一瞬で砕け散ってもおかしくない。もしそうならないスキルが存在しているならば、それは他のEXスキルと比べても明らかに常軌を逸している。
しかし、目の前の巫女は明らかにその常軌を逸した存在だった。
「はぁ、これじゃあ戦いにならないじゃないか」
冷静に、あくまで冷静に今の状況を分析する。
巫女に宿った魂力は、俺からは全くと言っていいほどに感知できない。しかし、百武さんの肉体は本能的にその脅威を認識しているのか、その圧倒的な存在を拒絶するように鼓動を乱していた。
予想するに、魂力の質が隠すことに特化しているといった所か。だがその暴威を振るう対象である百武さん自身には、その隠すという力も使う意味はない。あくまで力の本質を見せるのは、百武さんのみなのだろう。なんとも都合がいい.... 周囲の観客にはその力を見せずに、百武さんを下すことに最適化したような概念だ。
しかし、いくら考えたとしても状況をどうにか出来るわけではないのも事実。
戦いの構図は、いうなれば”神対人”という圧倒的なまでに理不尽な様相をていしている。人の身で神に片足を突っ込んだヤツと対等に渡り合うなんて、天地がひっくり返っても不可能だ。だが、こちらとしても負けるなんてことは論外。
...思えば、大吾について行った時にも何かしらの魂力に準ずるスキルを使用していたのに、それを警戒できずに使わせてしまったのは、我ながら情けなさ過ぎるな。
まあ、そんな自戒は後の祭りだ。何とか誤魔化して勝つ方法を探さなくては...
そう思案しつつも巫女を視界の端に捉えていると、突如としてその姿が掻き消える。
「私にコレを使わせたのは...
EXランクを除いたらあなただけなのよ?」
蠱惑的でありながら威圧的。そんな声が耳元で聞こえた。
即座に呼び戻した槍を突き立てる。が、その切っ先は虚空を穿つのみで、視界の端にギリギリ捉えた濡れ羽色の長髪すらも一瞬で見失う。
次に気配を感じたのは正面であり、全身が死を予感するような魂力を伴う薙刀の打突が眼前に迫る。少しは研ぎ直された直感に従って身をよじり、地に刺した槍を軸にして回避するが、薄皮一枚かすっただけでも体感4割の身代わりが持って行かれた。
縮地で一時撤退しつつ身を潜めるが、それもいつまで通用するかわからない。今までの戦闘で巫女が感知系のスキルを持っていないことは分っているが、その気になれば周囲一帯を吹き飛ばすくらいはやってのける力を、今の巫女は得ているはずだ。
.....はぁ。
方法はある。しかし、それは俺の正体の露見につながりかねない。と、そんな自問自答をしている間にも、巫女は膨れ上がった能力値による暴力を手当たり次第に四方へ叩きつけている。
考えている余裕はないな。
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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作者の反応
〇スキル解説コーナー
⇒ 付喪神
武器に魂を付加し、その性能を格上げする。式神作成に近い。
⇒ 神楽舞
体内の闘気を増幅させる舞であり舞闘。舞の最中は常に莫大な能力値の向上ができ、その舞を捧げることで武技を強化して放つことが出来る。