105 舌戦を封殺する切札
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
↑
作者の反応
会場の熱気はピークに達し、二人が司会席から舞台へと移動しただけで、あるものはその覇気に息を呑み、あるものはその勇姿に拍手を送る。
両雄はそれぞれ上等な防具を装備しており、互いに長柄武器を携えている。巫女は着物と甲冑を融合した見覚えのある装備と薙刀を主武装とし、百武さんは重鎧と俺が持ち込んだ十文字槍を手に、それぞれが舞台の中央に相まみえた。
個人的には百武さんに勝ってほしい。しかし、百武さんと巫女の間にはレベル以上に隔絶した差があるのも事実だ。
EXスキルの数というのはそれほどまでに大きく、巫女はレベル1時点でEXスキルを3つ所持しており、レベルが250を超えた時点で更なるEXスキルを獲得しているはず。対する百武さんは多くて一つ、最悪の場合は未所持ということもあり得る。
「さて、どうなるか... 一応【風の報せ】も」
不穏な情報もあったので、取り敢えず精霊術によって聞き耳を立てておく。
この精霊術はアネモイが四つくらいしか教えてくれなかった精霊術の内の一つで、その分効果は折り紙付きの、EXスキルに匹敵するだろう技術だった。
風の魂力を操る方法、雷の魂力へ変換する方法、魂力による権能の防御、そしてこの”風の報せ”。風の報せは天眼通の聴覚バージョンといったスキルであり、簡単に言うと風を通して盗聴を行えるスキルだ。しかも耳で聞こえるだけなので、思考が圧迫されることもないという利点まである。逆に天眼通より劣る点と言えば、索敵には使いにくく監視や追跡の側面が強い所があげられるだろう。
ちなみに前三つの精霊術はリヴァイアサンとの戦いのために必須だったものの、普段使い出来る代物では無かったりする。
うん、今度また星川さんが使う精霊術のようなシリーズを教えてもらおう。そう決意したところで、俺はまた聞き耳を再開した。
「あなた... その武器は?」
「良い武器でしょう? 手に入れるために貯金がすべて吹き飛びましたよ」
「ふぅん... まあいいわ。それよりも、例の人物についての情報を吐く気になったかしら?」
「守秘義務がありますから」
「お堅いわね。陰陽寮が怖くないのかしら?」
「お上が動いたなら私に直接聞くまでもないでしょう。というか、貴方は神道派では? 鞍替えしたのなら、今すぐにでもその巫女服を脱ぎ捨てることをお勧めします」
「はぁ、見た目に合わず文武両道.... ほんとう厄介な人ね。でも、」
巫女は、懐から一つの巻物を取り出した。更にそれを広げるて言霊を紡ぐ....
『この決闘の勝者は敗者に対して質問権を持ち、敗者は真実をこたえなければならない。また敗者は、この決闘の一部始終を如何なる方法でも他者に伝えることを禁ずる』
あれは... 絶対契約書?
「絶対契約書は両者の同意無しでは使用できま 『締結』 ッ!?」
被せるような宣言と同時に巫女の持つ巻物が燃え上がり、両者の間に契約の鎖が繋がれた。
ッ.... 強制的に契約を発動した!?
何かしらのスキル? それとも.... よりランクが上のスクロールだったのか?
そんな疑問は浮かぶが、この状況は百武さんにとっても、俺にとっても都合が悪い。俺は情報を抜かれたら面倒くさいことになるし、なにより百武さんは俺から情報漏洩を禁じられたうえで強制的に質問権で情報を引き出されるという、どっちに転んでも契約違反の罰則を受ける板挟み状態だった。
唯一の回避方法はこの決闘に勝利する事のみ。
『手伝います!』
『かたじけないですが、私では勝ち目はないので助かります.... しかし』
『バレないようにやりますよ、秘策はあります』
『....信じます。では、こちらは何をすればいいですか?』
『俺を信じて、体の力を抜いておいてくれれば問題ありません』
そう伝える傍らで、俺は格納庫から神の呪縛を用意した。
【如意】【空間連結】
結界に阻まれた百武さんへと極細の糸と化した神の呪縛を繋げ、更にスキルを発動する。
【糸繰人形】【人形演舞】【没入】
取り敢えずこれで戦いの準備は整った。
手に握られた槍をころがし体感で筋力と敏捷を把握するが、特段の違和感も感じないので戦いの土俵には上がれるはず。
とは言え、今日まではこういった戦闘も大吾が最初で最後だったわけで、しかも今回は正真正銘の格上相手。更に自前のスキルを使うのはリスキーときたもんだ。
そんな現状を鑑みて勝率は五分五分といった所だろう。しかし、こんな状況で言うのは不謹慎かもしれないが....
ちょっと楽しみだな!
縛りプレイではあるものの、逆にそれが俺の闘争心を掻き立てる。巫女と百武さんのレベル差は50もない... つまりは、総合的な能力値にそこまでの差がないということ。であれば、俺の技量が勝負のカギとなるだろう。正直言うと、この前の暴君の戦い方は期待外れだったのだが、日本の奇跡だと称される巫女はあの薙刀でドラゴンを両断するとも聞く。
そして、この戦いは負けられない戦いとはいえど、生死をかけた戦いではないのだ。であれば力試しにも丁度いい。自分の剣術や魔法の運用が世界屈指の存在にどれほど通じるのか... 楽しみだ。
と、舐め回すような視線で無意識に相手を牽制する俺に対し、巫女は無意識のうちに後退った。
「ッ... 正直侮っていたけれど、海王殺しの三英雄は伊達じゃないようね。こちらも手加減は無しで行かせてもらうわ」
【神楽舞】
【全能力強化】
【付喪神】
うん、ひとまず巫女の口から飛び出した意味深な言葉は一旦置いておこうか。
目の前の巫女から立ち上る気配が爆発的に上昇するのが、物理的な衝撃を伴って感じられる。特に武器からは異質な気配がするし、先ほどまでの隙のない立ち振る舞いが、合理的な所作を含んだことによって闘気を増幅させる演舞を成す。
.......正直に言おう。勝率が一割くらいになったわ。
キング 百武 ??? ⇒ 海帝竜の直接討伐者(60話の後書き参照)
討伐時期が主人公が海王を倒した時期と被っていた。
絶対契約書を強制締結した方法 = 不可抗力(エルも所持)