103 決勝戦... の前に
最初の試合から一時間ほどが経ち、現在は決勝戦前の休憩時間。そんなタイミングで、どこからともなく声が聞こえてきた。
『早川さん.... 急用がありまして... 私の所まで来ていただけませんか?』
以心伝心... この声は、百武さんか?
『わかりました』
虚影と神足通で控室のような場所まで忍び込むと、声の主である百武さんが申し訳なさそうな顔をして立っていた。
「急な呼びかけに応じてくれて、ありがとうございます」
「いえ、いつもお世話になっていますので... ところで、どんな用件ですか?」
少しの沈黙の後、百武さんは口を開く。
「前置きは必要ありませんね。簡潔に言うと、巫女に早川さんを嗅ぎまわられていることについてです」
「へ?」
「交流試合の打ち合わせの後に.... なんとかその場は煙に巻きましたが、まだ諦めてはいないでしょう」
直接的な面識は無かったはずなのだが....
「大量のハイポーションにB~Aランクの武器、それに例の魔石の件もありましたからね、どこかしらで嗅ぎつけられたのかもしれません」
「マジですか....」
「まだ確実な証拠は無いのでしょうが、早川誠についての情報を吐けと... 最近はクランという探索者の団体が作られるようになって勢力争いが激化していますから」
ハイポーションは結果的に10本前後しか納品していないので、そこまで目立つこともない。それに武器に関しては、組合名義でのオークションにかけられたので、個人の特定はできないはず。あと、百武さんは絶対契約書によって情報漏洩を禁じられている。であれば.... やっぱりオロチの件だろうなぁ。
「本当に申し訳ない....」
「いえ、なんかタイミング的にこないだの特異個体のせいな気がするので。それに、いざという時はこれを使います」
そう言って取り出したのは、この前にキングに売ったアイテムの代金として贈られた”絶対契約書”だ。いい具合に使えば黙らせるように契約を結べるだろう。しかし、百武さんは少し苦い顔をしている。
「巫女単体が相手ならよかったんですが... 巫女のバックについている団体が厄介でして、そこから命令されて私に質問してきているとすれば、根元を立つのは不可能に近いでしょう。ですが、そうならもっと直接的な方法がいくらでも取れるはずで、少しばかり不思議なんですよね」
「そんなにデカい団体なんですか?」
「探索者組合や国際迷宮対策連合がここまで早く組織されたのが、そこを含めた三つの団体による推進の結果です。少なくとも国家に物申せる立場にはいるでしょう。あとは、探索者高校もそこによって設立された、国立の皮を被った私立の学校です」
いや、どんな組織だよ。事実上の探索者組合の上部組織じゃないか。というか、それなら百武さんを通さずに俺のライセンス情報をすっぱ抜いた可能性がでてきたぞ。
「普通にライセンス情報を見られたんじゃないんですか?」
「であれば普通に住所とかの情報も割れるので、私を通さずに直接早川さんを訪ねることもできます。でもそれをしないという事は、巫女と一部の構成員が独断で勢力を作ろうとしている.... もとい有力者を勧誘しようとしている可能性が高いと。そう私は睨んでいます。が、あくまで可能性ですね」
「.....最悪の場合は?」
「隠者であるという情報はオフレコなので絶対にバレていませんし、ライセンスにも遭難したダンジョンは土浦ダンジョンと正式に記録されています。なので最悪の場合でもバレているのは納品したハイポーションと武器に関することだけ、であればいくらでもこちらで言い訳は効きます。もしかしたら直接の接触もあるかもしれませんが、話しに応じなければいいだけです」
「なる... ほど?」
あくまでバレているのは俺の活動記録だけという事か。であれば今の俺の認識はAランクの元迷宮遭難者と言ったところだろう。国内にAランク探索者は千人を超えているので、必要以上に勧誘してくることもないはずだ。であれば.... いや、あと一つ心配事があった。
「例の魔石はどうなりましたか?」
「AMIに買い取られました。既に新しい魔力発電の炉心として運用予定です」
「魔石をドロップした元のモンスターのレベルを測る技術ってあったりしますか?」
「....今の所、そのような技術は発見されていませんね。最高位の鑑定スキルでも、種族名までが精々です」
確かに、俺の”精査”でも不可能なことなので、オロチがレベル400オーバーだという事も、バレている可能性は薄いか。
「ちなみにですが... 例の特異個体はどれくらいのレベルだったんでしょうか?」
「レベル400とちょっとですね」
「Aランクダンジョンのボス相当....」
「あと、異常個体のレベルって基本どれくらいなんですか?」
「今のところ.... 東京ダンジョンでは、13層の牛頭がレベル91、21層の天狗がレベル110、41層のベヒモスがレベル218が確認されてますね。なので今回の魔石もレベル150相当として取引されたんですが..... そこのところはまた今度お話ししましょう」
まぁ、最後の心配事も大丈夫そうなので、これからは少し大人しく日常を謳歌していれば問題はないだろう。
「わかりました。何か今回の件に関係して、武力が必要な事態になればすぐに呼んでください。もちろんこちらの存在は全く匂わせないように何とかします」
「ありがとうございます。重ね重ね、今回は本当に申し訳ありませんでした」
「いえ、嗅ぎまわられているとは言えど、あくまでAランクの探索者としてなら問題はありませんよ。こちらとしても何か対策として.... そうですね、どこかしらのクランに所属すれば収まるでしょうし」
「なるほど、それなら勧誘であっても正式に断れます。では、都合のいいクランを紹介しましょうか?」
「あー... 一応目星はつけてありますので、大丈夫です」
「わかりました」
10分ほどの話し合いを終え、そろそろ時間は13時40分を指すころ合いだ。百武さんはそのまま司会者席へと戻り、俺は気配を消して観客席へと戻った。
作者の頭の中がこんがらがっているので、矛盾点があれば感想でチクチクしてください。
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ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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