99 クリップの錬金術師
色々とアクシデントがあったものの、特に学校での生活が変化することはない。俺は時間ギリギリに登校して、朝のホームルームを時間割を見ながら聞いていた。
そして、一時間目が開始される。
ちなみにそのコマは、『班活動』。昨日一日の活動内容とをレポートのように書いて提出なのだとか。
「......」
がやがやとした喧騒に包まれた教室のドアが開き、先生が顔を出す。しかし、その表情は神妙さを帯びており、その雰囲気を察したクラスメイト達は、自主的に席に着く。
そうして先生が話を始めたわけなのだが.... どうやら今日はレポートの提出は無いようだった。
「まず今回の授業では、いつも通りの班活動ではなく、つい昨日起きた出来事についての話をしておこうと思います」
しかし、ちょっと嫌な予感がしてきたのは俺だけかな?
「昨日の13時頃、30層の階層ボスの異常個体が確認されたそうです。現在で、階層ボスが強化される現象は初めて確認されたものであり、そのような個体は特異個体と呼称されることが決定しました」
うん、昨日のダンジョンでのことだね。情報回るの早すぎだろ。
「これに伴い、10、20階層でも転移結晶のレンタルが義務化されることも発表されました。なので今回の授業では、転移結晶の扱い方。並びにイレギュラーに遭遇した際の対処についてを教えていきます」
だがそれ以上の情報開示は無く、俺にとっては幸運なことに、午前のコマが全てこの授業で潰れてくれた。
ちなみに授業では、東京ダンジョン内に縄張りを持っているユニークモンスターのことなども知ることができた。なんでも、その縄張りの周囲一帯には警戒網が貼られており、近づくと自動的にダンジョンスマホに通知が行くのだとか。
...リヴァイアサンしかり、オロチしかり、ユニークモンスターは高ランクのアイテムをドロップすることが多いので、ちょっと気になる。
だが、そんな興味も午後の授業の微睡に消えて行いく。
そうして、今の時間は放課後の午後4時。
「えーっと、ここが... 技術棟かな?」
俺は今、大学側に建てられている技術棟... 放課後は製作部の部室として使われる建物を訪問していた。
ちなみにこの探索者高校は、生徒全員が部活動に参加することを勧めており、それによって健全な協調性をはぐくむとかなんとか... なんとも有難迷惑な話だ。
そうしていろいろな部活動の部誌に目を通し、一番目に留まったのがこの”生産部・武器製作班”。
なんでも、生産部は生産系のスキルを用いてダンジョン産のアイテムを研究、製作することを目的とした部活であり、生産部という大枠の中に”武器製作班”、”防具製作班”、”素材研究班”、”迷宮薬学班”、”錬金班”という五つの班が存在すると、部誌には書いてある。
そして、その中でも武器製作班は、ダンジョン産武器の加工やアタッチメント製作、生産スキルと鍛冶を融合した武器の制作、設計などを主な活動内容としているらしい。
俺の行っていた、護龍やマッチロックの製作... これに足りていなかった、基礎的な武器の設計をここで学べるかもしれないと思い、ここに足を運ぶことにしたのだ。
技術棟は活気に満ちており、鉄を旋盤で加工するキーンという音から、実際に鉄を叩くような連続したカーンという音まで、色々な音が聞こえてくる。
「よし、ここか」
そして、俺が入部届を書いた武器製作班の部室は一階の最奥。顧問の先生もここにいると聞いていた。
礼儀としてドアを二回ノックし、ガラガラと音を立てて扉を開ける。そこにいたのは...
「郷田さん?」
無意識に口にしていた名前に、その見覚えがある顔をした人が反応する。
「確かに私は郷田だが... 君は高等部の方の生徒さんだろう?」
しかし、その声は武器屋に居た人とは全く違った。清涼感のある声をしており、髪の毛も生えている。ただ、顔と体格は武器屋であった郷田将司さんに瓜二つだった。
「あ、はい。3年の早川です。あと、多分人違いです。すみません」
「....もしかして、兄の方かな? あの東京ダンジョン地下街に店を構えている方の」
「そうだと思います。そこで色々と買い物をさせてもらいました」
「なるほど、なかなか腕がいいようですね。武器製作班の顧問をしている郷田仁志です。うちは入部に少し条件がありますが、それさえ満たしていれば大歓迎ですよ」
ん? 入部条件があるというのは部誌にも載っていなかったな。
「その、入部条件とはどんなものでしょうか?」
「簡単に言うと、生産系スキルを持っていることが条件です」
「なるほど」
「持っていれば、そのスキルの効果を教えてもらうか、実演できるならそれが一番です」
「え? スキルを開示するんですか?」
多くの探索者が言っていることだが、スキルというのは個人情報のようなもので、むやみに開示してはいけない情報だ。その理由として、ダンジョン内では対人戦闘がおこることもあるから、というのが挙げられる。
現在の探索者の中には、証拠の残りにくいダンジョン内で人狩りを行う迷宮犯罪者が、確かに存在していた。そのため、己のステータスを他人に教えるというのは、いわば自らをカモだと宣伝する行為なのだ。
しかし、次の先生の言葉は、俺とって目からウロコだった。
「生産スキルは戦闘の役に立ちませんからね」
「あ... なるほど」
考えてみれば、そりゃそうだ。
別に生産スキルが戦闘に役立つことなんて、俺のような特殊なスキルでない限りはあまり無い。しいて言うなら、生産スキルを獲得した分、他のスキルが幾分少ないと分かる程度だろう。
であれば、自分が武器製作で常用するスキルかつ、戦闘に役立たないものに絞って、今実演するならこのスキルだ。
【錬成】
先生に了承を得て、机に置かれていたクリップに対して【錬成】を発動する。
すると、瞬く間にクリップは一直線の棒になり、そこからグニャグニャと歪み、ミニチュアサイズの剣に姿を変えていた。
錬成は俺がマッチロックを作るために使ったスキルのうちの一つ。これを用いて、ヒヒイロカネやミスリルを加工し、銃身とグリップを作り上げたりもした。そして、この上に魔改造で他のアイテムからスキルを移植していくことで、マッチロックは完成したのだ。
「これは... 成形の上位スキル? 何にせよ、かなり製作の役に立つスキルですね! 入部に関してはこれで... あとは学年の先生に提出をお願いします」
入部届の顧問欄に、ハンコを押してもらえた。
「では、顧問としてまず一つ聞きたいことがあります。早川君は、どんな武器を作りたいんですか?」
「銃を作りたいです」
「...それはまたニッチな武器ですね。しかし丁度、うちの部には銃を作りたいという人がいますよ」
「そうなんですか?」
「はい。うちの部では共同研究や共同制作を推奨していて、色々なスキルを組み合わせることで新たな武器を作る... これを部活のスローガンにもしていたりします。今日は来ていないようなのですが、話してみると色々と参考になるかもしれません。それに、早川君のスキルは生産系の中でも特に役立つスキルなので、お互いに協力して一つの作品を作り上げるというのも良いかもしれませんね」
それから少しの間話して、俺は部室を後にした。この後は職員室に入部届を出して、正式に俺は武器製作班に入部することができた。
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感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
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