97 レコーダーは必須装備
八重樫さんが黒い笑みを浮かべてハイになっていたので、少し3人で休憩してからダンジョンを脱出することにした。
5分ほど休んで、俺がオロチを倒すのに使った時間と合わせると、七光りが逃げてからの時間で10分ほど。オロチを倒した場所に三人で戻ると、以前はぬまで隠れていた洞穴に黒門があり、そこから30階層を脱出した。
そして、いつも通りにダンジョンの入場口。ぼんやりと光る魔法陣の上に転移されたわけだが、そこからでも情けない声が聞こえてきた。
「痛てぇ! おい! 俺の親父はAMIの社長だぞ!? 組合の魔石をどれだけ買い取ってると思ってんだ!」
....三下セリフいただきました!
それにしてもAMIって、たしか魔石産業の先駆けを担った上場企業... 組合との早期提携によって魔石の技術開拓をリードしたとかいう、結構な期待株のはずだ。
しかし、魔石の供給先はいくらでもあるのに対して、魔石の供給元は組合が一手に引き受けている現状..... 契約を切られたらどうするんだ? 身内の不祥事で社長が辞任とかになるのでは?
株を今のうちに売却しておかねば...
「異常個体が出たんだよ! 俺以外はみんな一瞬で殺されて、俺は命からがら逃げて来たんだよ!」
そのセリフが出た途端に、八重樫さんはその集団に近づいていった。
「なるほど、私たちが異常個体に殺されたと?」
「へぇあ!?」
周囲の七光りを取り押さえていた警備員さんたちが、状況を察知して俺たち三人にライセンスの提示を要求する。
やましいことなど何もない俺たちは、ライセンスをすぐに警備員さんの持つ機械にかざした。
ピピピピ....
認証が済むと、きちんと七光りと俺達の四人パーティーが30層に潜っていたという証拠が表示される。
しかし七光りは、なおも御託を並べ続けた。
「異常個体なんて出たわけがないだろ? こいつらが戻ってきたのがその証拠だ。俺は間違って転移結晶を使っちゃいまして.... きちんと弁償はしますし、こちらの不手際の方は示談で慰謝料を払わせていただきますから。ね?」
凄まじい手のひら返しに、その場の誰もがあきれ返ってしまっている。
たしかに、パーティーメンバーを故意に死地へと置き去りにしたよりは、間違えて転移結晶を起動した.... という方が罰は軽く済むし、ライセンスの一時停止で済ませられるだろう。
....まぁ、周囲には証人がわんさかいる訳だが。
そんな既に決着がついたという雰囲気の中、八重樫さんは更に七光りを追い詰め始めた。
「まずはこちら、異常個体の魔石です。あと、帰還時間の差異、並びに現場での単独逃亡の様子は、こちらのアドベンチャーレコーダーをお渡ししますので、証拠として押さえておいてください」
ちなみにアドベンチャーレコーダーとは、ドライブレコーダーの冒険バージョンのようなもので、ダンジョン内の映像を記録するための映像記録装置だ。
映像記録に、変異種出現の証拠.... 完全に王手がかかっている。
しかし、引き渡したレコーダーを警備員さんが事務所まで持って行っても尚、七光りはあきらめていなかった。
「はぁ!? ユニークモンスターァ? そんな階層ボスがいたとして、お前らに倒せるわけねぇだろうが! その魔石も、元から持ってたに決まってるだろうが!」
だが、そんな言葉にひるむことなく、八重樫さんは慰謝料の勘定を始めている。
「迷宮法での、ダンジョンを利用した殺人未遂。転移結晶を独断で使用。おまけに虚偽報告。ライセンスの永久剥奪は免れませんね」
その言葉で更にヒートアップした七光りだったが、次の言葉を発する前に警備員さんによってさるぐつわを装着させられた。
まぁ、さっきから周囲に向かって威圧をガンガンに放っており、帰還した低階層を探索していた人が何人か気絶する事態に陥っていたための措置である。しかし、それでもなお暴れるので、遂にはマナアイテムでの拘束まで掛けられる事態になっていた。
その見た目は、さながらエビのような...
思考制御が無ければ俺は爆笑していただろう、そんな惨めな姿だ。
そうして、事務所で確認をしていた警備員さんが戻ってくる。
「証拠が確認できましたので、彼はこちらの方で拘束し、能力者警察へと引き渡します。一応この後に軽い事情聴取がありますので、ご同行いただけると幸いです」
「もちろんです」
その後、今日の出来事を粗方... 戦闘シーンだけはぼかして話しておいた。影界も使っていたので、俺の戦闘は撮影されていなかったし、Aランクだからギリギリ討伐できました! という事で、意外と何とかなってしまった。
それに、聴取の途中で乱入してきた百武さんのおかげで、オロチの魔石(特大)の方も無事に換金出来る運びとなった。うん、まぁ今度依頼を受けることになったけどね。
AMI 先進 魔力 産業(株)