94 一般通過ヤマタノオロチ
祝 エピソード100! (百話ではないです)
リアクション 喜び Lv.1
ブックマーク 喜び Lv.2
評価 喜び Lv.3
感想 歓喜
レビュー 狂喜乱舞
↑
作者の反応
15分ほどの小休憩を挟んで、やっと30階層の攻略に取り掛かることになった。
EランクのアイテムであるSP回復薬とMP回復薬を各自で補給し、四人で足並みを揃えてゲートをくぐる。少し前に大量のモンスターから助けたことで、七光りは少し態度を軟化させており、黙ったままなのは変わらずだが、きちんと全体と歩幅を合わせてくれるようになったのも追い風だ。
「よぅし! 気合い入れていきましょうか!」
「頑張りましょう」
そうして黒門をくぐると、鼻をツンと突く匂い... 腐臭のようなものが感じられた。
そこで俺はすぐに察してしまった。
....イレギュラーだな。
少なくとも、事前情報として調べたことの中には、30階層にこんな腐臭があるなんてことは無かった。
探索者になろうwikiには30階層までの情報はかなり多く公開されており、探索者組合でも専門家による地図などが発行されている。一応それら全てには目を通しておいたのだがら、何かしらのアクシデントなのは確実だ。
周囲は濁った霧に包まれており、地図を頼りにしてボスの定位置を目指すが、一歩進むごとに腐臭に混ざった刺激臭が濃くなるのを感じる。
....毒か? しかし、他のメンバーは特にダメージを喰らう様子が無いな。
そうして、地図に示された地点。ポイズンスネークがいるという、大きな岩穴があるという地点についた。
しかし、そこには大きな岩穴など存在しておらず、在るのは足の脛がつかるくらいの泥沼だけだった。
「これはおかしい... すぐに撤退を!」
そう八重樫さんが呼びかけ、俺も肯定するように首肯する。しかし、七光りはそれを良しとしなかった。
「だめだ。転移結晶は一個で500万近くするんだぞ? アンタが払ってくれるのか? パーティーリーダーの指示に従って、このまま探索は続行だ」
「しかし!」
この野郎、俺ら三人を前にして、一人だけ後ろの方に陣取ってるくせに厚かましいな。
そう二人が言い争いを始めかけたその時、周囲の霧が一瞬にして掻き消え、視界が広がった。
「「「「!?」」」」
姿を現したのは八本の首を持つ大蛇。そして首の内何本かは、赤と紫に染まった肉塊を咥えていた。
その威圧感にこの場の誰もが硬直している。俺以外は...
「迷宮氾濫... しかも、よりにもよって一個体の強化。異常個体だ」
俺がそう言うと同時に、大蛇は一つの首から濁った水の玉をこちらに放つ。
【操影】
その水玉を周囲の影を集めて壁にしたもので防ぐが、その影はジュクジュクと音を立てて溶けてしまった。
『起きろ!』
取り敢えず、大蛇の威圧によって硬直してしまったパーティーメンバーに、それ以上の威圧を当ててその硬直を解いておく。
「「「かはッ」」」
呼吸すらも止まるような威圧がやっと解けたことで、3人は空気を求めて荒い呼吸を繰り返した。
出来れば自分でこの場から離れて、そこで転移結晶を使う準備をしていてほしい所だ。糸繰人形を使ってもいいが、三人の操作は流石に骨が折れるし....
「足止めはします。いったん離脱して、転移の準備を!」
「は... はいッ」
有無を言わせないように威圧を含めた声を出しつつ、目線では大蛇を牽制しておく。コイツは俺以外を餌としか認識していないらしく、俺以外には警戒を割いていないので、離脱自体は出来るだろう。
しかし、そこで少し離れた所にいた七光りは、本当に馬鹿なことをした。
「無理だぁ...ッ あんなの、勝てるわけがないぃ!」
そう言って取り出したのは転移結晶。しかし、アレは5秒ほどの接触が無ければ使えないはず... まさか!?
次の瞬間、周囲がまばゆい光に包まれ、七光りは姿を消していた。
「あんの野郎ッ!」
「....ッ!」
「ふぇ!?」
やりやがったアイツ... 一人で逃げやがった!
一瞬、殺意が芽生えるが、耐性が精神異常を無効化し、思考制御が今すべきことを導き出す。
....いや、冷静になれ、俺。あのバカの処遇は後だ。援護も期待できないし、転移結晶はもうない。
選択肢は戦うのみ、ならまずは敵の把握からだ。
【精査】
⇒【種族】八岐毒竜《ヒュドラ》 Lv.430 【Name】 オロチ
【状態】- 【称号】 守護者(東京ダンジョン:30階層) 異常個体
◇ 能力値
HP 4820/4820 MP 5011/5518 SP 3064/3064
筋力 3754 魔力 4504 耐久 4172 敏捷 2476
◇ 耐性
⇒無効
状態異常無効(EX) 精神異常無効(C)
⇒耐性
物理耐性(A)Lv.12 水属性耐性(B)Lv.32
苦痛耐性(D)Lv.21 恐怖耐性(E)Lv.13
◇ 種族スキル
不死再生(EX)Lv.5 毒袋(EX)Lv.3 龍鱗(S)Lv.8 龍魔力(S)Lv.5
◇ スキル
・武技スキル
⇒牙術
天抉(A)Lv.6 万力(B)Lv.5
ファングブレイク(C)Lv.11
⇒鞭術
頭突き(D)Lv.5 連打(D)Lv.8
・魔法スキル
⇒毒属性
神毒(EX)Lv.5 毒沼領域(S)Lv.10 侵蝕毒(S)Lv.7
神経毒(A)Lv.2 毒性遅効(B)Lv.2
毒霧(C)Lv.13 毒牙(C)Lv.11 毒弾(D)Lv.21
⇒水属性
過重水砲(A)Lv.2 水刃(C)Lv.5
・特殊スキル
⇒パッシブ
猛毒身体(EX)Lv.2 自動回復(S)Lv.11
毒龍(A)Lv.8 熱源感知(B)Lv.7 沼走り(D)Lv.5
⇒アクティブ
毒喰(EX)Lv.3 縄張(EX)Lv.2 覇気(A)Lv.5
設定が大渋滞してるな.... ヒュドラなのか、八岐大蛇なのか、どっちかわからん。
だが、強い。
今のこちらの戦力は、俺、因幡さん、八重樫さんの三人。だが、毒喰のスキルが因幡さんの武器スキル、”心毒”にまで影響するなら、彼女に攻撃してもらうのは悪手だ。
他にも、毒霧や毒沼のスキルが周囲の状況を生んでいるなら、つまり毒性遅効で二人に見えない毒が蓄積されているという事。二人は早々に離脱させなければならない。
あとは、どうこいつを処理するかだが.... 二人が離脱してくれれば話は早い。申し訳ないと思いつつもばれないように二人を精査した結果、両者ともに高位の鑑定系スキルは持っていなかった。
これなら、こいつがレベル430だという事もバレないし、俺がそれを倒しても、意外と何とかなった! で済ませられるだろう。
よし、この方針で行こう。
と決めたのだが...
オロチは、滑るように沼を走り、こちらに接近してきた。対して俺は前方に糸を張り巡らせようとして...
「危ない! 早川君!」
と言って、八重樫さんは俺とオロチの間に割り込んだ。
「【守護の盾】えぇぇぇッ!」
八重樫さんの盾は、オロチの天抉を受けきっていた。しかし、レベル差を覆すことは出来ずに、盾はひしゃげて本人は吹き飛ばされ、沼に沈んでいった。
「!」
そして、すかさず因幡さんも隠密状態を解除し、オロチの首の一つへと短剣を穿つ。
【不意討】【天穿】!
しかし、その攻撃によって噴き出た血潮が、因幡さんへとぶちまけられる。
「くッ 【網糸結界】!」
俺は何とか糸の結界で因幡さんを包んでその血を防ぎ、そのまま八重樫さんも包み込むと、二人を毒沼の外まで吹き飛ばした。
『因幡さん! こいつは俺が仕留める、先に八重樫さんの回復を! 毒回復もだ!』
糸と一緒に解毒ポーションをありったけ入れておいたので、ある程度の時間稼ぎにはなるだろう。そして、俺はこいつの相手だ。
「シュルルルル.....」
戦況は一対一に持ち込まれ、再びにらみ合いが展開される。
....最近は鬱憤もたまっていたし、こいつで憂さ晴らしをさせてもらおうか。
迷宮氾濫
スタンピードには二種類があり、異常な数のモンスターがダンジョン内に生成されるパターンと、異常個体という前者のリソースが一体に注がれた、階層に合わないモンスターが生成されるという二パターンがある。
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