8 新しい仲間
緑の大地、むせ返る土のにおい、照り付ける太陽。黒い門の先には、そんな景色が広がっていた。
「は?... 外に出たのか?」
一瞬そう思ったが、その考えはすぐに消え失せる。なぜなら、強化された視力であたりを見回したところ、ファンタジー物の定番である豚頭で緑色のオークが見えたからだ。
「マジかよ... オークじゃん」
5匹ほどのオークは何かを追いかけているようで、手に持った松明や棍棒を振り回している。そこで俺は火のついた松明と、オークの腰にある水の入ってそうな革袋に目を付けた。
「あの二つは絶対に手に入れたいな...」
ダンジョンで目覚めてから体感で5時間くらいか... いや、気絶していた時間を含めたらもっと経っているかもしれない。それだけの時間飲み食いして無いので、喉は乾いたし腹も減った。しかし、あの火さえあれば、持っている謎肉も調理できるだろう。
だが、一つだけ問題があった。それはここは森であり、地面には様々な物が落ちているということ。そして俺は裸足、つまりは歩けない。
無理すれば行けなくは無いのだろうが、こんな土地勘もない場所で擦り傷を作って、感染症やらにかかったら目も当てられない。
しかし、その解決策は意外とすぐに思いついた。
「...あ! なぁフェル 乗せてくれないかな?」
「ウォン」
景気のいい返事が返ってきたので、試しにフェルの背中に飛び乗ってみる。うん、毛並みが良いおかげで乗り心地は素晴らしい。あと、あの2メートル以上はありそうなオークを狙うならこれくらいでちょうどいい高さだろう。
「フェル 行くぞッ!」
その掛け声と共に、フェルはものすごい速さで木々の間を駆け抜けていった。上に跨っている俺に配慮してスピードを落としてくれているが、それでもとてつもない速さだ。
「プギィ?」
「グボォアッ!」
そのまま、バランスを取りながら剣を構えて、オークの首を狙い一閃。乱暴にオークの首を切り裂こうとするが、剣は首の半分ほどしか食い込まなかった。そこでもう一度剣を振り抜き、やっとオークは光となって消えて行った。
「プゴォォォアァァ!!!」
叫び声が聞こえたのでそちらを向くと、声の元のオークの膝に氷の槍が突き刺さっている。
「ナイスフォロー!」
そのままフェルはオークへ向かっていき、すれ違いざまに今度はスキルを使ってみた。
「【斬撃】ィッ!」
まるで豆腐を切るような感覚に、一瞬だけ狙いを外したかと思った。そんな、自分の剣の技術では絶対にできないような、ブレのないきれいな太刀筋で放たれた剣撃により、切られた首はオークの体に乗っていた。
「すっげー」
本当にそれしか感想が出てこない。そのまま残りのオークの首も切り落としていき、ものの一分でオークは全滅した。
「ひえっ 殺さないでくださいまし...」
一息ついたところで、不意に日本語が耳に入って来た。声の聞こえるほうを見ると、そこには氷の檻で囲まれている真っ白な狐が身を縮めている。
「今、話したのはお前か?」
「そ... そうです」
狐はたどたどしくも受け答えをする。結構かわいい気もするが、どうも俺の口調は荒くなっている気がする。まだ短いダンジョン生活の中なのに、もう結構荒んでしまったのだろうか?
ぴぃ... と悲鳴を漏らす狐のせいで、少しメンタルが揺らいでしまった。いったん気を取り直そう。まずは... 質問からだな。せっかく話せるんだし。
「なんで話せるんだ?」
「妾は知力の能力値が高いのじ...です」
話してる途中で軽くフェルが唸ると、またもや狐は体を縮こまらせて口調を変えた。
「知力の能力値? そんなものがあるのか。」
少なくとも自分の【解析】では見たことのない項目だ。
「はい... 鑑定系のスキルでレベルが高ければ、見られるようになりますぅ!」
「なるほど」
どうやら俺の解析のスキルはまだレベルが1のため、見ることができないところがあるようだ。いい情報を得ることができた。
「一つ質問があるのですが...」
「え?」
「ひッ... 殺さないでくださいぃ!」
「いや、流石に意思疎通できるやつは殺りにくいよ」
随分と怖がられているらしい、俺を出会い頭に殺してくるような... 通り魔か何かだと思っているのだろうか?
...あ、オークは出会い頭に首切ってたな。
「で、質問って?」
狐は意を決したように質問を口にした。
「其方のお方は貴方様の従魔なのですか?」
「ああ フェルのことなら俺の式神だな」
ここで、さっきまでは怯えていた狐は急に声色を変えて話し始めた。
「こ、ここであったのも何かのご縁。妾を貴方様の配下に加えてくれませんか?」
「どういうことだ?」
「其方の狼王の兆しを持つ御方を従えられる貴方様の従者の末席に、ぜひ妾を加えてもらいたいということにございます」
......言っていることはややこしいが、要約すると、
・・・
なんと やせいのきつね が
なかまになりたそうに こちらをみている!
なかまに してあげますか。
▷ はい
いいえ
なるほど、つまりはこういうことか。
確かに今の状態で、話ができる仲間というのはかなりありがたい。無人島で遭難したら、孤独感で気がおかしくなる、みたいなことを聞いたことがある。
それに、このダンジョンの事を質問できる相手が手に入るというのもかなりの利点だ。
「ひとまず ステータスを見てもいいかな?」
「わかりました」
【解析】
⇒ 【種族】 野狐 Lv.107
【Name】 -
【進化数】 0
【状態】恐慌
◇ 能力値
HP 340 / 492 MP 521 / 910 SP 125 / 684
筋力 341 魔力 892 耐久 263 敏捷 1052
◇耐性
疲労耐性(D)Lv.6 毒耐性(D)Lv.2
◇種族スキル
仙力(S) Lv.8
◇ スキル
・武技スキル
⇒移動術
疾走(D)Lv.4 天駆(B)Lv.3
・法術スキル
⇒回復
完全治癒(A)Lv.3 解毒(C)Lv.1 中位回復(C)Lv.6
⇒補助
全能力強化(S)Lv.3 加速(D)Lv.8
・特殊スキル
⇒パッシブ
韋駄天(A)Lv.6 第六感(B)Lv.1 魔力強化(C)Lv.9
⇒アクティブ
予知(S)Lv.4 隠身(A)Lv.13 知恵の瞳(B)Lv.11
「すっごい極振りステータスだな、でもスキルのランクが全体的に高い」
「はい! どうでしょうか?」
このくらいスキルがそろっていればかなりの戦力になるだろうし、フェルと俺が攻撃型なのに対しての回復型。いいバランスだと思う。
「わかった とりあえず試してみよう」
【式神作成】
二回目ということもありフェルの時とは違った、何か狐と俺の間にパスのようなものがつながる感覚がする。
「これから誠心誠意、仕えさせていただきます。せっかくなので名前を付けてはもらえないでしょうか?」
「名前を付けることに何か特別な意味があるのか?」
「はい。従魔や召喚獣に名前を付けるという行為は、互いの繋がりを強め、それが格上からの名付けならば、その存在の格が上がることもあるのです」
さっそく有用な情報を知ることができたし、それではいい名前を付けたほうがいいな。まあ、いつまでも狐とか呼んでても微妙だし、元々つけるつもりではあったが。
そうして少し悩んだ末、昔に教えてもらった日本の昔話の狐の名前が思い浮かんだ。
「そうだな... じゃあ今日から君の名前は葛葉だ」
「クズノハ... いい名前をありがとうございます!」
するといきなり葛葉は光りだす、これは少し前にも見た光だ。
【解析】
⇒ 【種族】 気狐(New!) Lv.107
【Name】 クズノハ(New!)
【進化数】 1
【状態】高揚
~
◇ 種族スキル
神通(EX)Lv.1(New!)
「おぉ! 種族が変わって、しかもスキルが S から EX に上がってる」
「すごいですね! 感謝致しますご主人様!」
「気に入ってくれたなら何よりだ。ちなみにこの名前は、昔話の一つに白い狐を助けるっていう話があって、その話で出てくる狐の名前からとったんだ」
「なるほど、いい名前ですね。ご主人様と妾にピッタリです」
「じゃあ、これからよろしくな」
「はい!」
「グオゥ」
フェルも勢いよく反応した。どうやらクズノハのことを仲間と認めてくれたらしい。




